チームラボ・猪子寿之さん「AIを労働力の削減などには使わない」

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「チームラボボーダレス」「チームラボプラネッツ」などのデジタルアートで知られる、チームラボ株式会社 代表取締役の猪子寿之さん

経済産業省と国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2月19日、人工知能(AI)技術や新原理のコンピューティング技術などを活用し、イノベーションを創出できる人材の育成を目的とする「AIフロンティアプログラム(第2期)」の育成対象者による成果報告会を開催した。

本成果報告会では、お台場の「森ビルデジタルアートミュージアム:エプソン チームラボボーダレス(チームラボボーダレス)」や、豊洲の「チームラボプラネッツ TOKYO DMM 豊洲(チームラボプラネッツ)」などで有名な、チームラボ株式会社 代表取締役の猪子寿之さんによる講演「チームラボとAI」が実施された。

この記事では、チームラボが手がけるデジタルアートにおけるAI活用はもちろん、猪子さんが考えるGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)などのプラットフォーマーが台頭する現代社会におけるチームラボの立ち位置や目指している目標についても、ご紹介していきたい。

現実空間にいる動物をスマホで捕まえられる

そもそも、猪子さんがアートやテクノロジー全般ではなく、AIをテーマに講演をすることを意外に思った人もいるかもしれない。しかし、チームラボではデジタルアートの取り組みでAIにおけるディープラーニング(深層学習)技術を活用している。

たとえば、AIを活用している作品としては、福岡の「チームラボフォレスト 福岡 – SBI証券」で体験できる『捕まえて集める森 / Catching and Collecting Forest』といった作品が挙げられる。

同作品では、スマホアプリ「Catching and Collecting Forest」をダウンロードし、カメラで壁にいる動物を狙って矢を投げ込める。矢が動物に命中すると、動物は壁から消え、自分のスマホに入るという仕組みである。逆に、捕まえた動物を展示スペースに投げ込み、その場所に登場させることも可能だ。

また、銀座にある食とアートが融合した料理店「月花 MoonFlower Sagaya Ginza Art by teamLab」では、料理が持つイメージが料理やお皿から、テーブルの上などあたりに反映される、といった特徴がある。

たとえば、チョウの模様が入ったお皿が運ばれてくると、テーブルの上にもチョウが羽ばたいていく。この作品では置かれたものがお皿なのかどうか、どのようなお皿なのかをAIで認識しているという。

猪子さんは「もちろん、お皿の上の料理の状態が変化しても同じ物体として認識します。お皿の上に手などがかかったり、テーブルにお皿によく似たものが載ったりしても誤反応しないようにしています」と説明する。

チームラボが手がけるデジタルアートは、なにより作品世界の美しさに魅了されるため、その世界を形作るテクノロジーには目が行きにくいかもしれない。しかし、同社はAIを積極的に活用している企業のひとつと言えるだろう。

チームラボはグローバルのトッププラットフォーマーでもある

ところが、チームラボが手がけるデジタルアートから離れ、世界を見渡すと、GAFA各社、Microsoft、TikTok、Tencentなどのプラットフォーマーが台頭している。このような状況を猪子さんはどう見ているのだろうか?

猪子さんはこのような現状について、「テクノロジーの専門会社ではなく、ユーザー(企業ではなく、コンシューマー)を直接持つグローバルのトッププラットフォーマーが、テクノロジーのリーディングカンパニーになっています。逆に言うと、それ以外はリーディングカンパニーになっていません」と話す。

一方で、チームラボは単独のアーティストの美術館における年間来場者数ランキングでは「チームラボボーダレス」が年間来場者数が約230万人で、ダリ美術館やピカソ美術館などを抑え、1位に輝いた。「チームラボプラネッツ」も年間来場者数は約125万人で、同ランキングではゴッホ美術館に次ぐ3位だ。

さらに、チームラボは日本国内のみならず海外でも、台湾・台北市の「Circulum Formosa」や、マカオの「teamLab SuperNature Macao」など、6つの常設ミュージアムを運営している。

「実は、チームラボはアートという分野として、もしくはユーザーが自由に動き回る施設として、ユーザーを直接持つグローバルのトッププラットフォーマーでもあります。もちろん、ほかのネットの企業に比べると、非常に小さな分野ですが、肉体がある場所としてはトップのプラットフォーマーです。しかも、グローバルにおいて、です」

テクノロジーにとっても人間にとっても良い世界を目指す

では、そのようなトッププラットフォーマーであるチームラボは今後、どのような世界を目指しているのだろうか?

猪子さんはGAFAのようなプラットフォーマーとチームラボの違いについて、「チームラボは(GAFAなどとは異なり)世界そのものを認識するわけではなく、チームラボが作った世界を認識しています。チームラボは世界は神でも60億人でも自然でもなく、チームラボによってコントロールされている世界を認識しています」と説明している。

具体的には、「どういう特徴があるかと言うと、チームラボが世界そのものを作り、われわれがコントロールしているので、テクノロジーにとって都合の良い世界を作れます。さらに、われわれの閉じた世界なので、すぐにテクノロジーを導入し、ユーザーが実践的に使えます」と解説する。

この発言だけ見ると、チームラボはテクノロジー至上主義のように思われるかもしれない。ところが、彼らが目指すのはそのような偏った世界とは大きく異なる。

「テクノロジーにとって都合が良い世界」でありながらも、「人々にとっても非常に良い空間。つまり、人々にとって美しかったり感動したりする空間。もしくは、人々が自分の意識で自由に動ける空間。この2つが両立する世界を構築する。これが汎用(はんよう)的な大きな分野になっていくのではないかと思っています」と語る。

ただ単にテクノロジーにとって良い世界でも、人間にとって良いではないでもなく、「テクノロジーにはもちろん、人間にも良い世界」こそが、チームラボ、そして猪子さんが目指す未来像なのだ。

もっともAIが使われている新たな独自の世界を作りたい

最後に、猪子さんはまとめとして、「チームラボは、アートや人々の体を自由に動かせる施設のグローバルのトッププラットフォーマーとして、(GAFAなどがいる)『世界そのものを認識する』という激しい競争分野ではなく、チームラボの作る世界のなかで、さまざまなAI技術を実践し、どんどん世に出し続けます」と決意を述べた。

続けて、「さらに、『人間とテクノロジーが両立する』という独自のAIの利用分野を創出し、(AIによる労働力の削減は悪ではないとしつつも、事実としてチームラボでは)AIを労働力の削減などには使わず、人々がより感動するために使っていきます。われわれが作るチームラボのミュージアムのなかには、局所的ですが、もっともAIが使われている新たな独自の世界を作っていければいいなと思っています」と、講演を締めくくった。

猪子さん本講演のなかで、チームラボについて「日本においては非常にめずらしいグローバルのプラットフォーマー、もしかしたら唯一のグローバルのプラットフォーマーかもしれないのが特徴です」と話していた。このような発言はGAFAなどのプラットフォーマーが台頭する世界に対抗する、猪子さんの心意気が見て取れる。今後もチームラボと猪子さんの戦いは続いていく。