AI人材不足の根本理由は「教える側の不足」だ──経産省が主導する“次の学び方”の試金石

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政府の統合イノベーション推進会議は2019年6月「AI戦略 2019」を策定し、具体目標として教育改革に力を入れる方針を示した。

その中で、新たな形の産業政策として掲げられたのが「AI Quest」だ。AIの社会実装を担うことができる人材不足の解消と、人材育成を通したAIの社会実装の実現を目指す。

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10月11日、そのAI Questのキックオフイベントが行われた。同イベントで語られたことを抜粋してお伝えする。

生徒による教えあい、実践、自治を実現しているフランス「42」

最初にAI Questを構想したのは、フランスの通信グループであるIlliadのCSOである、Xavier Niel氏が設立したテックアカデミー「42」を見てからだったと、最初に登壇した経済産業省 商務情報政策局長の西山圭太氏は語る。

42とは
学位要件がない、18〜30歳を対象としたフランスのプログラミングスクール。年間約1,000名を受け入れ、倍率は80倍以上。入学試験でプログラミングによる課題解決を行い、成績上位者が入学できる。

――西山
「42にはユニークな点が3つあります。ひとつは型にはまらないこと。42はそもそもが実践に近い、学位的な位置づけのない学校として始まりました。当初大学として申請したにもかかわらず。拒否されたそうです(笑)

ふたつめは学ぶ内容が実践的なことです。いわゆるPBL(Problem Based Learning)で、課題を解くことが学習につながる。最後に先生生徒の関係がない、生徒同士での自治を実現していること。学んでいる環境を自分たちでつくっているんです」

AI Questもすでに動き出しており、参加者同士の熱気のある交流も始まっているそうだ。

教える側の不足という構造的問題を解決する

次に経産省 商務情報政策局 情報経済課 課長補佐の小泉誠氏が登壇し、AI Questの事業の概要を説明した。

AI Questも42同様、“実践的な学び”をテーマのひとつとしている。実際の事例とデータを教材に使い、「疑似経験学習」を行うことで、AI社会実装の力を参加者につけてもらう。

すでに、

  • 小売
  • アパレル
  • モビリティ
  • 金融
  • 介護
  • 物流

といった業界の企業から事例とデータの提供を受けており、教材に使用される予定だという。

日本においてAIの普及が進まない理由として、AI人材の不足が叫ばれて久しい。AI人材育成プログラムは増加しているものの、現状は裾野が広いオンライン教育か、ハイレベルな対面での少人数講義の二択に偏りがちだ。

その根本原因として、構造的な「教える側の不足」が挙げられると小泉氏は指摘する。

――小泉
「構造的な問題として、AI教育自体が体系化できるほど成熟しておらず、変化のスピードも速い。そのため最前線でAIを推進している起業家や“イケてるエンジニア”などを招聘しようとしても、経済合理性の観点で難しく、結果として講師側の不足が起きています

一度に大量のAI人材を育成しようにも、講師を長時間拘束するプログラムは組みにくく、必然的に小規模で実施せざるを得ない。その結果、プログラムを終えられる人材自体も希少化し、人材不足はなかなか解消されない。

そこに42のやり方はハマった。講義型ではなく生徒同士で教えあい学びあうことで、教務係10名ほどで年間1,000人を育成している42の手法を取り入れることで、「拡大生産性」のあるAI人材育成が実現できると考えた。

――小泉
「AIの社会実装は、まだ42でもやりきれてないことです。AIの社会実装に必要なのは、ビジネスサイドとエンジニアサイドがお互いの知恵を翻訳し合い、話ができるようにすることだと思っています。

AI Questによって、たとえばこの技術を使うとこのビジネスインパクトがあるとエンジニアサイドは試算でき、ビジネスサイドはAIがどれくらい課題に対して有効なのかを試算できる状況を目指します」

2019年10月から2020年2月にかけて、教育手法の全体設計から事業の準備、実施、効果検証までを民間3社(Zero to One、ボストンコンサルティンググループ、SIGNATE)と経産省共同で行う。実証結果はすべてオープンにし、失敗を共有していくという。

未来の学び方の試金石になるか

小泉氏の講演にもある通り、AIを学ぶ方法自体はオンライン、オフラインともに多様になってきた。しかし、AIについて全体像から個別の手法まで学ぶうえでは、依然としてどのような教育手法が最適解なのかはまだ誰にもつかめていない。

実践型のプログラムで、生徒同士学びあう教育手法は、AI業界にかかわらず横展開ができると思われる。これからのメインストリームな学び方として、どこまでインパクトを残せるのか見守りたい。