アクセンチュアが「AI時代の雇用・働き方の未来:人とインテリジェント・テクノロジー」というグローバル調査を発表し、その記者説明会が5月28日に開催されました。登壇したのは以下のお二人。
アクセンチュア株式会社 戦略コンサルティング本部 人事・組織管理 マネジング・ディレクター
保科 学世
アクセンチュア株式会社 デジタル コンサルティング本部 マネジング・ディレクター
アクセンチュアは毎年、雇用・働き方についてのグローバル調査を発表しており、今年のテーマは「人とインテリジェント・テクノロジー」。インテリジェント・テクノロジーとは、以下の技術を指すもので、今回の発表ではこれらを広義のAIとして呼んでいるそうです。
- コグニティブテクノロジー(認知技術)
自然言語を理解し、質問に対して回答をおこなう技術 - アナリティクス
高速度なキャプチャ、検出、分析をおこなうことで、膨大な多種多様なデータから、経済的に価値を抽出する新世代のテクノロジーとアーキテクチャ - ロボティクス
ロボットの設計、構築、実装、運用に関する技術
説明会では、今の日本のAIの状況はどうなっているのか、これからどうすればいいのか、といった提言まで、幅広く語られました。以下レポートです。
日本の労働者が抱える、AIに対する漠然とした不安
はじめに宇佐美さんから、グローバル調査の概要についてお話がありました。
「日本は超少子高齢化により、2030年までに約900万人の労働力が不足すると言われており、人間とAIの協働は不可欠です。しかし、グローバルで見たときに、労働者の意識改革は大きく遅れているということが、今回の調査で明らかになりました。」
上の図を見ると、経営者で言えば、「AIは戦略目標達成のために重要である」と答えているのが54%にも関わらず、「半数以上の従業員がAIとの協働を準備できている」と答えたのが13%と、AIの重要性は認識しつつもあまり行動を起こせていないようです。
一方、労働者は「過去2年間に私の仕事におけるAIの重要性は増した」と57%が答え、「AIと協働するために新たなスキルを習得することが重要」と68%が答えていますが、48%が「AIは私の雇用に脅威を与える」と答えたのが48%。経営者と同じく重要性は認識しているものの、こちらは“AIに仕事が奪われる”という危機感が伝わってきます。
また、別の調査によれば、「AIが私の仕事にポジティブな影響をもたらす」と答えている人が、グローバル平均で62%に対し、日本では22%。AIに対して漠然とした不安を抱えているとのこと。
ここ数年、AIという言葉をニュースで聞かない日のほうが珍しいくらいであるにも関わらず、むしろそれが不安を生んでしまっている状況、ということなんでしょう。AIがバズワードになってしまっている弊害とも言えそうです。
この状況を改革するために、アクセンチュアが発表した提言は以下のとおり。ひとつひとつ見ていきましょう。
- 日本型AI協働モデルを前提とした業務プロセスの再考
- 人間とAIの協働見据えた教育機会・コンテンツの提供
- 人間とAIの協働の効果を最大化するコラボレーションの促進
AIとの協働に合わせて業務を一新する必要性
保科さんが語ったのは、「日本型AI協働モデルを前提とした業務プロセスの再考」という提言。
「企業がAIを活用した場合としなかった場合の経済成長への影響の差を見てみると、日本の伸び幅は、他国の3倍あります。これはつまり、AIを活用していかない限りは今後の成長は見込めないということでもあります。」
AIを活用して生産性を上げている事例として、アクセンチュアでは「Hiromin」という、Skypeアカウント経由で自動で会議などの予定を調整してくれるバーチャル秘書を活用して生産性を上げているそうです。

実際、会議をするのに必要なプロセスって、
- 参加者の予定を調整
- 空いている会議室をカレンダーで確認
- 空きがない場合、予約している人との交渉
など、これだけでもものすごく面倒。こういったAIツールで真っ先に削減したいですよね。
「また、日本は伝統的に製造業が高い生産性を誇ります。AIが脳だとすれば、産業用ロボットという手足を大量に所有している日本の製造業がAIを活用すれば、大きな発展につながるでしょう。」

