【JAL×ALSOK×freee】AIプロジェクトを失敗に終わらせない“仕掛け”

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AIの導入プロジェクトを進めるにあたって、その成否を分けるポイントは数えきれない。なかでも課題の抽出やベンダーの選定、社内の巻き込み方などは、多くの企業がつまずく箇所でもある。

そこでレッジは8月29日、「AI活用企業が語る、導入の鉄則と成否の分岐点」というテーマで、AI導入を進めるなかでの実態を語るAI TALK NIGHTを開催した。AI TALK NIGHTは今回で11回目の開催を迎える。

当日は、AIの活用を進めている日本航空(JAL)・ALSOK・freeeの3社が登壇。AI導入に必要なポイントを語った。本稿ではその様子をレポートする。

各社におけるAIの取り組み

3社は事業のどこにAIを活用しているのか。まずは、各社における取り組みについて紹介された。

田中 浩之 freee株式会社 smb-AI-Lab 機械学習エンジニア

――田中
「freeeの事業はSaaSモデルで、企業で必要になるバックオフィス業務を効率的に行うことができるようにさまざまな支援を行なっています。

ひとつ目は経費申請です。経理の仕訳データを効率的に行えるように、機械学習を用いて、金額からその経費の種類(交通費なのか固定資産なのかなど)を推測できるものです。ふたつ目に、OCRの機能も自社開発しており、領収書をモバイルアプリで撮影すれば、経費の自動仕分けが可能です。

ほかにも、月次監査におけるチェック業務の自動化を行なったり、チャットボットを開発したりするなど、会計に関わるあらゆる業務にAIの活用を進めています」

斎藤 勝 日本航空株式会社 デジタルイノベーション推進部 部長

――斎藤
「JALでデジタルイノベーション推進部の部長を務めている斎藤です。デジタルイノベーション推進部は2017年に設立されたのですが、部署には自分ひとりだけという状態からスタートしました。

2年ほど経ち、今では20人ほどの部署で“地に足の着いたイノベーション”をキーワードに取り組みを進めています。JALのようなオペレーションカンパニー、つまり安心安全が大事なリアル中心の事業を展開している企業にとってのコアはHumanです。そこで、HumanとTechnologyを掛け合わせ、現場の気づきや知恵を生かし、素早く形にするという取り組みをしています。

JALでは、たとえば座席管理や係員のサポートなどにAIを活用しています。そして現在、予測分析や画像診断を使い、飛行機整備を従来の“壊れた後に直す”ではなく、“壊れる前に直す”という取り組みも行っています」

関連記事:JALが推進するAI導入の鉄則とは?「地に足のついたイノベーション」がカギ

干場 久仁雄 ALSOK(綜合警備保障株式会社) 営業統括部次長

――干場
「ALSOKのような警備業におけるAIの活用は非常に単純で、“見る”という行為をAIに置き換えていけば、必要な人員は削減でき、効率的な警備配置が可能になります。警備する場所によって見るべき物は多様になるので、その時々に必要なものを優先順位をつけピックアップしてAIを作っていく、ということをしています。

機械警備という分野を例に挙げると、第5世代までの警備では動いているものや温度が高いものを検知することしかできませんでした。最近商品化している第6世代では人間を検知し、動きが怪しいかどうかを判別できます。これまでの機械警備では現場に駆けつけている99%は誤報だったのですが、AIを導入することで誤報が大幅に減らすことが可能なのです。ビジネスとしてのインパクトも大きいです。

ほかにも手荷物検査や防犯カメラなどにもAI活用が進んでいて、オリンピックに向けても非常にニーズの高い分野になります。AIや5Gを組み合わせて、都市空間セキュリティを実現するための実証実験も行なっています」

