「ディープラーニングは理論ではなく感覚」ソニー・日本ディープラーニング協会・キカガクが語るAI人材育成法

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2018年12月、レッジは「AI TALK NIGHT 2018」をDMM.comと共催しました。

これから必要なディープラーニング人材とは」と題したセッションでは、AIの講座を提供する株式会社キカガクの代表 吉崎 亮介氏、NVIDIA Corporationの事業部長、JDLAの理事を兼務する井﨑 武士氏、ディープラーニング開発のGUIツール Neural Netowork Consoleを提供するソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社の小林 由幸氏が登壇。

そもそもAI人材の定義とは? という疑問からスタートし、AI人材に求められるスキルや育成法にも議論は白熱。AI人材を採用したい、育成したい企業必聴の講演となりました。

AI TALK NIGHT
成長著しいAIソリューションは、どのようにして自社の業務やサービスに活かせるのか? AI TALK NIGHTは、AI導入を検討する企業が持つ悩みを、ゲストに直接ぶつけられるトークイベントです。業界のスペシャリストを招き、最先端の情報に触れる機会を提供します。
スピーカー
小林 由幸氏
ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社/ソニー株式会社 シニアマシンラーニングリサーチャー

1999年ソニーに入社。機械学習技術の研究開発をはじめ、近年ではディープラーニング関連の技術・ソフトウェアの開発に従事。


井﨑 武士氏
日本ディープラーニング協会 理事

1997年東京大学工学部材料学科卒業後、1999年東京大学大学院工学系研究科金属工学専攻修了。1999年日本テキサス・インスツルメンツ株式会社に入社。DVDアプリケーションプロセッサ、携帯電話用カメラ映像、画像信号処理プロセッサ、DSPアプリケーションの開発を経て、デジタル製品マーケティング部を統括。エンターテイメント製品からインダストリアル製品にいたる幅広い領域のビジネス開発に従事。2015年NVIDIAに入社し、深層学習(ディープラーニング) のビジネス開発責任者を経て、現在エンタープライズ事業部を統括。


吉崎 亮介氏
株式会社キカガク 代表取締役社長 / 東京大学客員研究員

ビジネスの現場で使える人工知能(AI)を目指し、企業向けの教育やコンサルティングを行う。日本マイクロソフト・Preferred Networks両社公認のデータサイエンス人材養成トレーナーに抜擢され、現在は東京大学やG’sアカデミーなどでも講師として教鞭を執る。設立から2年で受講生は10,000名を超える。


モデレーター
飯野 希
株式会社レッジ 執行役員

2016年3月に株式会社ビットエーへ入社。AI特化型メディア「BITAデジマラボ(現Ledge.ai)」を立ち上げ、編集長に就任。後にメディアを軸としたAIコンサル事業の立ち上げを行う。2017年10月に、BITAデジマラボの部隊を株式会社レッジとして子会社化。今はレッジの執行役員として、日々奮闘中。

ビジネスと技術の「二刀流人材」が求められている

まずはそもそものAI人材の定義について、データサイエンティスト協会が提唱しているデータサイエンティストの定義をたたき台に議論は始まりました。

――飯野
「データサイエンティスト協会では、

  • ビジネス力
  • データサイエンス力
  • データエンジニアリング力

の3つをあわせ持つ人材をデータサイエンティストと定義していますが、AI人材はどのようなスキルを持った人材を指すのでしょうか?」

ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社/ソニー株式会社 シニアマシンラーニングリサーチャー 小林 由幸氏
――小林
「AI、ディープラーニングを扱うのに、特別なスキルは必要ありません。

必要なのは『どのような技術を使うと顧客の課題を解決できるのか?』『ボトルネックとなる課題は何か?』などの点を突き詰められるクリエイター的な視点。いわゆる『課題発見力』は、AI人材を構成するひとつの要素です」

――井﨑
「課題発見力は、今まさに求められている能力です。ディープラーニングで何ができるのかを理解し、企業が持つ課題の本質を見極めてアプローチを検討する。このような人材を、JDLAでは『ジェネラリスト』として定義しています。

ディープラーニングの中身をきちんと理解した上で、最終的にマネタイズポイントまで考えられる人材育成のため、G検定などの資格試験も設けています」

自社のビジネスモデルにAIを適用するためには、「そもそも精度をどこまで求めるべきか考える必要がある」とキカガクの吉崎氏はいいます。

――吉崎
「ビジネスモデルと精度の関係は、AIの精度と売上のグラフを描くと理解しやすいです。例えば、自動運転では事故の危険性があるので、精度が高くないと事業として成り立ちません。

一方、Amazonなどで使われるレコメンデーションは、それ自体がビジネスを成り立たせるのに必須ではないので、AIの精度が出なくても売上は立ちます。最終的に精度と売上が線形的に伸びるのが理想ですが、『どの程度の精度が自社のビジネスにおいて必要か』は考える必要はありますね」

