悪貨が良貨を駆逐する? 政府発表「AI人材25万人育成」に必要な正しい理解

このエントリーをはてなブックマークに追加

政府の統合イノベーション戦略推進会議は3月29日、有識者による国家AI戦略の案を示した。

AI戦略としては、「人間尊重」「多様性」「持続可能」の3つの理念を掲げ、Society 5.0を実現し、SDGsに貢献するという。そのために、以下の4つの戦略目標を設定している。

Society 5.0
サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。
出典:内閣府
SDGs
2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)ことを誓っている。
出典:外務省

出典:AI戦略(有識者提案)及び人間中心のAI社会原則(案)について

注目すべきは人材教育の観点だろう。

  • すべての大学、高専の年間卒業生約50万人が、初級レベルの数理、データサイエンス、AIを習得
  • 文理問わず一定規模の大学、高専生の年間卒業生約25万人が、自らの専門分野における数理、データサイエンス、AIの応用基礎力を習得

を目指すという、具体的な数字に踏み込んだ(有識者提案)。

そのほか、初等中等教育、社会人へのリカレント教育にも言及し、すべての世代でAI人材を育成していく方向性を示している。

出典:AI戦略(有識者提案)及び人間中心のAI社会原則(案)について

政府もAI人材育成に注力するなか、ディープラーニングの基礎知識を持ち、産業活用を適切に推進できる人材の資格試験であるG検定も、受験者数、合格者数を毎年伸ばしている。

JDLAのプレスリリースによると、2017年のG検定実施開始以来、実に6,199名のAI人材が誕生している。

出典:JDLAプレスリリース

経産省で進むデータ、AI人材育成の議論

3月1日、スキルアップAI株式会社主催による「徹底攻略 ディープラーニングG検定 ジェネラリスト問題集」のイベントにおいて、日本ディープラーニング協会(以下JDLA)、経済産業省(以下経産省)、JDLA会員企業などが登壇した。

政府がAI戦略の実現に力を注ぐなか、特に経産省の活動は活発だ。昨年策定された、民間事業者がAI、データに関わる契約や考慮すべき点をまとめた「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」も、経産省がとりまとめている。

参考:AI・データの利用に関する契約ガイドライン

イベントに登壇した経産省商務情報政策局の小泉誠氏は、特定の業界にとどまらず、政策を横串で立案、推進している。

小泉 誠氏 経済産業省 商務情報政策局 情報経済課

EUでは「一般データ保護規則(GDPR)」の議論が渦中にあり、中国では国を挙げてのデータ活用が進められ、世界ではGAFAを中心にデータ活用の議論が進んでいる。

一般データ保護規則(GDPR)
《General Data Protection Regulation》EU一般データ保護規則。EU(欧州連合)の個人情報保護法制。個人データの処理に関する個人の保護、および個人データの自由な流通のための規則を定めたもので、EU加盟国に直接適用される。EEA(欧州経済地域)から第三国や国際機関に個人データを移転する場合には所定の手続きが必要となる。2016年発効。2018年施行。出典:デジタル大辞泉

データ活用において注目すべきキーワードは「倫理」だと小泉氏は言う。国家戦略を考える上でも、礎としての倫理が重要だ。2020年に大阪で開催されるG20をマイルストーンとし、日本が議論をリードできるように準備を進めている。

また経産省は、民間主導で進める実践的なAI人材育成においても、JDLAなどの有識者団体と議論を進めている。小泉氏は、AI人材育成には「疑似経験」が重要だと語る。

――小泉
「個人的に、実践的なAI人材育成には疑似経験学習が重要だと思っています。ハーバード・ビジネス・スクールのデータ版のようなイメージです」

また、データを保有する大手企業と、技術、人材を保有するベンチャー企業をつなげる取り組みも行っており、今期はABEJAなどを含めた25件の採択が決まっている。

正しい理解がなければ、悪貨が良貨を駆逐する

AI人材を育成すべきだという声もある一方で、そもそも何をもってAI人材とするのか? という議論もある。AI自体の定義がはっきりしていないためだ。

関連記事:ヨーロッパのAIスタートアップ40%がAIを使っていない…… 大事なのは定義か?

イベントに登壇したJDLA事務局長の岡田隆太朗氏は、昨今のAIに関する議論の状況を「AIはスーツケースワードとして使われている」と強調。“とりあえずなんでもAIと言っておく”ことで一定の注目を集めてしまう状況に警鐘を鳴らす。

その先にあるのは、「悪貨が良貨を駆逐する」未来だ。

岡田 隆太朗氏 日本ディープラーニング協会事務局長
1974年生まれ。東京出身。慶應義塾大学在学中に起業し、マーケティング分野で事業を展開。事業売却後、コミュニティオーガナイザーとして活動し、2017年のJDLA設立にあたり事務局長に就任。
――岡田
「一番の問題は、そもそも『何を理解すればディープラーニングを理解している』ことになるのかが曖昧なことです。

ディープラーニングの理解が足りない業者が受託で案件を受けてしまい、失敗すれば、『ディープラーニングはこの程度か』とユーザーの期待を裏切ることになります。それを防ぎたい」

ディープラーニングは決して万能ではない。できることも、そうでないこともある。その線引きを適切にできる人材を増やすために、G検定を創ったと岡田氏はいう。

JDLAは、

  • 産業活用促進委員会
  • 公共製作委員会
  • 試験委員会

などの委員会や、セミナーなどの情報発信を通じ、ディープラーニングの適切な理解、及び産業活用の普及に務めている。その中でやはり核となるのは、G検定実施による人材育成だ。

――岡田
「ディープラーニングを開発する人材だけでは社会実装は進みません。ヒト・モノ・カネの経営資源を適切にディープラーニングに組み込んでいける人材が必要です。技術とビジネスの間に橋をかける人材です。

日本はインターネットの時代、まさにこの技術とビジネスとの橋渡しができずに諸外国に負けました。G検定を、経営者など大きな決断をできる層に受けてもらい、ディープラーニングを適切に活用して経営できるようにしたいと思っています」

参考:
徹底攻略 ディープラーニングG検定 ジェネラリスト問題集
AIジェネラリスト基礎講座
講座日程・開講日
東京 第9期 4/14(日)
東京 第10期 4/19(金)
東京 第11期 5/14(火)
東京 第12期 5/18(土)
東京 第13期 6/10(月)
東京 第14期 6/8(土)
大阪 第5期 5/31(金)
名古屋 第5期 近日公開予定