AIと人間の協業における理想的な形とは? 電通のトップランナーが集結する組織「AI Creators Club」に直撃

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2018年3月、株式会社電通の内部に、AIにより最先端のクリエイティブを研究開発するチーム「AI Creators Club」が発足しました。

これまでにAIコピーライターのAICOなどの「AI×クリエイティブ」ツールの開発を進めている電通グループ。取り組みには未来を感じさせるものばかりです。





今回、クラブのキックオフにLedge.ai編集部も招いていただき「AI×クリエイティブ」について取材を敢行。AI Creators Clubとはどのような組織なのか? 電通グループ内ではどのようなAIプロジェクトが走っているのか? 気になる疑問をぶつけてきました。

電通グループを横断してクリエイターが集まる部活動のような組織

――AI Creators Clubはどのような経緯で発足されたのでしょうか?


福田 宏幸氏 / 株式会社電通 データ・テクノロジーセンター
電通でコピーライターとして数々の制作業務に携わった後、データ・テクノロジー領域に興味を持ち、AIコピーライター「AICO」などの開発を手がける。社内横断プロジェクトチーム「AI MIRAI」「AI Creators Club」を推進。東大の博士課程に在学し、ディープラーニングを活用したバイオの研究も行う。
――福田
「電通社内では今、多くのAIプロジェクトが発足し始めています。しかし、みんなバラバラでやっていたのが実情でした。

新しい分野で、悩みどころも多いAIプロジェクト。せっかくなので、皆で集まってコラボレーションしたり、ノウハウを共有したりできればと思ったのが発足理由ですね。堅苦しくなく、ゆるい形で活動していければと考えています」

福田氏が言うように、部署を横断したノウハウ共有や、それぞれの知見を活かしたコラボレーション企画ができる体制は、電通のような大きなグループ会社では貴重です。クラブの生み出すシナジーは電通グループ全体にもプラスに働くでしょう。

実際にはどんなシナジーが生まれているのか? さらに深掘りしていきます。

データアーティストもクラブに参画。AI Creators ClubのロゴをAIで生成

2018年の2月には、電通がAI開発・コンサルティングを行うデータアーティストを子会社化したことが話題になりました。そのデータアーティストもAI Creators Clubに参画しています。

――電通とデータアーティストはAI Creators Clubでどのような関わり方をしているのでしょうか?

――福田
「実はAI Creators ClubのロゴはAIで生成したのですが、アイディアをデータアーティストへ提案したところ、すぐに作ってくれました。

AI開発に携わってきた方々がすごく近い距離にいることで『これってできるかな?』とアイデアをすぐに試せたのは新鮮でした。思い立ったらすぐに試行し、検証できるのが大きな強みだと思います」

AI Creators Clubのロゴ

ロゴ生成の途中経過

アイディアが素早く形になるのは、まさに電通グループのAIに対する姿勢を反映しているロゴといえますね。ロゴもすばやく制作できる、スピード感も伺えます。

データアーティスト代表取締役の山本 覚氏に、クリエイティブ業界でのAI活用について聞きました。

――今回はクラブのロゴを生成したということですが、今後クリエイティブ制作はますます自動化されていくのでしょうか。AI×クリエイティブの今後について教えてください。


山本 覚 / データアーティスト株式会社
代表取締役社長

東京大学博士課程在籍時、松尾豊准教授の研究室で人工知能を専攻。その後アイオイクスにて導入450社超のLPOツール「DLPO」の全アルゴリズムを開発。データマイニングを用いたウェブページの改善実績は150社以上。人が人にしかできない営みに集中する環境をつくることを理念として、データアーティスト社長に就任。
――山本
「これまでAIができるのは“選択”が主でしたが、GANをはじめとする生成モデルの登場により、いろいろな可能性が広がったといえます。

一方で、まだまだ課題は山積しています。“生成”といえど、無から有は生み出せません。今回のロゴ生成では、企業ロゴを学習データに使用し、生成を行いました。

どんなアウトプットを想定し、そのために何を学ばせれば上手くいくのか。過去のノウハウから学ばせるものを取捨選択する過程は、依然人間が担う必要のある部分だと感じます」

