「PoC、ぶっちゃけいくら?」製造業とAIの“リアル”をベンダー3社が語る

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近年、AIやIoTを活用した異常検知や外観検査など、製造業におけるAI活用の動きが広がりつつある。一方、そのノウハウや成功/失敗事例の裏側、勘所が語られる場はそう多くない。

そこで、レッジは6月25日、「製造業にもたらす変革と活用の潮流」というテーマで、製造業とAIに関する実態を語るAI TALK NIGHTを開催した。AI TALK NIGHTは今回で開催10回目を数える。

当日は、製造業へのAI活用のスペシャリストが登壇。AIを活用した現場課題へのアプローチ方法や、実際に行われた事例の裏側を語った。本稿ではその様子をレポートする。

登壇者
金田一平氏 株式会社スカイディスク 取締役COO
金融系大手企業、ベンチャーなどを経験後、2000年初頭ヤフー株式会社に入社。ビジネス開発部長として多数の新規サービス立ち上げに従事。その後独立し、上場企業やベンチャー企業の新規事業開発支援をしたのち、2016年にスカイディスクへ参画。COOとして事業開発を管掌。

行方隆人氏 株式会社ALBERT データソリューション本部プロジェクト推進部 部長
筑波大学大学院ビジネス科学研究科経営システム科学専攻修了。SIerにて信用リスク分析業務に従事した後、2014年10月、株式会社ALBERT入社。製品の外観検査、装置の異常検知、多関節ロボットの自動制御など製造業における機械学習・AI関連のプロジェクトマネジメントを多数担当。

楠貴弘氏 株式会社マクニカ AIリサーチセンター センター長
ASIC ハードウェア開発を経験後、2000年にマクニカへ入社。ハイエンドプロセッサや組み込みソフトウェア、ツール製品などのFAEを担当後、NVIDIAを担当しGPUとディープラーニングをお客様へ提案。直近では、AIの最新論文などAI研究に関するリサーチをしながらAI×IoTコンサルティングや講演など、マクニカソリューションビジネス活動にも従事。2018年9月に日本ディープラーニング協会が実施するE資格を取得。


モデレーター
飯野 希
株式会社レッジ 執行役員/Ledge.ai編集長

ユーザー企業側の理解が追いついてきた

最初に、現在の製造業へのAIの浸透度について語られた。スカイディスクの金田氏は、最近では「匠の技術を継承する」ためのAIの需要が増えつつあるという。

――金田
「1年前までは異常検知の需要が多かったです。しかし、最近はもっぱら匠の技術継承が案件として多くなってきました。

背景には、高齢化によって、製造業では匠の技をどうにかして残さないと価値が保てなくなってきたことがあります」

行方隆人氏 株式会社ALBERT データソリューション本部プロジェクト推進部 部長

――行方
「地に足のついた話が増えてきたと感じます。1年前だと、とりあえずAIを使えば外観検査はなんでもできるという話もあった。外観検査で、画像が単に撮れてないのに『できるでしょ?』と言われるような。当然ですが、写っていないものを認識するのはいくらAIでも難しいです(笑)」

そのうえで、AI活用が進まない理由についても話が挙がった。

――楠
「製造ラインにAIはかなり親和性が高いと感じます。たとえば、現状でかなりの金額をロスしている場合などは進みやすい。一方、AI活用が進みにくいのは担当者の責任が絡む箇所や、どうコストを回収するかといった部分ですね」

金田一平氏 株式会社スカイディスク 取締役COO

――金田
「AIに対する過度な期待も、AI活用が進まないひとつの原因だと思います。人間並みの期待をされているケースがよくある。囲碁とか将棋の影響でしょう。

でも人間ってすごく能力が高いので、AIでいきなりリプレイスはできない。過度な期待があると、なかなかAI活用も進みません。そもそも人間とAIでは見るところが違うので、AIを活用する業務プロセスのどこかに人と共存する部分を入れることが大事です。

そうすれば、人間の精度が93%、AIの精度が95%の精度のときでも、力を合わせれば98%になるかもしれません」

PoCでは課題を明確にすること

当日は参加者がインタラクティブに登壇者へ質問できるツールを活用し、参加者から質問を受け付けた。

参加者から「製造現場は常に動いており、PoCのためだけに生産ラインのリソースを割くことは非現実的だと思います。そういった会社が多いとは思うのですが、PoCはどのように行うのですか?」という質問があった。

――楠
「テスト用の生産ラインからAIを導入するケースもありますが、果たして作ったAIモデルが本番のラインで使えるのか? という問題があります。これをテストラインで検証するには、意図的に異常を起こす必要があります」