「日本ではサービスに対する顧客の求めるレベルが高く、おかげで質の高い学習データが豊富にそろっています。これらをうまく活かせば、日本に足りないものをうまく補いつつ、世界で戦えるものが作れると思っています。」
実際、Preferred Networksが発表した、人間が発する言語指示を理解し自動動作するAIロボットなどが生まれていたり、脳と手足の連結は着実に進んでいます。技術とデータはあるので、あとは戦略部分が必要になってくる。そこで次の提言、教育に話は移っていきます。
AIとの協働に必要な教育は「人間とAIとの協働のあり方」を問うこと
こちらの提言で話されたのは、人間とAIの協働見据えた教育機会・コンテンツの提供をどうしていくか、という点。具体的に、AIを開発・活用するためには以下のスキルが重要になってくるそうです。
- 統計、数学
- プログラミング、ビッグデータ処理に関するICT知識
- アルゴリズム、ライブラリー、ツールの活用法
- リアルな状況、データを用いた実践 など
たしかに、これらのスキルをどれかひとつでも持っていれば、日本では引く手あまたですよね。しかし、保科さんいわく、重要な点はそこではないんだとか。
「これらのスキルも重要ですが、あくまで表面的なもの。AI教育の初期段階でそれ以上に重要なのが、常に『解決すべき社会課題は何か?』『人間に任せ、AIに任せるべき課題とは何なのか?』を問い続けることです。こうした教育の実現のため、アクセンチュアでは、つい先日も小学生向けに課題解決型のプログラミング教室を開催しました。」

「この教室では、小学生がどんな課題を解決したいかを自分たちで決め、実際にわずか一日弱でセキュリティや介護などの課題を解決するようなツールを作っていました。企業でも身近な社会課題を考えながら作っていけるかという点は、大きな課題だと思います。」
AIに限らず、すべての技術はあくまで課題解決のためのツールということを忘れないこと。そうした技術をいかに世の中の課題解決に活かせるのか、活かすべきなのかということを考える必要があるんですね。
アクセンチュアではほかにも、「サーキュラーエコノミー推進機構」の立ち上げに携わり、産学連携でデータサイエンティスト育成などの取り組みもおこなっているそうです。
大学で研究している学生は企業で使われている実データに触れる機会がなく、企業はデータサイエンティスト、AI人材の不足に困っている状況。そこでサーキュラーエコノミー推進機構が産学を結びつけ、共同で人材を育成しようという取り組みだそう。
2018年3月に立ち上がったばかりのプログラムで具体的な成果はまだだそうですが、かなりこれからが楽しみな取り組みですね。
コラボレーションは2倍のスピードで企業価値を向上させる
そして3つ目の提言として挙げられていたのが、「人間とAIの協働の効果を最大化するコラボレーションの活性化」でした。
「AIを活用する際に、自社のみで開発をおこなうのでもなく、外部とのコラボレーションだけもでなく、両方に取り組むことで、企業価値の向上率は年4.2%と、飛躍的に向上します。ぜひ、AIに取り組む際は、他企業とのコラボレーションを積極的におこなってほしいですね。」

コラボレーションの事例として、トヨタ、JapanTaxi、KDDI、アクセンチュアの4社でおこなわれた、AIを活用したタクシーの配車支援システムの例が挙げられました。既に都内で試験導入されているとのこと。
自社だけでなく、他社のノウハウを取り入れられるコラボレーションは取り組んだほうがいいのは事実。すでにソフトバンク・ビジョン・ファンドやトヨタAIベンチャーズなど、大企業が続々とVCを立ち上げてオープンイノベーションを加速させていることを考えると、今後ますます増えていくと予想されます。
妄想でなく、地に足の着いた議論を
たしかに、日本は他国と比較したときに、AIと協働する準備は整っていないのかもしれません。しかし、不安がまだ「漠然」としているだけなら、それはこれから払拭していけばいいだけの話。
大事なのは、AIとは何なのかきちんと理解し、それで何を解決できるのか考え続けること。AIが僕たちの生活をどう変えるのか、それが悪い方向か、いい方向か、議論するのは楽しいですが、それだといつまで立ってもAIに対するイメージは漠然としたままで、自己満足な議論になってしまいます。地に足の着いた議論が必要だと思いました。
今回、記者説明会がおこなわれた会場「Accenture Innovation Hub Tokyo」も、コラボレーションを促進する取り組みの一環とのこと。アクセンチュアの今後の動きにも注目です。