【経産省×日経新聞】日本AI戦略最前線 ── 足りないのは“教育”と“投資”

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政府の平成31年度予算案で、AI関連予算が平成30年度予算の1.5倍、約1200億円に増額されました。増額の背景には、AI先進国である米国や中国に大きく遅れをとっているという危機感もあるようです。安倍晋三首相は、AIなどの先端技術を成長戦略の柱に据えていますが、日本のAI戦略はどうあるべきなのでしょうか?

日本のAI・IoT政策責任者、経済産業省 伊藤禎則氏と日本最大級のグローバルAIカンファレンスAI/SUMの仕掛け人、日本経済新聞社 山田康昭氏に話を聞きました。

伊藤禎則(写真左)
経済産業省 商務情報政策局 総務課長


山田康昭(写真右)
日本経済新聞社 編集企画センター ゼネラルプロデューサー
AI/SUM(アイサム)について
AI/SUM(アイサム): Applied AI Summit は、AIを実社会・産業へどう適用するかにスポットをあてた日本最大級のグローバルAIカンファレンスです。2019年4月22日-24日に東京・丸の内で開催されます。国内外の専門家、政策当局者や関連企業、スタートアップが集結し、AIが今後我々の社会にもたらす様々なインパクトを探ります。人を支配するのではなく、人と共に在り、人の力をエンパワーし、社会課題を解決するためのAI。日本発で、AIの可能性と潜在力を世界に力強く発信します。

AI人材育成は各国が注力

――AI導入を進めるなかで、多くの企業が直面する課題は人材不足です。人材が不足する現状をどう打開するべきか、率直な意見を聞かせてください。

――伊藤
「世界では、AI・データ人材の育成で新しい潮流が起きています。フランスに、プログラミングスクール『42(フォーティートゥ)』があるのをご存知ですか? そこの学生たちは、企業から提供された経営の実データを分析して、経営課題をテクノロジーでどう解決できるか、ビジネスの実例をひたすら学んでいます。

座学も大切ですが、実践形式でAIなどの先端技術を学べる教育機関が日本にも必要です」

人材育成は、世界が取り組む課題です。2019年6月に大阪で開催されるG20サミット首脳会議でも、重要なテーマとしています。しかし、旧来の日本の教育制度では、AI人材が育ちにくいと伊藤氏は語ります。

――伊藤
「日本では一般的に、文系と理系で専攻が分けられていますが、海外では一般的ではありません。AIなどのテクノロジーを使いこなすには、文理両方の要素が必要なため、文理融合を進めるべきです。

また、『人生100年時代』ですから、若い世代だけではなく、中高年代の人も継続して知識をアップデートする必要があります。誰もが最先端テクノロジーの恩恵を受けられるよう、リカレント教育制度の整備を進めています」

人材の流動性を増やしイノベーションを起こす

――山田
「AIを理解している人材は、引く手あまたになるでしょう。データ解析ができる人材やAIの設計思想などに詳しい人材が、どの企業にも必要です。AIを取り入れて経営をアップデートするか否かで、同じ業界でも企業間の差が圧倒的に広がります」

――伊藤
「日本企業がなかなかアップデートされないのは、一つには人材の流動性が少ないためです。新規事業部門だけで小さくまとまるのではなく、部門の壁を超えてAIを浸透させるべきです。副業、兼業を認めるなど、社内外の異なる要素を結合して、イノベーションを起こさなければなりません」

AIを浸透させるには、人材の獲得だけでなく、働き方や雇用形態を変える必要があります。人材不足を嘆く前に、組織改革や働き方改革に取り組まなければなりません。

数学の素養はAIに活かせ

――AI開発で他国に遅れをとる日本に勝算はあるのでしょうか?