楠氏は、AIプロジェクトを円滑に進めるには「具体的な課題のスコープ」が必要と語る。

楠貴弘氏 株式会社マクニカ AIリサーチセンター センター長

――楠
「ユーザー企業はどのデータでどんな課題を解決したいのか、スコープを明確に持つ必要があります。

3、4年前は『とりあえずなんかできませんか?』と漠然としたお問い合わせが大半でしたが、今はわざわざスライドを作りプレゼンいただけるお客様もいます。そこまでしていただけると、こちらもより具体的な提案がしやすくなります」

プロジェクトに入る前に、ユーザー企業は課題を明確にすること。課題がぶれれば、どのようなデータが必要なのか、どのようなモデルが必要なのかも変わってくるし、導入までのリードタイムも伸びるという。

PoCのお金とリードタイムのリアル

金田氏は、AI導入の際、「一気に切り替えようと思わないこと」が重要と語る。

――金田
「AIを導入する際、一度に切り替えるのではなく、最初は併用し、1年後切り替えるなどのバックアッププランが必要となってきます。PoC段階で本番並みの精度を求められると、ベンダーとしても厳しい。まずはスモールスタートでやりましょうとご提案するようにしています」

では、PoCの前段階での課題抽出やディスカッションの期間、実際に開発している期間の割合はどの程度なのだろうか。

――楠
「クライアントのリソース次第ですね。ある程度AIに理解のあるクライアントであれば短く済むケースもありますが、そうでないと課題設定のディスカッションが半分以上を占めます」
――金田
「課題設定はスムーズでも、PoCを回しているうちに課題そのものが変わったりするので、並行して行っています。データ検証を繰り返し、ディスカッションもフェーズを切り、現場の知見も取り入れながらプロジェクトを一緒に推進する感覚ですね」

――行方
「期間の切り方は、やはりプロジェクトの特性によります。我々は研究開発のプロジェクトも多いので、世界初の研究プロジェクトだと計画で2ヶ月、実装開発が半年~8ヶ月ほど。短いものだと1週間の場合もあります

ここで各社に、「実際のところPoC段階ではどの程度の金額を提示するのか?」という質問があった。各社、「明確には言えませんが」としつつ金額を提示してくれた。

――金田
「PoCから結果のレポーティングまで含めると1サイクル500万円ほどですかね。運用保守を含めると数千万円になると思います」
――楠
「具体的な金額は伏せますが、マクニカでは一番最初提案のフェーズで、PoCだけでなく、すべてがうまく進んで導入に成功した場合の概算価格までご提示しています。ROIが見えないとPoCに踏み込むかどうかも判断いただけないので」
――行方
「プロジェクト前段階のフェーズを弊社では基本方針策定フェーズと呼んでいますが、期間としては2ヶ月位を目処にしています。見積もりはその後。

たとえば画像解析のPoCでは200万円ほどいただいてますが、それでも割安な方だと思いますね」

AIの「ROIわからないから進めない問題」をどうするか?

では、ベンダーから見たAI導入がうまくいく企業、そうでない企業の特徴は何なのだろうか?

行方氏は、「やはりやりたいことがはっきりしている企業がうまくいきやすい」としつつ、「そもそもどこまでAIに精度を求めるか」も考えるべきだという。

――行方
「先ほど楠さんが仰っていたように、目的意識がしっかりしている企業は導入が進みやすいです。理解がある企業だと、データ収集、ラベリングからチューニングまでがスムーズに進みます。

そうするとAIって、結局最後は人間と互角になってくるんですね。モデルをチューニングしまくると、もうアノテーション(AIの学習データにラベル付けすること)修正くらいしかやることがなくなってきます。

少しずつ修正していくのですが、それでもAIにミスが出る場合は、そもそも現場でも見逃してしまっているミスがあるんですよね。

そうすると、ディープラーニングの精度が99%で求める精度から1%足りないとして、それでもこれは人間と比較すれば割といい結果といえますよね。AIのミスをどこまで許容するか? という意思決定の問題になってきます」

――金田
「精度を最初から求めないことが大事です。最初から完全にAIへ置き換えるのは難しい。実装して何年かデータを蓄積すれば精度が100%に近づいていきます。AIはあくまで手段であって目的ではないので、どこまでが人力でいいかの見極めが必要です」

製造業ではミスが許されず、常に100%の精度を求められる印象がある。しかし、本当に100%は必要なのか? 人間がやっても100%は出せないのではないか? という指摘だ。

また、参加者からこんな質問も飛び出た。

――参加者
「投資対効果が分からないから進めない、やってみないとできるかどうかもわからないというトレードオフになった顧客に対して、説得した経験談はありますか?」

――金田
「もちろん、ある程度の効果は握っています。マイルストーンは細かく切って、適宜報告、ディスカッションしているので、意思決定はしていただきやすいと思います。

