AIがようやく「社会の一員」となる──電通が予想するAIの2020年

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2019年における各種報道の通り、AI技術はコモディティ化が進みつつあることが示された。そんなAIは2020年、どのように社会に浸透していくのだろうか。電通のグループ横断プロジェクト「AI MIRAI」を統括する児玉拓也氏は、2020年「AIが人間の仕事を奪う」のではなく、「AIを使えない企業が、人間を奪われていく」と指摘する──。同氏による寄稿をお届けする。

みなさん、こんにちは。電通 AI MIRAIの児玉です。

電通のグループ横断プロジェクトである「AI MIRAI」を結成し、さまざまなソリューションの開発や提案に取り組んで早3年。この3年のあいだに、AIを取り巻く環境も大きく変化してきました。電通は「ユーザー企業」と「ソリューション提供企業」の両方の側面を持ちながら、AIを乗りこなすためにさまざまな情報発信をしてきました。



早いもので2020年もすでに3週間経っていますが、遅ればせながら今日は今年のAI業界のトレンドについて、できるだけ電通らしい視点から想像してみたいと思います。

ところで、年末の「紅白歌合戦」に出演(?)された、AIで復活を遂げた美空ひばりさん、ご覧になりましたか?

【AI美空ひばり】紅白出場!制作の舞台裏を描いたNHKスペシャルの拡大版を放送!(外部リンク)

感動した、勇気をもらったという意見から、少し怖いとか、本人が意図にかかわらず「復活」して歌唱することに対する倫理的な意見まで、賛否両論ありましたね。

私はこれを見て、「ああ、本当に2019年らしい、象徴的なプロジェクトだな」と感じました。2018年でもなければ2020年でもない、2019年という年を的確に表わす出来事だったと思います。

そのあたりをとっかかりに、2020年そしてこの先起こるトレンドの2つの大きな方向性について、示唆をしていきたいと思います。

①2020年。AIは、社会課題に立ち向かう。

Photo by Jason Blackeye on Unsplash

ところで、2019年に、AI以外にも大きなトレンドがありました。IoT?量子コンピュータ?それも大事なのですが、私がもっとも気になったのは、「SDGs」をはじめとする社会課題に対する向き合いです。

2019年は、日本におけるSDGs元年ともいえる年でした。かつてより、CSVの重要性やESG投資というキーワードは出ていましたが、2019年はさまざまな企業のあらゆる活動において、SDGsが重要視される年になったと感じています。9月23日の「国連気候アクション・サミット2019」で発せられたグレタさんの演説も大きな話題になりました。「持続可能な社会」「格差の解消」などの社会課題への取り組みは、企業価値を測る大きなテーマとして本年も話題になりつづけるでしょう。

電通の「本業」でもあるマーケティング領域では、「パーパス・ブランディング」がグローバルのトレンドになっています。単なる機能やユーザーメリットだけでなく、そのブランドが目指す「パーパス=社会に対する存在意義」を定義し、共感を通してブランドの資産につなげようというムーブメントです。これも一つの、社会課題に対する立ち向かい方と言えるでしょう。

さて、AI業界はどうでしょうか。

今までは、AI自体のもっていたキャッチ―さ・PR性もあいまって、自社の業務改善から新規事業、純粋なエンターテインメントまで、さまざまなレベルの企業活動が「AI活用」として、玉石混交に発信され続けてきました。AIは話題性の高い、いわば社会の「新参者」として、社会の潮流とは少し離れて、お客様気分で取り扱われてきました。要はちやほやされてきたわけです。

一方で、2019年における各種報道の通り、AI技術そのものはコモディティ化しつつあります。私の理解ですが、これは、決して「ブームが去り、進化にブレーキがかかる」という意味ではありません。「より地に足のついた、価値のある企業活動にフォーカスされていく地道な時期」だと考えています。

