デート受諾率を8倍にするアプリAill「自分が欲しいサービスを作った(笑)」

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Aillを手がけた株式会社AILLの代表取締役である豊嶋千奈さん

株式会社AILLは8月3日から、世界初とうたう人工知能(AI)を活用する恋愛ナビゲーションアプリ「Aill(エール)」の事前登録を関東圏を中心に開始した。

AillはAIを活用し、紹介ナビゲーション/会話ナビゲーション/好感度ナビゲーションという3つのナビゲーションを利用者に提供。男女のコミュニケーションのすれ違いを緩和し、出会った後の関係進展をアシストする。

実際、2019年11月〜2020年3月までにトライアルを実施すると、チャット開通後1カ月以内でのデートへの進展率が、AIナビゲーションがない場合に比べ、8.3%から32.8%と4倍に。デートに誘った場合の受諾率もAIナビゲーションがない場合に比べ、10.3%から88.0%と8倍を達成した。

なお、本アプリは、福利厚生に導入した企業の独身社員のみ利用できる。「どこの会社なのか」「年収は?」などのいわゆるスペックではなく、「人となり」から相手と向き合える環境を実現するためという。

今回はそんな驚異的な数字を成し遂げるAillを手がけた、株式会社AILLの代表取締役である豊嶋千奈さんに「なぜこのサービスを開発したのか?」「具体的にどのようにアシストしてくれるのか?」など、質問をぶつけてみた。

「自分が欲しいサービスだったから(笑)」

公式サイトより

まず「なぜ、このサービスを開発したのか?」と聞くと、「なにより、自分が欲しいサービスだったからです(笑)」と打ち明けた。

──豊嶋千奈さん

「理由は2つあります。1つ目は、なにより、自分が欲しいサービスだったからです(笑)。Aillは自分が欲しいサービスにすることを突き詰めましたが、調査をすると、このようなサービスを欲しいと思っていた人は自分だけではないと明らかになりました。

2つ目は、社会的な意義を感じたことです。現在、日本社会は少子化や経済不調、企業のワーク・エンゲージメント低下など、さまざまな社会問題を抱えています。仮説・検証を重ねるうちに、私はこのような問題の根源は『個人の幸福』であると感じました。

もちろん、現代社会はどんどん価値観が多様化しているので、『結婚するかどうか』や『子どもを持つかどうか』はそれぞれの価値観にあった選択肢を選ぶのが良いと思います。しかし、少し大げさと思われるかもしれませんが、Aillにより『個人の幸福』を追求できる環境を作ることで、社会問題を解決する第一歩になるのではないかと考えています」

「日本で求められるのはニッチな尖ったAI」

ユーザーからは「相手の気持ちに寄り添った対話を一つ学んだ気がします」などの声も(公式サイトより

「コミュニケーションAIを採用した理由は何か?」と聞くと、「教師データとして、日本人のコミュニケーションの機微(きび)は最適です」と話した。

──豊嶋千奈さん

「AIのサービスを作るには、コミュニケーションが最適な条件でした。『日本は、アメリカや中国にはビッグデータでは勝てない』というのが定説だと思います。そのような状況のなかで、次に日本で求められるのはニッチな尖ったAIです。

(AillのAIシステム設計を手がける)東大の松原仁教授がよくおっしゃることですが、教師データとして、日本人のコミュニケーションの機微は最適です。良いのか悪いのかはわかりませんが、日本人は誰も傷つけないように優しいコミュニケーションを取りがちです。

コミュニケーションは、相手のことはもちろん、話のなかで収集するポイント、伝え方や伝えるタイミングなどがわかれば、お互いをWin-Win(ウィンウィン)に持っていくことができます。

このように、日本人のコミュニケーションをもとにした教師データを活用することで、コミュニケーションをアシストするAIサービスを制作できる、といった技術的な背景がありました」

「恋愛のコミュニケーションは1番難しい」

「なぜ、コミュニケーションのなかでも『恋愛』を選んだのか?」と聞くと、「AIの作りやすさという意味では、恋愛のコミュニケーションは最適です」と話す。

──豊嶋千奈さん

「AIの作りやすさという意味では、恋愛のコミュニケーションは最適です。恋愛はロジカルとエモーションが入り乱れています。おそらく、コミュニケーションのなかで1番難しいです。

しかも、人によってロジカルとエモーションの割合が違います。恋愛は両方を配慮したコミュニケーションが必要です。Aillはユーザーの行動に対して、『ここはロジカル』『ここはエモーショナル』と臨機応変に対応します」

最大の強みは「お付き合いから出会いまでを逆算する」こと

3つのナビゲーションにより、マッチングから交際までをサポートする(ニュースリリースより

次は「本サービスにおける最大の強みは何か?」と聞くと、「お付き合いから出会いまで『こうすれば、この人たちは相思相愛のカップルになる』という流れを逆算し、紹介やメッセージ、デートなど、それぞれ過程のアルゴリズムを変更しています」と説明している。