福田氏、山本氏に話を聞いてみて、クリエイターたちの「発想」と、AIエンジニアの「実装」のギャップをその場ですぐに埋められるのは大きな強みだと感じました。

「映像解析」「クリエイティブ自動生成」「自然言語処理」電通グループ内のさまざまな活動

AI Creators Clubの取り組みはこれだけではありません。

キックオフには、電通グループ内でAIプロジェクトを動かす多くの方が参加しており、現在どのようなAIプロジェクトがあるのか話を聞くことに。

“CMのプール”を作成し、クリエイティブを評価する「ATALU」

過去のCMの画像データをディープラーニングでマッピングした「CM SEA」

CMのプランニングを助けるAI「ATALU」

ATALUにはCMのコンテ(CMのおおまかなあらすじを描き出す映像の設計図のようなもの)を作る機能と、作ったコンテを評価する機能があります。

まず、ユーザーはCMでジャンルやターゲット、読後感などを入力し、その条件をもとに「CM POOL」から条件にあうストーリーをピックアップ。最適なストーリーを複数生成していきます。その本数は最大100本にも及ぶとか。

作成したCMコンテは評価フェーズに移行。コンテがどの程度ヒットするかを予測・評価しランク付けするプロセスには、電通の長年のCMデータを活用したAIを用いています。

最後に、AIによってランク付けされたCMコンテの提案をユーザーが確認し、最終判断を下すという流れです。担当の嶋野 裕介氏はATALUの実用性についてこう述べます。


嶋野裕介 / 株式会社電通
CDC / コミュニケーション・ディレクター

東京大学卒業後、電通に入社。マーケティング局、営業局、デジタル局、シンガポール勤務などを経てクリエーティブ局へ。デジタル&PRメソッドを活用したクリエーティブプランニングを行い、数々の広告クリエイティブの制作を手がける。
――嶋野
「人間がCMを作っても結局、出てくるのは実は似ている。でもAIを導入することで、その「似ている部分」を一瞬で作ってくれるので、あとは人間が自由な発想を加えていけばいい。つまりAIとプランナーの協業、マン・イン・ザ・ループが理想的な形です。

75点までAIに任せ、25点分を人間が動くイメージ。人が介在することの価値も忘れてはいけません。過去のデータからだけでは時代のトレンドに追いつけませんから」

AIが一気通貫でCMを作るのはなく、AIがCMのアイデアを提供し、それを人間が世に出すまで磨いていくのが現状の最適解だとのこと。やはり人の感覚でトレンドを把握し、何が「ウケる」のか予測するのは、代替し難い領域のようです。

バナーを自動生成するAI「ADVANCED CREATIVE MAKER」

続いて話を伺ったのは、電通、電通デジタル、デシタルアーティストの3社が共同開発した「ADVANCED CREATIVE MAKER」というバナー自動生成ツールについて。

ADVANCED CREATIVE MAKERは、「キーワード」と「訴求軸」に対して、パフォーマンスが高いと予測されるクリエイティブ要素を割り出します。

それらの候補から自動生成ツールでビジュアルを作成し、AIコピーライター「AICO」が考えたコピー合わせることで、バナーを自動で作り出す仕組みだそう。

担当の電通デジタルのお二人、岸本 和也氏と並河 進氏は、AIとクリエイティブの融合において、人間の役割を以下のように考えているそう。


岸本 和也 / 株式会社電通デジタル
アドバンストクリエーティブセンター / コミュニケーション・デザイナー

クロスメディアマーケティングやSNS分析業務などに従事したのち、15年から現職。テレビCM、オウンドメディア運用、インスタレーションと、さまざまなコミュニケーションに携わる。17年からは電通デジタル アドバンストクリエーティブセンターに出向中。カルチャーメディア「COTAS」では音楽に関する記事を執筆。
――岸本
「従来クリエイティブ制作は、手作業が占める割合が大きいものでした。しかし、これからは自動化の領域を広げていくことで、設計の部分にクリエイターが注力できるようになると思うんです。つまり、AIにパターンを出させて、人がディテールを担う。

