2020年1月下旬に初めて日本国内で感染者が発見されてから、現在もなお猛威を奮っている新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)。「自粛ムードに耐えられない」「先行きを考えると気が滅入る」という人も少なくない中で、新たな取り組みを始めるAI企業も多い。
2020年4月14日現在までの期間、見えざる脅威に対してAI関連企業はどのようなサービスを展開し”戦って”きたのか。日本企業を中心に、その軌跡を追ってみる。
原因不明肺炎の発生からウイルスの日本上陸まで
はじまりは2020年1月10日。厚生労働省が、中国・武漢市で原因不明肺炎が発生していると報告。同1月16日、武漢市から帰国した感染者が新型コロナウイルスに感染していたと発表、日本国内で最初の発症例となる。1月23日ごろ、中国の春節(旧正月)に伴い訪日中国人が増加。翌日、国内2例目となる感染者が確認された。
これを受けて1月27日、GMOインターネットグループが、渋谷・大阪・福岡エリアに勤務する従業員を在宅勤務にすると発表した。同社を皮切りに、さまざまな企業が従業員の働き方を模索することになる。
GMOインターネットグループ、新型コロナウィルスの感染拡大に備え在宅勤務体制へ移行(外部リンク)
新型コロナ対策の先陣を切ったのはAIチャットボットサービス
新型コロナウイルスに対するAIソリューションとして、初めてのプレスリリースが届いたのは、大型クルーズ船のダイヤモンド・プリンセス号が横浜に帰港した翌日の2月4日。ビースポークが、訪日外国人向けチャットボット「Bebot」の、新型コロナウイルス情報の無償提供に踏み切った。
出典:訪日外国人向けAIチャットボット「Bebot」、新型肺炎に関する情報を多言語で無償提供開始|ビースポーク のプレスリリース(外部リンク)
ここから、AIチャットボットの新型コロナウイルス対応が始まる。2月7日にはLINEが「新型コロナウイルス感染症情報 厚生労働省」の公式アカウントを開設。新型コロナウイルスの発生状況や予防方法、健康相談をAIチャットボットで自動受付している。
出典:新型コロナウイルスに関する問合せに対応するLINE公式アカウントを開設 | ニュース | LINE株式会社(外部リンク)
他にも、ギブリーがAIアシスタント作成ツール「PEP」利用企業向けに新型コロナウイルス関連の問い合わせテンプレートを提供し、hachidoriが自治体向けにチャットボットを無償提供した。いずれも2月中のことである。
新型コロナウイルスに関するよくある質問にAIアシスタント「PEP」が自動応対。利用企業に無償提供開始。|株式会社ギブリー(外部リンク)
hachidori、新型コロナウイルス感染症に関するチャットボットを自治体へ無償提供| hachidori株式会社(外部リンク)
3月に入ると、有料プランのサービスを自治体に無償提供する企業も登場。AIオペレーターやチャットボット導入のハードルを下げるとともに、日々の問い合わせに疲弊する担当者を支える取り組みを続けている。
Hmcomm、新型コロナウィルス関連の問い合わせ対応に、AIオペレーター「Terry」の無償提供、自治体向けに。|Hmcomm株式会社のプレスリリース(外部リンク)
【緊急のご案内】新型コロナウィルス感染拡大に伴う 官公庁/自治体・医療/教育/公共交通機関・イベント主催者/施設/飲食店/宿泊/託児施設・NPOボランティア向けChatPlus無償提供のお知らせ(外部リンク)
新サービスAI電話自動応答システム「mobiVoice」を提供開始第一弾は、新型コロナや災害・震災対応として自治体向けに無償提供スタート | モビルス株式会社(外部リンク)
ウイルス感染者を検知する画像認識で感染拡大を防ぐ
感染者が世界的に増え始めた2月末頃から、画像認識技術を活用した製品が増え始めた。
データスコープは2月26日、顔認証で体温検知ができるカメラ・入館システムを発表。顔認証と体温検知の組み合わせにより、発熱リスクがある感染症患者を検知できる。価格は17万円から。
出典:顔認証+体温検知の技術で体温を瞬時に検知。「感染症の拡大を予防する顔認証カメラ」を国内で初めて発表。|株式会社 データスコープのプレスリリース(外部リンク)
同社によると、少なくとも1日10件、多い日には倍以上の問い合わせを受けているという。