──豊嶋千奈さん

「通常、マッチングアプリの多くは、ゴール地点である『お付き合いしたかどうか』で効果判定をしています。過程の出会いやメッセージのやり取りなどには目を向けていません。しかし、今日出会って、明日すぐにお付き合いするのはなかなか難しいです。

調査するなかで、男女で『人生や恋愛、異性に対する価値観』『アプローチ方法、アプローチに対する評価指標』『次のステップに進むための目標やあるべき姿』が異なると明らかになりました。

Aillはこのような男女の特性を踏まえ、お付き合いから出会いまで『こうすれば、この人たちは相思相愛のカップルになる』という流れを逆算し、紹介やメッセージ、デートなど、それぞれ過程のアルゴリズムを変更しています」

「若い男女は『コスパ』を重視している」

「本サービスを始めるにあたり、調査のなかで何か驚いたことはあったか?」と聞くと、「若い男女は恋愛において『コスパ(コストパフォーマンス)』を重視していたことです」と話している。

──豊嶋千奈さん

「1番びっくりしたのは、若い男女は恋愛において『コスパ』を重視していたことです。この場合のコスパは金銭的コストではありません。精神コストと労働コストです。若い男女は恋愛において『やってもムダなこと』『成果が出ないこと』を負担に感じています。

表面上は『恋人がいらない』と言っていても、もし『コスパが低くなったら、恋人がほしい』というのが隠れた本音だと思います。

一方で、自分が行動したことが『ほぼ成果が得られる』とわかると、行動しやすくなります。Aillは『明日誘ってみてください』『このようにすると、好感度が上がります』と教えてくれます」

「『ところで、デートに行きませんか?』は却下される」

AIの効果により、デート実施率および交際率が上昇する(公式サイトより

デートへの進展率は4倍、デートに誘った際の受諾率は8倍と驚異的な数字だが、具体的にどのようにアシストしてくれるのか?」と質問すると、「『ところで、デートに行きませんか?』という文面は却下される傾向があります」と明かした。

──豊嶋千奈さん

「Aillはメッセージに関するアドバイスはもちろん、デートのタイミング、自然にデートに誘えるような会話なども教えてくれます。そのため、関係を構築してから、自然にデータに誘えます。

一方で、『ところで、デートに行きませんか?』という文面はデートを断られる傾向があります。もちろん、皆さんは『ところで』とは付けないのですが、デートに誘って断られるのは、関係を構築せずに、目に見えない『ところで』という前置きがありながらも、デートに誘っているというケースです。Aillのアドバイスを参考にすると、このようなミスは起こる確率が下がります。

このような行動分析を重ねるうちに、『この2人は進展の可能性が高い』と把握できるようになります。Aillは進展の可能性が高い人を紹介します。行動分析が重要なため、利用すれば利用するほど、精度は高まってきます。ちなみに、検索機能は年収や身長などの条件を絞ってしまう傾向があるため、導入していません。こちらから推薦するだけです。

デートの満足度も高くなるようにストーリーを設計しています。さきほどと少し重なりますが、男女でデートの評価軸はまったく違います。Aillはチャットで事前にデートのときに『どのような会話をすればうまくいくのか』を教えてくれます。実際にお付き合いという段階に進む方もいるので、紹介やメッセージだけではなく、デートの満足度も高いと考えられます。

さらに、どんどん関係が続いていくと、Aillが『お財布って将来、どっち派?』など、『聞きたくても聞けないこと』を代わりに聞いてくれます。このように、お付き合いや結婚の障害になるハードルを下げられるような設計も実現しました」

「Aillの技術を転用すると、AIで『利益を生む』こともできる」

最後に「日本人のコミュニケーションの機微が教師データに最適という話もあったが、今後は本サービスを恋愛以外のジャンルに転用することは考えているのか?」と聞くと、豊嶋千奈さんは「そうですね! すごく考えています」と明言した。

──豊嶋千奈さん

「恋愛は今後の転用性を見いだしやすいので、私たちは最初に恋愛を選んだのは『結果的に良かった』と思っています。

まずは、恋愛を突き詰めたいですが、人と人のコミュニケーションはいっぱいあります。営業やチームビルディングはもちろん、採用もやりやすいと思います。人と人とのコミュニケーションで現状とあるべき姿とのギャップがあるものには、転用できると考えています。

営業やチームビルディングでは100%ロジカルではうまくいきません。営業でも、ロジカルだけでは誰も商品やサービスを買わないのではないでしょうか。対して、家庭などのプライベートでもエモーショナルだけでは、なかなか何事が決まりません。恋愛以外のジャンルでも、ロジカルとエモーショナルのバランスが重要です。

たとえば、営業担当とお客さんが話している音声からテキストに落とし込めれば、AIがクロージング(顧客と契約を締結すること)するために何をするべきかを教えてくれるサービスが考えられます。Aillと同じようにストーリーを逆算して、クロージングの成功確率を上げるストーリーを描いていくサービスです。

現状では、AIサービスは『コストを抑制する』ことが主流です。『利益を生む』ことは難しいです。しかし、この技術を転用したときにはAIで『利益を生む』ことも可能ではないかと思っています」