AIの得意なパターンの大量生成と、クリエイターの経験知で磨かれた感性を組み合わせることで、アウトプットの成果を最大化できると考えています」


並河 進 / 株式会社電通デジタル
執行役員 / アドバンストクリエーティブセンター部門長

2017年データとクリエイティビティの掛け合わせによるプランニングチーム「アドバンストクリエーティブセンター」を立ち上げる。18年度グッドデザイン賞審査委員。TEDxTokyo Teachers2015スピーカー。 著書に「Social Design 社会をちょっとよくするプロジェクトのつくりかた」他多数。京都造形芸術大学客員教授。
――並河
「AIが“人間には思いもつかないような面白いアイディアを出してくる”と考えるとワクワクしますよね。

しかし、『人間が何を“面白い”と思うのか?』をAIは学習しきれていません。現状では、クリエイティブの制作過程で人間が必要なくなるのは想像しづらいです」

AIが大量のバナー生成という「量」を担うのに対して、それらを適切に評価するために、人間が感性を活かして「質」を担保していく。人間の感性はまだまだ必要なことが分かります。

電通のコミュニケーションノウハウを活かした対話型AI「Kiku-Hana」

次にお話を聞いた「Kiku-Hana」は自然言語処理系のプロジェクトです。従来のものよりも精度の高いコミュニケーションを実現する対話型AIのサービスとのこと。

広告会社の電通が、なぜチャットボットを作るのか。それは、電通が「コミュニケーション」の会社であり、適切なコミュニケーションの取り方を分析し、科学するチャットボットは外せないからだといいます。

Kiku-Hanaは、大別して2つの機能を軸にしています。ひとつは独自の自然言語処理システムでユーザーの言葉の真意を把握する“聞く”機能。もうひとつは、電通グループで蓄積した、コミュニケーションデザインやコピーライティングのノウハウを活かした“話す”機能です。多様な日本語の言い回しに対応しており、顧客対応などへの応用が期待できます。

担当の松山氏、堀田氏は「Kiku-Hana」を開発した経緯をこう述べます。


松山 宏之 / 株式会社電通
ビジネス・ディベロップメント&アクティベーション局 / シニア・イノベーション・ディレクター

1998年電通入社。電通独自の日本語自然対話システム「Kiku-Hana」の他、自然言語処理技術や画像認識技術を活用した「TV Live Meta Module」やカーナビにおける自然対話型広告サービスの開発リーダーを務める。
――松山
「電通は、企業と生活者をつなぐコミュニケーションを担っています。チャットボットも企業担当者の代わりに生活者とのコミュニケーションをとることになるので、これまでよりもやり取りを洗練させていく必要があると感じていました」

堀田 高大 / 株式会社電通デジタル サービスプロセスデザイン事業部
2013年電通入社。2018年から電通デジタルに出向中。新規事業開発・サービス開発におけるプロトタイプ制作やテクニカルディレクションを担当。AIチャットボットを用いたサービス開発およびデータマーケティングに従事、技術領域の企画・ディレクションも行う。
――堀田
「Kiku-Hanaは、電通がこれまで培ってきたコミュニケーション領域の様々なノウハウを活用し、開発を行っています」

確かに電通で蓄積されたマーケティングにおける日本語コミュニケーションのノウハウは、膨大かつ独自のもの。それらのデータをAIと掛け合わせることで、新たなコミュニケーションを創出しようとするのがKiku-Hanaというわけですね。

AIと人間の理想的な協業の形とは?

電通グループ内のAIプロジェクトを通して「AI×クリエイティブ」の最先端を見てきましたが、予想をはるかに超えるレベルにありました。

AIは客観的なデータに基づいて答えを出したり、量をこなしたりするのが得意。しかし、属人的なイメージのあるクリエイティブにAIが到来するのはまだまだ先だろう、と高をくくるのは早計かもしれません。

一方で、今回の取材では、AIがクリエイティブ制作を代替しつつも、人間と協業していく大きなシナジーがあるように感じました。

――福田
「『AICO』『ATALU』『ADVANCED CREATIVE MAKER』『Kiku-Hana』……今はバラバラですが、いつか統合されてひとつのツールになったら面白いと思っています。

Amazon AlexaなどのAIアシスタントのように、対話式でクリエイティブを人間に提案してくれるような未来がくるかもしれません」

グループ横断組織である「AI Creators Club」の発足により、技術面だけではなく、クリエイティブ領域におけるAIとの付き合い方に関しても、ますます体系化されていくことでしょう。今後の動きにも注目です。