この特需において多くの需要に応えるべく、特別生産ラインを確保いたしました。これにより弊社は更なる要望と需要に対して、必要とされるプロダクトの供給に引き続き全力で取り組んで参ります」
マスクを着けたまま顔認証ができるAIエンジンも開発された。
出典:リアルネットワークス、AI顔認証SAFR™に新機能追加―マスク着用でも認証可能|リアルネットワークス 株式会社のプレスリリース(外部リンク)
最大30人の体温を同時に測定するシステムも登場。商業施設やオフィスビルなど、大勢の人の中から発熱者を瞬時に判別できる。
出典:【新型コロナ対策】最大 30 人の体温を同時測定、AI 搭載の高精度体温検知システム~感染症の拡大防止、安心・安全の提供~(外部リンク)
医療現場での画像認識活用も、いっそう進みそうだ。ドクターネットは中国のAI開発会社との共同研究を開始した。胸部のCTスキャン画像から、新型肺炎を発症しているか判断するエンジンの実用化をめざしている。
新型コロナウイルス感染症の画像診断において中国AI開発会社との共同プロジェクトの契約を締結|お知らせ一覧|遠隔画像診断サービスの株式会社ドクターネット(外部リンク)
全国小学校の休校要請を受け、AIオンライン学習コンテンツが増加
2月27日、政府は全国の小学校に一斉休校を要請した。この頃から、家庭学習用の教材として、自宅学習向け教材への注目が高まっていく。
一斉休校要請に先んじて2月25日、AIによるアダプティブ・ラーニング対応の学習教材「atama+」のWeb版がリリースされた。
新型コロナウイルス対策として、生徒が自宅で受講可能となるAI先生「atama+」のWeb版を開発、導入塾・予備校への臨時提供を開始 | atama plus株式会社(外部リンク)
これまで塾や予備校内のタブレットでのみ利用可能だったものをブラウザ上で提供し、生徒の自宅PC・タブレットからアクセスができるようになった。
出典:新型コロナウイルス対策で広がるAIを活用したオンライン授業 「atama+」Web版導入塾・予備校の500教室以上で開始(外部リンク)
atama plus広報の一ノ宮朝子氏によると、「2020年4月12日現在、atama+Web版の導入塾・予備校は800教室を越え、塾・予備校や保護者からも感謝の声が多数届いていております」とのことだ。
atama plusとしては、一人ひとりに合わせた学びを可能にするatama+および、生徒の学習姿勢や学習状況を知らせ講師のコーチングをサポートするatama+ COACHを提供し、塾・予備校の方々とともに、生徒たちが自宅で安心して学びを継続できる環境を届けてまいります」(atama plus株式会社代表取締役・稲田大輔氏)
4月13日、ベネッセグループの東京個別指導学院も、中学生・高校生向け「自宅学習AI教材」を提供開始し、全個別指導教室で導入。子どもたちの自宅学習をオンラインで支援する。
AI教材を活用しオンラインで自宅学習を支援 お客さまのために、一人ひとりの不安に寄り添い学習継続をサポート(外部リンク)
無償でAI技術を学べるコンテンツも増えた。AI Academyは期間限定で、同社のAIプログラミング学習サービスを全国の小中高生を対象に無償提供した。
児童・生徒だけでなく、すべての人が対象になっているコンテンツも多い。N予備校は大学受験講座などのほか、機械学習入門コースを含むプログラミングコースも無償提供している。
キカガクは、機械学習やディープラーニングを基礎から学べるオンライン学習サイト「KIKAGAKU」を公開。誰でも無料で利用できる。
AIによる行動分析結果を公開
3月1日、新型コロナウイルスの感染場所の共通点として、密閉空間・密集場所・密接場面(3密)が挙げられた。クラスター(集団)感染を防ぐために不要不急の外出自粛が叫ばれるようになり、AIで人々の行動ビッグデータを分析する動きが目立ちはじめる。
Spectee(以下、スペクティ)は、AIでSNSを解析し、新型コロナウイルスの感染状況を監視するシステムを開発。複数のSNSから情報をリアルタイムに収集・解析することで、発生場所を特定する。
AIを活用したSNS解析による新型コロナウイルスの感染状況監視システムを開発、関係機関に導入 | スペクティ(株式会社Spectee)(外部リンク)