おそらく2020年、そしてこれ以降は、単に「AIを活用しました」だけでなく、また「何を何%改善しました」というだけでもなく、それによって「どんな社会課題を解決したか/しようとしているか」に大きく光があたると予測しています。逆に言うと、もはやAIは社会の新参者ではなく、「社会の一員」としてその責任を果たすべき、という風潮になってくるはずです。そういう意味で、さきほど触れたAI美空ひばりさんはあくまでエンターテインメントであり、それ自体は素晴らしい取り組みではあるものの、「2019年っぽいな」と強く感じるのです。

AI美空ひばりさんが議論を巻き起こしたことで、「AIを使えばポジティブな話題になる」という風潮はどんどん薄くなっていき、倫理の問題や、社会課題に対するスタンスにシビアな視線が向けられていくでしょう。この流れをきちんと読み切らないと、せっかく難易度の高いAI活用を行ったのに社会からマイナスに評価される、ということすら、ありえます。

一方でこの状況はチャンスでもあります。

日本においては、世界一の高齢化社会であること、介護や医療に加え、特に農業・漁業などの第一次産業の持続可能性など、世界でも類をみない、大きな課題を抱えています。AI業界も、もちろんこの領域に立ち向かい、新しいソリューションがつぎつぎと生まれています。

私たち電通も、新しい取り組みを進めています。2019年秋には、福井新聞社、そしてLedge.aiを運営する株式会社レッジと協業して、AI×地方創生のイベントを福井県で行いました。

AIで地方創生!福井で見つけたイノベーションの可能性(外部リンク)

地元企業の皆様の高い志に触れ、確かな手応えを感じるワークショップでした。

参加した各社、各チームが「AIプロジェクト」を発表したTHINK AI in Fukui ワークショップ(THINK AI公式サイトより)

大企業においても、スタートアップにおいても、大都市でも地方でも、AIでどのような課題に立ち向かうか、どのような社会を目指すかが問われてくる。そんな年になりそうです。

②2020年。AI活用は「結果」にコミットしはじめる。

Photo by Ben Rosett on Unsplash

ここまでは比較的ビジョナリーなお話しでしたが、ここからは一気にビジネス寄りの話題になります。

2019年は、政府が大きくAIに舵を切った年でもありました。春には「AI戦略」が閣議決定され、年間25万人の人材育成方針という発表もありました。また、政府がいわゆるDX=デジタルトランスフォーメーションにも力を入れ、DX推進指標とそのガイダンスも発表されています。

経済産業省によるDX推進ウェブサイト(外部リンク)

DXという概念は、「AI」と同じくらい広いので一概に議論はできませんが、ざっくり言うと「自分たちのシゴトをテクノロジーでアップデートし続けろ、さもなくば大変なことになるぞ」という危機意識が表立って叫ばれてきた、そんな年になりました。

2020年は、このような危機感や、AI活用をはじめとする企業の取り組みが、少しずつ「結果」というかたちで表出化してくる年になると考えています。先ほどの一つ目の予測とも重複しますが、ビジネスにおいてもAIは既に「新人」ではなく、しかるべき結果を出しはじめるのです。

「結果」というのは、もちろん収益(売上高、経費)という側面もありますが、それだけを指すのではありません。競合他社との細かなシェア争い、人材獲得競争、従業員満足、そういったところに少しずつ差が出てくる、そんな年になるのではないかと思っています。

2019年にLedge.aiで記事化されたものだと、以下が好例かと思います。

これらのように、工数を削って費用を削減するだけでなく、空いた労働力をCS(お客様価値向上)や営業開拓など、攻めの業務につなげることで、業界内のシェアやトップライン向上にも好影響があるでしょう。大企業の決算報告資料に「AI活用により…」の文字が躍る日も近いかもしれません。

Photo by Husna Miskandar on Unsplash

ほかにもわかりやすく表出するのは、人材獲得競争です。

さまざまな大企業の方とお話しする機会が多いのですが、昨年初頭頃より、AI活用については「一巡した」という感覚を強く持っています。思いつく一通りの実証実験は済ませ、成功した企業は限定的ながら業務への適用をはじめている状況です。

