AIが当たり前の時代だからこそ知りたい。プロジェクト進行のツボをおさえる『超実践!AI人材になる本』

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もはやAI導入は特別なことではなくなってきている。そんな「AIが当たり前な時代」に出るなんてどんな入門書だろう、と思ってページをめくってみたら……なるほど、この本は導入プロジェクトの全体像を見渡せる「攻略本」といえるかもしれない。

AIプロジェクトが失敗する3つの原因 共通するのは……?

今回紹介する『超実践!AI人材になる本 プログラミング知識ゼロでもOK』監修者の大西可奈子氏は、NTTドコモ、情報通信研究機構(NICT)の雑談対話システムの研究開発を経て、AIプランナーとしてAIの設計や運用に携わってきた。

大西氏によると、さまざまなプロジェクトに参加してきた中で、AIプロジェクトが失敗してしまう原因は3つあるという。

  • 企画側と開発側で認識がズレた状態で開発が進む
  • 開発の途中で予算が不足してしまう
  • 予定していた機能の実装が技術的に難しくなる

すべて「企画者と開発者のコミュニケーション不足」が関係しており、2者のあいだに共通言語がないからディスコミュニケーションが発生してしまうのだ。

本書では「文系AI人材=AIエンジニアと相談できる人材」をめざす人向けに、AIエンジニアとの共通言語になる、AIプロジェクトの基本知識を解説。非エンジニアに本当に必要な情報をしっかり届けたいという思いで執筆されているという。

数学や統計が苦手でも、パソコンが苦手でもかまいません。企画、営業、広報、人事、総務など、今どんな仕事をしていてもかまいません。ただひとつ必要なのは、あなたがあなたの会社のビジネスロジックを理解しているということ。ビジネスロジックを熟知しているあなたが、ほんの少しAIの勘どころ理解するだけで、AIエンジニアとのコミュニケーションが成立するようになります。

出典:『超実践!AI人材になる本』p.4

>>書誌情報

想定ターゲットは?

  • AI導入・開発プロジェクトに関わる(もしくは興味がある)非エンジニア
  • AI関連の技術をざっくり知りたいPM、PMO
  • 未経験からAI関連の企業・職種に飛び込もうという人、AIビジネスプランナー、文系AI人材をめざす人

機械学習の学習法を人間にたとえると

本書はAIの基本知識に触れたあと、文系AI人材に必要な能力「企画力」「分析力」「推進力」を3〜5章で説明し、最後にAI活用の成功実例を紹介している。

1章〜2章は、文系AI人材の定義やAIの概要、機械学習のモデル説明が中心だ。数式は一切登場しないので、数学アレルギーの方も安心されたい。ストーリー調の解説や表現(「機械学習3兄弟」、AIプロジェクトをレストラン経営に例えるなど)が特長的で、「こう伝えられるのか」と感心させられた。

真面目な優等生タイプの教師あり学習、気まぐれでマイペース型の教師なし学習、手のかかる末っ子タイプの強化学習……と、親しみやすい表現で理解できる 出典:『超実践!AI人材になる本』p.52

AIのできることや教師あり学習・教師なし学習の特長、フレーム問題など他の入門書でも触れられている内容が多く、すでに類似書を読んでいるという人はスキップしても3章以降は読める。が、「AIのできること」(p.36〜)はざっと目を通してもいいかも知れない。マスク着用時の画像認識など、紹介されている事例が新しい。

6章の「AIを使って課題を解決したい!」も成功実例の紹介だ。こちらはプロジェクト課題→AIシステム概要→解決 の図説が見やすいだけでなく、事例を見ていくポイントが分かる。見開きで1事例を解説しており、パラパラめくりやすいのもうれしい。

ここを読めばPoC死回避 「AI導入への7ステップ」

3章、4章はプロジェクトに活かしやすい実践的な話題が多く、アノテーションマニュアル作成のポイントや「課題を発見する3つの質問」、学習モデルの評価方法といったワークも差し込まれている。

個人的に興味深かったのが5章「AI導入への7ステップ」だ。この章では、AI開発手順を7つのステップに分解し、各行程でのポイントを挙げている。

特にPoC(Proof of Concept、概念検証)は多くのページが割かれて、解説が手厚い。

序盤で「PoCが必要でない場合もある」という文言を使いつつ、開発するサービスの難易度や結果予測に触れているのは好感が持てた。AI開発の前に改めてサービス全体をふりかえり、検証をする大切さが伝わってくる。

あわせてPoCをするベストな時期、PoCを進める上での注意点(今できることと将来できることとの切り分け)も綴られている。企業でのAIプロジェクトというと、さまざまな事情から高い完成度を目指したくなる(あるいは求められがちになる)が、本書の「今できなくても完全な失敗ではない」「最低限ここまでできたらOKというラインを引く」という言葉を胸にとどめておけば、PoC死の確率はだいぶ下がるのではないだろうか。

最後のステップ「AIシステム運用」も、AI開発を始めるまでに知っておきたい内容に思えた。特にプロジェクトの評価はエンジニア・非エンジニア関わらず意識しておきたいものだ。

他にも教師あり学習と教師なし学習の代表的なアルゴリズムの分類表や開発ステップの解説など、文系AI人材(非エンジニア)と機械学習エンジニアのコミュニケーションが進みそうになる要素がちりばめられていた。「どうすれば精度が上がるかを率直に機械学習エンジニアに聞いてみましょう」というのは賛否両論かも知れないが、よくわからない分野だからとノータッチで敬遠するより、プロジェクトを円滑に進めやすくなるだろう。

プロジェクトの当事者じゃなくても知りたいAI知識

タイトルだけを見ると「AI初心者向けの広く・浅く知識をカバーする本?」という印象を受けたが、中身はAIプロジェクト進行ノウハウが詰まった骨太な本。良い意味で期待を裏切られた。

この本はプロジェクト進行全体をディレクションする”文系AI人材”の視点で語られているが、「AIベンダへの相談を考えている企画担当者」がよりフィットしそうだなと感じた。実際のプロジェクトではこの本で語られないようなトラブルが起こることもあるので、プロジェクトをスムーズに進められるかどうかは経験に裏打ちされる部分が大きいだろう。大きい企業になるほど、社内政治をはじめいろいろな要素が絡んでくる(とよく聞く……)からだ。

ビジネスでのAI導入をざっくりと知れるという意味では、”プロジェクトの当事者”ではない人たちにも読んでほしい一冊だと感じた。
AI導入が「当たり前」になりつつある今、AI関連の技術に興味が持てなかったり、なんとなく苦手意識があったりする。AIが脅威だと思っている。そんな人の不安も取り除けるんじゃないかと考えた。

書誌情報

監修大西可奈子
発売日2021年9月16日
出版社学研プラス
ISBN9784054068377
価格1,760円(税込)