月200時間を削減。イオン銀行が提唱する、AIとRPAによるコンプラ業務の新しいあり方

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11月22日、株式会社FRONTEOが主催するビジネスカンファレンス「AI Business Innovation Forum 2019(外部サイト)」が開催された。AIのビジネス活用をテーマとしたプライベートカンファレンスだ。

当日は株式会社イオン銀行 法務・コンプライアンス部 統括マネージャーの小杉剛雄氏が登壇。「AI x RPA活用によるコンプライアンス業務の新しいあり方 ー イオン銀行流!お客さまとの面談記録モニタリングの実践効果 ー」と題して講演を行った。

2018年9月からのAI・RPAの導入により、ある業務に割いていた時間を200時間削減したという同社。AI・RPA導入の示唆に富んだ講演の内容をレポートする。

低収益な商品説明に過大な時間を割いていた

イオン銀行は、インストアブランチ(イオン店内のイオン銀行店舗のこと)が140、ATM6,193台を数える。特徴としてイオンカードを発行しており、カード会員は2,840万人、現在も取引件数が急拡大しているという。

しかし、「取引件数の8割が低収益の積立だった」と小杉氏。低収益な商品を販売するために、膨大な工数がかかっていたという。

イオン銀行では、金融商品を販売する際、1時間ほど店舗で顧客と面談を行う。その後、適切な勧誘であったかどうかを確認するため面談記録を作成し、法令遵守、適合性(購入の意志、理解度など)といった観点から、第3者によるモニタリングを行う。

――小杉
「面談記録のモニタリングには3つのシステムをまたいで使っているので、1案件あたり約6分かかります。取引件数の増加を鑑みると、過大な工数をかけていました」

モニタリングの内容は、

  • そもそもの書類に記入漏れがないか
  • 顧客の保有資産に対して過大な投資ではないか、
  • 回転売買(金融商品を頻繁に売買すること)に該当しないか
  • 履歴として残される会話のメモ上で不適切な勧誘がないかどうか

など細かい項目にまで及ぶ。これらの項目に対して、AI・RPAはどのように適用されたのだろうか。

文章チェックにはFRONTEO社のAI「KIBIT」を導入

まず、テキストで会話履歴として残される文章のチェックについてはFRONTEO社が提供するAIエンジン「KIBIT(外部サイト)」を導入した。銘柄の選定理由が記載されているか、投資初心者説明(投資初心者に対して定められている説明事項)などの有無をチェックするという。

たとえば、あるファンドを購入したが、なぜそのファンドを選んだかの記載がない場合や、投資初心者説明の記載がない場合などにはアラートが入る。人間がこの作業を行う場合、すべての文章に目を通さないとこれらのケースに気が付かない。

実際に、KIBITを使用して上記の疑いのある案件をチェックした。結果を見てみると、人間による目視確認では、すべての案件に目を通してようやく疑いのある案件を100%抽出できるにの対して、KIBITを使用した場合は、全体の下位40%をチェックすることで90%の疑いのある案件を抽出できたという。

KIBITによる出力結果のイメージが上図だ。銘柄の選定理由についてはしっかり書かれているが、注目してほしいのが「投信がはじめてのため」の文言。つまりは投資初心者ということだ。

初心者にもかかわらず、なぜ投信の選定理由がこれだけハッキリ説明できるのか。こういった矛盾も、集中にムラのある人間では気づかないかもしれない。一見人間では気が付かない矛盾なども発見できるのは、AIの大きな利点といえる。

RPAでチェック項目の入力有無や異常値を見つける

文章の矛盾など、人間的な判断が必要になる場面だけでなく、形式的な書類の不備や異常値なども見つける必要がある。従来は形式的な書類のチェックも人間が行っていた。そこで、イオン銀行はRPAはRPAテクノロジーズ社の「BizRobo!(外部サイト)」を導入し、それらをカバーしたという。

形式チェックや異常値とは、具体的には以下のようなケースだ。

入力の有無

  • 必須項目の未入力
  • 「購入」にも関わらず「解約」欄に入力

異常値

  • 高齢者なのに内部管理責任者が同席していない
  • 面談時間が極端に短い
  • 保有資産に対して過大な投資をしている
  • 過去30日以内に反対売買あり(回転売買の懸念)

面談記録モニタリング作業を月250時間→50時間に削減

AI・RPA導入の結果として、行員はコンプライアンス違反の疑いのある案件のみをチェックするだけで済むようになった。その結果、月間の作業時間はこれまでの250時間から50時間、つまりは200時間が削減されたことになる。

小杉氏は、モニタリング業務にAI・RPAを導入する際のコツとして、以下の3つを挙げる。

  • データを集めておくこと
    モニタリングは過去の面談記録や、複数のデータベースにまたがった作業。AIを構築するなら、導入前からデータを集めておかければいけない。

  • モニタリングの視点を細かく
    銘柄選定理由、投資初心者説明などは、モニタリングの視点を細かくしないと何が疑わしいのか分からない。視点を細かくすべき。

  • 進化させる必要
    AIを定期的に「進化」させ、改善を重ねること。

また、AI・RPAは「セットで導入すべき」とも強調する。

――小杉
「形式的な項目チェックのみモニタリング担当者が行うなど、一部だけを効率化すると、人間が担当する部分は担当者によってバラつきが出てしまうため、効率化になりません。AI・RPAを組み合わせて一気に自動化してしまうことが重要です