同社は4月1日のエイプリルフールに向けて、SNSでのデマ情報監視を強化。特にリスクが高い情報は官公庁や自治体に伝達するほか、スペクティ公式Twitterではフィッシング詐欺や悪質なチェーンメールへの注意喚起を呼びかけた。
JX通信社は、同社のAI緊急情報サービス「FASTALERT」で収集した、新型コロナウイルスのリアル感染者数データをAPIとして提供。併せて、感染者が発生した場所のマップをアプリ「NewsDigest」内で公開している。
感染事例のある場所を地図でチェック。NewsDigestアプリ内で新型コロナウイルスの「感染事例が報告された場所の情報」マップを提供開始(外部リンク)
位置情報ビッグデータを活用し、AIで人の流れを推定した調査報告も多く紹介された。クロスロケーションズは、同社の位置情報データ活用プラットフォーム「Location AI Platform™」を用い、全国の観光地や繁華街などの来訪者数、来訪比率を公開した。
出典:【調査報告 第2弾】全国の位置情報ビッグデータをAIが推計した調査結果の続報を発表 新型コロナウイルス感染症対策の政府基本方針発表前後で 人の流れの変化が鮮明に(外部リンク)
オープンソース化による、知見を持ち寄るアプローチ
3月6日、東京都が新型コロナウイルス感染症対策サイトを開設、同時にGitHubリポジトリもオープン。MITライセンスでソースコードが公開され、台湾のデジタル担当大臣オードリー・タン氏がプルリクエストを送ったことで話題になった。
都内の最新感染動向 | 東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイト(外部リンク)
ひとりひとりが各自の知見を持ち寄る動きはより加速していく。SIGNATEは、「COVID-19チャレンジ」と称したデータサイエンティスト向けコンペを開催。配信方法がバラバラな国や地方自治体からのデータセットを構築し、それを使った分析チャレンジを続けている。
一般法人が、学術分野の情報に簡単にたどり着けるツールも登場。VALUENEXは、テキストデータ解析ツール「DocRadar」と医学論文の一部データを3月26日から1ヶ月間無償提供。リリースによると、「大量の知見を得ることで、市場動向の予測などに役立てて欲しい」としている。
新型コロナウイルス (COVID-19) に関する医学論文の全体像から傾向を把握 — VALUENEX株式会社 | バリューネックス株式会社(外部リンク)
おわりに
AIチャットボットによる自動対応や人々の行動分析の公開など、2002年のSARS(重症急性呼吸器症候群)、2012年のMERS(中東呼吸器症候群)の流行時には想像できなかった景色が、いま現実になっている。
ここまで日本企業を中心に取り上げていったが、海外の企業も同じく、コロナ禍と戦っている。
インテルは4月7日、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大防止に向けた技術への取り組みに 5,000万ドルを拠出すると発表。顧客やパートナーがAI(人工知能)や高性能コンピューティングなどの技術を活用し、診断や治療、ワクチン開発を早期に進展できるようにするほか、PCの寄贈やオンラインの仮想リソース、また在宅学習でのガイドやデバイス接続支援を提供するという。
Coronavirus (COVID-19) Response and Support Hub – Intel(外部リンク)
米国疾病予防管理センター(CDC)は、マイクロソフトのHealthcare Botサービスを採用した「COVID-19 評価ボット」を導入。AIを活用し、医療機関に連絡したり、対面治療する必要のない人には自宅で安全に病気を管理するよう提案するなど、医師や看護師、管理者、その他の医療専門家の作業を軽減している。
COVID-19 (新型コロナウイルス感染症) に対抗するための団結 – News Center Japan (外部リンク)
Delivering information and eliminating bottlenecks with CDC’s COVID-19 assessment bot – The Official Microsoft Blog (外部リンク)
引き続きLedge.aiでは、AI技術を活用して危機に挑む人々の姿を伝えていく。