そうすると、同業社の間でも、「AIを導入している企業」と「していない企業」という差が出ます。もちろん、すぐに収益に直結するものと、しないものがあるでしょう。しかし、働いている社員からすれば、「AIでもできる仕事を人間がしている職場」と「AIによってスムーズになった職場」のどちらが魅力的かは自明です。ますます人材の流動化が進む日本で、この差は大きいでしょう。

また、先ほど政府による年間25万人のAI人材育成という方針をご紹介しましたが、彼らの行く末も気になります。2020年、21年に企業に就職する大学生は、大学に入学したのが2016年~2017年になります。そのころには既にAlphaGoが人間を打ち負かし、第3次AIブームの真っただ中です。それを見越して大学での専攻を決めた人も多いでしょう。いわば「AIネイティブ」です。そんな若者にとって、AIを活用している企業とそうでない企業、はたしてどちらに就職したくなるでしょうか。

3月に発表された、政府によるAI戦略(外部リンク)

「ウチはAI人材はいらない」という企業もあるかもしれません。しかし、優秀な25万人がAI人材になるということは、AI人材以外の優秀な人材の競争率が上がるということも、視野に入れるべきでしょう。

まだあります。AIスタートアップは引き続き活況で、資金の流れも活発です。しかし、AI自体がコモディティ化し、大きなスタートアップが資金を集め、規模の経済を活かした力の差が出てくると、スタートアップの間でも「生存競争」がますます激化するでしょう。これまた2019年を象徴する出来事であるWework問題に端を発し、スタートアップ自体への風向きも少し変わってくるかもしれません。

では、AIスタートアップを「卒業」する優秀なAI人材は、その後どこへ行くのか? 日本企業はそこで競争力を発揮できるのか?が強く問われます。

「AIが人間の仕事を奪う」という論調を、驚いたことに2020年になった今でも目にしますが、おそらく逆の状況が起こるのではないかと睨んでいます。つまり、「AIを使えない企業が、人間を奪われていく」のです。

私たち電通グループも、グループ全体としてAI活用を推進していくため、その本気度を伝える大規模な社内イベントを実施しました。

繰り返しになりますが、AI活用の成果は業績だけでは測れません。瞬間的な業績なら、それこそ人力でカバーできることもあるでしょう。オリンピックイヤーに、一時的に活況となる業界や企業もあるでしょう。しかし、さまざまな側面で、企業をとりまく競争は熾烈になっています。AIをはじめとするツールを使いこなし、自分たちの仕事を適切に破壊し、再構築できるかが問われています。

2020年は、その最初の成果が出始める年になるのは間違いないでしょう。

まとめ

私からは、2020年のトレンドとして以下の2つを予想しました。

  • ①2020年。AIは、社会課題に立ち向かう。
    「AIで●●した」のニュースバリューはほとんどなくなり、社会の一員として、厳しい視線で見られる。単なるAI活用ではなく、どのような社会課題に立ち向かうかが問われる年になる。

  • ②2020年。AIは、「結果」にコミットしはじめる。
    AI活用が単なる広告塔、PRではなく、社会の一員として、実際に成果を出し始める。収益だけでなく、人材獲得競争などさまざまな側面で「AIを活用できているか」が問われる年になる。

皆様のイメージと、近かったでしょうか? それとも真逆でしたか?

いずれにせよ、2020年も、AIやその他テクノロジー活用の好事例が出続け、社会と企業にとってポジティブな刺激を与え続ける年になれば、と祈っています。

もちろん、祈っているばかりではありません。AI MIRAIも、電通らしいAIの活用:それは社会課題への取り組みや、事業そのものの変革に、正面から立ち向かっていきたいと思っています。ぜひ、ここまで読んでいただいたみなさまとも、機会があれば新しい取り組みをご一緒できれば幸いです。

2020年が、「社会の一員」となったAIにとって、飛躍の年になりますように!