――吉崎
「また、顧客に対してAIを提供する立場では、AI開発の契約書周りをカバーできる人材が必要です。

  • 作ったモデルは誰に帰属するか
  • 納品の形態、定義
  • モデルとシステムのつなぎ込みの詰め

といった、AIを実装する上で課題設定や契約、見積もりを適切にできる人材こそが今求められています」

二刀流AI人材育成のカギは「とにかくやってみる」こと

「では、技術とビジネスの二刀流を身に付ける方法は?」という問いに、小林氏はこう答えます。

――小林
「やはり『習うより慣れろ』です。ディープラーニングは従来のシステムとは開発方法が大きく違うので、マインドセットの変革を要求されます。

なので、まずは使ってみて本質をつかむ。GUIで開発できるツールも出ているので、スマートフォンのように表面的な部分だけ理解して操作できればいい。必ずしも数学は必要ありません」

では、教える側は何をすればいいのか? キカガク吉崎氏は「コンサルティングのフレームワークに当てはめてしまえばいい」と言います。

株式会社キカガク 代表取締役社長 / 東京大学客員研究員 吉崎 亮介氏
――吉崎
「人材育成で最も簡単なのは、コンサルティングファームが使っているフレームワークを覚えてしまうことですね。人材が現状どの程度のレベルかを把握し、『目標の人材像 − 現状 = ギャップ』を考え、それを埋めるための施策を考える。なので、

  • ゴール(目標の人材像)
  • 現状
  • ギャップ
  • 施策

の4つを整理すればいいです」

JDLAがジェネラリストを「ディープラーニングの基礎知識を有し、適切な活用方針を決定して事業応用する能力を持つ人材」と定義しているように、まずは目標とする人材像を明文化してみることから始めてみるのもいいかもしれません。

また、小林氏は「教える側が学びたくなる環境をデザインすること」が重要だといいます。

――小林
「文系の方が集まるセミナーで『株価を予測するAIを作りましょう』と提案すると、単なるバズワードだったディープラーニングと自分がつながるらしく、みなさんテンションが目に見えて上がりますね。

つまり、楽しく学べるような環境をデザインすることが大事です。海外のエンジニアは、新しい技術を見るとおもちゃを与えられた子供のように喜びます。日本人は上から言われてディープラーニングを仕方なくやる風潮がありますが、世界は違うんだと言いたい」

――井﨑
「NVIDIAのエンジニアは、まず自分でプロトタイプを作るんですね。Githubなどからコードを落として勝手に作ってしまう。

ビジネス側が面白そうなゴールを設定することで、エンジニアは勝手に走り始めます。人材育成も同様で、教える側として、教わる側がワクワクするようなゴール設定を意識すべきだと思います」

「人を育てるようにモデルを育てる」活躍する人材のパーソナリティ

では、今後活躍するAI人材はどのようなパーソナリティを持つ人物なのでしょうか?

――小林
「機械学習が得意な人とディープラーニングが得意な人は違う性質を持っていると思っていて。パーソナリティのレベルでディープラーニングが得意な人に任せないとグローバルでは勝てません」

従来の機械学習エンジニアリングでは課題を分解する能力が重要でした。そのため、システムの中で起こっている現象をそのまま理解するのが好きな人が向いていたとか。

ところが、ディープラーニングは『エンドツーエンド』と言われるように、中身はブラックボックスです。そのため、中身の理解に時間を使うより『結果として何がしたいかという目的思考が強い人』『とにかく結果を出して検証したい人』がディープラーニングに向いているといいます。

――吉崎
「ディープラーニング未経験で入社し、今では講師も兼業する優秀な社員は、『本などで大枠を掴んで、とりあえず使ってみる』を徹底していました」
日本ディープラーニング協会 理事 井﨑 武士氏
――井﨑
「確かに、アカデミックで学んだからといって、ビジネスで活躍できるとは限りません。論文を書くような学術的なタイプと、企業でトライアンドエラーを繰り返すタイプは、後者の方が社会実装の領域では活躍しますね。

つまり、重要なのは頭でっかちにならずに顧客が欲しい機能を適切にヒアリングできるということです。顧客の課題にはどんな機能環境が必要かを理解し、不明点を解消するまで聞き、適切な支援ソリューションを提示できることが重要と言えます」

――小林
「加えて、観察力がある人はディープラーニングに向いていると思います。

乱暴にデータを追加したり、とりあえず最新論文の手法を使ってみるのではなく、ニューラルネットワークのインプットとアウトプットを観察し、適切な修正を行える人は、精度の改善が得意なようです。

ディープラーニングにおいて必要な観察力とは、人を育てるようにモデルを育てることだと思います。最終的に感覚になってしまって申し訳ないのですが(笑)」

ここまでディスカッションを聞くと、ディープラーニングに取り組む上で必要なのはエンジニアリングなどのハードスキルではなく、目的思考や観察力などのソフトスキルだというのが興味深いです。

逆に言えば、ソフトスキルを持つ人がディープラーニングの知識を得れば、一気に競争力の高い人材になれるということ。

G検定や無料のオンラインコースなど、AIを学ぶ手段は次々に出てきています。まずは始めてみて、試行錯誤し、エンドツーエンドの感覚を体に覚え込ませていく。その地道な繰り返しが、ディープラーニングのビジネス実装を成功させる一歩かもしれません。