――伊藤
「これまではサイバー空間にあるデータが重宝されていましたが、ここ3年ほどでIoT化の進展により、リアル空間からデータを取れるようになりました。

  • モビリティ
  • 医療
  • 介護
  • 製造・ファクトリー

など、日本が強みを持つ分野でデータが豊富にあるのはアドバンテージです」

出典:総務省「ICTの現状に関する調査研究」(平成30年)

――山田
「少子高齢化による人手不足もAI開発を後押しすると思います。AIの力を借りなければいけないという差し迫った状況下では、一度AIが導入されれば、すぐに日本中に広まるでしょう」

現在置かれている状況から冷静に日本の強みを見つめ直すと、AI開発・実装で世界をリードできる可能性はまだまだ残されていると山田氏は言います。

――伊藤
数学の素養が高いのも、強みのひとつです。日本の高校生は、国際数学オリンピックで毎年のようにメダルを獲得しています」

2018年に開催された第59回国際数学オリンピックでは、日本代表として高校生6人が参加。金1枚、銀3枚、銅2枚と、6年連続で代表全員がメダルに輝いています。

――伊藤
「しかし、こういった数学優秀層の進学先を調査してみると、5〜7割は医学部へ進んでいるとみられています。開業医になると平均生涯賃金が8億円だともいわれますが、この金額をサラリーマンで稼ぐのは難しい。だから、親御さんは医者になりなさいと勧めるんです。

医者ももちろん重要な職業ですが、数学の才能を生かして、AIやデータを扱う仕事をする人材も、もっと増えて欲しいと思います。

即物的な言い方かもしれませんが、世界のAI関連ビジネスでは、8億円どころかもっともっと稼げる可能性があります。日本全体をアップデートするAIのおもしろさを学生や親御さんたちに知って欲しいですね」

ヒトとカネを日本のAI企業に呼び込む

――山田
「日本のAIを世界に発信し、世界から人とお金を呼びこむことを目指して、2019年4月22日〜24日にグローバルAIカンファレンスAI/SUMを日本経済新聞社が主催します。

日本のAIスタートアップに人とお金が集まる環境、海外との競争に勝てる環境をイベントを通じて構築しようとしています」

――日本のAIが抱える課題を解決する上で、AI/SUMが果たす役割はなんでしょうか?

――伊藤
「“ヒト”という視点では、日本の若者や世界中の人材に、日本でのAI開発に携わることの魅力を発信していきたいです。海外の優秀な人材からすれば、日本企業が持つ豊富なリアルデータを自ら扱えることは、大変興味を引くはずです。

人以上に足りていないのが、実は“カネ”です。日本のAIスタートアップが資金調達できるのは、せいぜい2~3千万円規模どまり。海外のスタートアップのように数十億〜数百億円単位で資金調達するのはまだ非常に難しいです。

ビジネスを育てるにはカネが必要ですが、日本にはまだそのカネもヒトも眠ったままとなっています」

――山田
「海外と比べ、日本のAI企業の技術力が劣っている訳ではありません。同等の技術力を持っていても、海外スタートアップの方が大規模な資金調達に成功することもあります。

スタートアップに200億円投資するリスクをとれる日本の企業が出てきて欲しいと思います」

文部科学省が算出したAI関連民間投資額は、日本は6000億円以上で、米国の7兆円以上とは10倍以上の差があります。AIに投資する日本のカネの少なさが顕著に現れています。

――伊藤
「東京大学の総長がAI/SUMにコミットされるなど、世界との競争で勝つために、教育機関も危機感を持っています。日本の優秀な人材が生きていく活路を見出さなければなりません」

日本はAIで世界に追いつけるのか。AI時代に世界で通用するための教育と組織づくり、そして勇気ある投資がカギとなりそうです。

AI/SUMは、2019年4月22日-24日に東京・丸の内で開催されます。東京大学総長 五神 真氏、経済産業大臣 世耕 弘成氏、多数のAIベンチャー経営者をはじめ、国内外の豪華ゲストが登壇予定です。日本のAIビジネスは今後どう展開されるのか、すでにAIに関わっている方はもちろん、これまでAIに関わりがなかった方も、AIの最新動向を知る絶好の機会となりそうです。