経産省が進める“課題解決型”の人材育成「AI Quest(エーアイ・クエスト)」、その全貌

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小田切 未来氏 経済産業省 商務情報政策局 総務課 課長補佐

フランスに「42」と呼ばれるプログラミングスクールがあるのはご存知だろうか。18歳から30歳までなら試験に受かれば誰でも入学でき、しかも完全無料という太っ腹ぶりだ。

そんな42や、他国のさまざまなプログラミングスクールの“いいとこ取り”をした人材育成事業が、経済産業省を中心に始まっている。

今回は、経産省 商務情報政策局に所属する小田切 未来氏に、経産省で進む「課題解決型AI人材育成事業」の動きについて、詳しく聞いた。

「人材育成」がAI戦略の一丁目一番地

政府が3月に発表しているAI戦略(統合イノベーション戦略推進会議にて6月を目処に策定)の有識者案によると、AI戦略案は、人材、産業競争力、技術体系、国際の4つの戦略目標で成り立つ。

出典:AI戦略(有識者提案)及び人間中心のAI社会原則(案)について

人材育成については、高等教育、社会人教育において以下の目標を掲げている。

  • すべての大学、高専の年間卒業生約50万人が、初級レベルの数理、データサイエンス、AIを習得
  • 文理問わず一定規模の大学、高専生の年間卒業生約25万人が、自らの専門分野における数理、データサイエンス、AIの応用基礎力を習得
  • 社会人は年間2,000人のエキスパート人材、100人のトップ人材を育成

4つの戦略目標のうち、人材育成が一丁目一番地だ、と小田切氏は言う。

――小田切
「人材育成はすべての戦略目標のベースとなる非常に重要なファクターです。義務教育から高等教育までは文部科学省ですが、企業などが行う産業人材の育成については、主に経産省の管轄になり、私はそれを推進する立場です」

小田切氏は、今は経産省の商務情報政策局に所属しているが、これまでクールジャパンの立ち上げに加え、中小企業庁で誰も注目されていない時代から、兼業・副業の促進などを仕掛けてきた人物だ。

AI戦略案では、社会人教育で年間2,000人の“エキスパート”レベルの人材を育成する目標が掲げられている。年間2,000人を育成するため、AIの座学のみならず、実践が可能なスクール制度や、若手の海外挑戦機会などを拡充していく。

冒頭の42の話は、このAI実践スクール制度の一環に当たる。

――小田切
「現在、産学でAIのプログラミング講座は出てきていますが、実社会の課題解決を通して学べる実践型の教育プログラムは多くありません。そのため実践的なスキルが身につかず、ビジネスの現場で活きないことが大きな問題となっています。

そこで我々は、2013年にフランスに設立された42というプログラミングスクールに注目しました」

フランスのプログラミングスクール「42」

フランスの42に注目した小田切氏含む経産省の面々は、実態を確かめるべく、現地へ視察に赴いた。

42は、学位要件がなく、18〜30歳を対象としたプログラミングスクールだ。年間約1,000名を受け入れ、倍率は80倍以上。試験でプログラムを書き、成績上位者が入学できる。

カリキュラムでは、学生同士の教えあいや、課題解決型のプロジェクトを通して学びを深める。基本的に課題はすべて企業から持ち込まれる。すでに出身者によって70社が起業され、時価総額は2016年時点で800万ユーロに到達している。

ゲーミフィケーションを取り入れ、課題をクリアするごとにポイントが貯まり、一定のポイントが貯まるとレベルが上がる。一定のレベルに達すれば無事卒業というわけだが、卒業まで目指す生徒はわずかだという。

――小田切
「我々が現地へ赴き学生へヒアリングしたところ、42では修了することに重きを置いていません。最初の1ヶ月で1/3が、その後半年で2/3が辞めていきます。42に入った時点でキャリアに“箔”がつくため、企業からも引っ張りだこです。

42をキャリアの箔付けに使うもよし、卒業できるまで課題を全うするもよし。42をどう使うかは学生の自主性に任されています

日本発の課題解決型AI人材育成事業「AI Quest」

42への視察を経て、経産省で小田切氏が推進しているのが、日本発の課題解決型AI人材育成事業だ。

事業名は、課題解決を探求する様子や、ゲーミフィケーションを取り入れることから、多くの専門家、経営者などにも助言をもらい、最終的に「AI Quest(エーアイ・クエスト)」と名付けられた。

もちろん、フランスの42のみを参考にするのではなく、その他にも米サンフランシスコのホルバートン・スクールやメイクスクールなどの“いいとこ取り”をし、ハーバード・ビジネス・スクールなどで実施されるケースメソッド(企業の課題を解決するシミュレーション)のデータ版のようなイメージで、企業から持ち込まれる実課題やデータ等をベースとした教材・カリキュラムの作成も検討しているという。

――小田切
「企業から持ち込まれる実課題に対して、参加者はAI Quest側が用意するオンラインプラットフォームでプロジェクトチームを組成し、課題解決をしながら学んでいくことが中心です。

物理的な学校のようなオフラインは、たとえば、約2週間に1回、どこかの場所を借りて実施することを想定しています」

4月下旬よりカリキュラム作成に協力する企業の公募を開始し、今後、参加する人材の推薦を産学から広く募集する。2019年末まで試験的にオンライン、オフラインで講座を実施した上で今後の方針を策定する。

AI Questの事業ノウハウ・成果などを民間企業にしっかり横展開していくことが重要だ」と小田切氏は語る。

――小田切
「経産省だけで取り組むには限界がありますので、AI Quest事業に協力いただける起業家や投資家などは大歓迎ですし、仕組みが整えば、将来的には当該事業を海外へ展開することも一つありえると思います。

経産省としては、まずは最初の枠組みを作ることが重要だと思っています」

最後に、AI Questを通して作りたい世界観を聞いた。

――小田切
「日本には連続起業家や、稼いだお金を誰かに投資する人はまだ海外と比べると多いとはいえません。しかし、資本主義の本質は“Capitalism”の“ism”の部分であり、ismとは“らしさ”なんです。資本主義らしさとは何かと言うと、稼いだお金を再投資することだと思っています。

AI Questなどの人材育成事業で社会にAI人材を送り込み、産業を活性化する。その先に、お金を稼いだ人が次の世代へ再投資する循環を日本に作っていきたいです」

4月22日から、3日間に渡って開かれるアプライドAIサミット(AI/SUM)では、

  • 株式会社Cogent Labs 代表取締役CEO 飯沼 純氏
  • 株式会社グリッド 代表取締役 曽我部 完氏
  • 合同会社DMM.com CTO 松本 勇気氏
  • 株式会社SIGNATE 代表取締役社長 齊藤 秀氏

などの豪華登壇者が、AI・データを使いこなせる人材の育成政策について議論するセッションも開催され、小田切氏もモデレーターを務める。

AI人材の育成方法や、AI Questについてさらに詳しく知りたい方は、ぜひ足を運んでほしい。