投資対効果が見えないので踏み出せないという声もなかにはいただきます。そういうクライアントには、たとえば『匠の教育的投資はいくらですか?』と質問し、もし結構な人件費が投入されていれば、AIへの投資が大きくなってもそれは資産ですよね、というように説得していますね」

――行方
「そもそも先方の会社の中でAIによる自動化に抵抗感があるケースもありますよね。

その場合は、先方社内でうまく弾みをつけられるようなテーマを選んでいます。たとえば外観検査、歩留まり改善など、効果が大きくて横展開できるものです。導入効果がわかりやすい箇所から始めることが大事ですね」

――楠
「外観検査でも、理想はミスを0にすることですが、現状から少しでも減らせるのなら、100パーセントでなくても現場でAIの判断結果をセカンドオピニオンとして活用し、単純作業で高まっていた離職率を下げる、などの使い方も可能です」
――行方
「よく言うのが、たとえある業務を完全にAIに置き換えたとしても、現状だと監視する人間は必要、ということです。AIの判断も、ヒートマップなどを見てちゃんと検知しているか見ている役は必要です」

3社が語るAIプロジェクト失敗事例

製造業とAIのスペシャリストである3社だが、もちろん失敗もある。失敗事例を語ってもらった。

――行方
「打ち合わせではデータが何10万とあると言っていたのに、蓋を開けてみると使えるデータがまったくなかったことがありました。

たしかにプロジェクト開始前は、ベンダーにデータを少量しか渡せないのもわかります。実際その案件をお受けしたのも、数万件のデータが背後にあると想定していたので、数百件でまずは実証してみました。

検証した結果うまくいくと思ったのですが、契約後にデータがその数百件以外使えないことが分かって。それでも、目標を修正するなどしてなんとかやりようを考えたのですが、難しかったですね」

――金田
「基本はスモールスタートでお受けするので、大きな失敗は少ないです。個人的にPoCはできないことが分かるだけでも収穫だと思っています。先方の社内と期待値合わせができないままスタートすると揉めます。

あとは、最初から部長以上の人に出てきてもらうなど、決裁者と握ることも意識しています。でないと途中で簡単にはしごを外されてしまいます」

――行方
「そもそも、失敗の定義が難しいと思っていて。求められているのが70%なら90%は成功なのにもかかわらず、95%を求められると90%は失敗とみなされてしまう。最初の握りがやはり肝心です」

――楠
「歩留まり改善をしようと提案した企業があったのですが、費用対効果で行き詰まりました。

データ取得の自動化ができていなかったんです。いただいた時系列のデータのなかで、欠損がある日があったのですが、話を聞くと、じつはその日はデータ入力担当の事務員がインフルエンザで休んでいたということがありました。

ほかにも、カメラを取り付けたものの位置の関係で影の写真ばかりだった、カメラのSDカードを抜く作業が属人化していたなど、いろいろあります」

――行方
「データについては、プロジェクトが始まる前に、使えそうなデータにあたりがついていることが重要です。データ量は目的によりけりですが、1万個から100万個くらいあるといいですね。たとえば外観検査をする場合には不良品データを1クラス100個が目安です」
――金田
「データの質はどういう答えを得たいかに密接に関わります。やりたいことによって必要な変数の重みが変わってくる。

現場の匠が暗黙知で運用しているなかで、調べてみるとじつは特定の温度が効いている、などの知見があったりするので、現場の声を聞くのも大事です。これまで精度が出なかったのに、匠の声で30%精度がアップした例もあります」

製造業にAIが与えるインパクト

最後に、製造業はAIでどう変わるのか、今後の展望を各社に語ってもらった。

――行方
「これまでパートの方が品質担保してきたところを、AIで代替できれば大きな価値です。たとえば地方では熟練の外観検査員を採用するのに苦労しますが、そこをAIで助けていける。AIが地方工場に与えるインパクトは大きいと思います。

ユーザー企業には、ぜひ相性のいいベンダーを選んでほしいと思います。そのためには、データサイエンスを少しでもかじってみるのがおすすめです。弊社でもデータサイエンティスト養成講座を実施しているので、ご興味ある方はぜひお問い合わせください」

――金田
「製造業は宝の山です。AIを活用することで、日本の製造業のチャンスは飛躍的に広がると思います。弊社でも匠の技をAI化したものを他国にライセンス提供するサービスを行っています。トヨタもよく言っているとおり、ものづくり以外の価値も発揮していけると感じます」
――楠
「海外では、生産技術を積極的に採用して現場の属人化を減らしている国があります。日本は無人化、省人化で先を行かれる海外諸国と競争する必要があり、そこにはAI、IoTなどの活用は不可欠です」