社内を巻き込む“仕掛け”が重要

パネルディスカッションでは、AI導入の一歩目をどのように踏み出すかについて、各社にそのポイントを語ってもらった。

飯野 希 株式会社レッジ 執行役員/Ledge.ai編集長

――飯野(モデレーター)
「AI導入を検討する企業で、『社長や役員からAIをやれ、というようなトップダウンの指示を受けたものの、何をすればいいのかわからない』というケースをよく聞きます。みなさんはどのようにプロジェクトを立ち上げていったのでしょうか?」

――斎藤
「JALのプロジェクトもまさにトップダウンから始まりました。どう始めればよいかわからないのはもちろんのこと、ROIはどうなのか、などの実用に向けて不安の声もありました。ただ、私自身は取り組む前からROIなんてわかるはずがない、と考えていました」
――飯野(モデレーター)
「とにかくやってみなければわからない、というスタンスだったんですね。どのように周囲の説得を進めたんでしょうか?」
――斎藤
「ひとつ目は将来投資だと思ってやらせて欲しいという熱量を伝えたこと、ふたつ目は投資額の範囲内で動けるアクションを明確にしコンパクトに始めたこと、3つ目はプロジェクトに関わるメンバーをその気にさせるということ。役員や担当メンバーも含め、この取り組みが必要なんだという認識をしてもらうための仕掛けを行いました」
――飯野(モデレーター)
「干場さんは、ALSOKの社内をどのように巻き込んでいったのでしょうか?」

――干場
「斎藤さんと同じく、コンパクトに始め、小さな成果を社内に見せることから始めました。そうすると次第に社内全体が、これはAIに取り組まなければいけないな、という空気になっていきました。

最初の取り組みは機械警備へのAI導入だったのですが、『センサーを自動化する』という目指す世界がわかりやすいことも進みやすい要因だったのだと思います」

――飯野(モデレーター)
「まずコンパクトに始めるというポイントは共通しているんですね。一歩目の導入先として、機械警備のシステムにAIを活用した決め手はなんだったのでしょうか」
――干場
「一番売れている商品だったからです。AIによる自動化が進めば、投資対効果を得られることは明確でした。また、何に投資をするかだけでなく、斎藤さんも“仕掛け”と表現していた、社内をどう巻き込み根回しをするのか、という点は非常に重要だと思います」
――飯野(モデレーター)
「ありがとうございます。田中さんはエンジニアとして、AIでこんなことをやりたい、というような依頼が社内から来るんでしょうか?freeeでは自社開発を進めていらっしゃいますが、どう進めているのかも気になります」

――田中
「依頼はよく来ます。ただ、抽象的な要望ではなく、この事業のこのポイントにAIが使えないか、というような依頼が多いです。

そうした依頼については、AIを使ったことで価値が生まれるのか?という観点でフィードバックするケースが多いです。それから、AI導入前後の変化には敏感です。たとえばチャットボットを導入したとしたら、それにより事業の数字がどう変わったのかを見ます」

プロジェクトの成否をどう判断するか

JALでは、AIに限らずあらゆるプロジェクトを3ヶ月で区切り、継続可否を判断するという。そうしたプロジェクトの進め方について、参加者からこんな質問が挙がった。

――参加者
「3ヶ月単位でプロジェクトを続けるか否か判断するために、どんな基準を採用しているんでしょうか?」
――斎藤
「そのプロジェクトで長期的に達成したい目標に対して3ヶ月で達成すべきこと、つまり検証するべき仮説は何か、事前に設定しています。それが成立すれば継続し、成立しなければ別の方法を考えます」

――飯野(モデレーター)
「その仮説や目標の設定は、担当者もしくは役員の方々と行うのでしょうか?」
――斎藤
「場合にもよりますが、一番握らなければいけないのは、最終的にサービスを提供するユーザー部門です。

いかにユーザー部門を巻き込むかによってプロジェクトの成否は大きく左右されます。いいものを作れても、巻き込みが上手くいっていないために失敗したケースも何度かあります」

――干場
「社内の巻き込みと同じように、外部パートナーとどう付き合うかということも重要だと感じています。

ALSOKはAI開発にあたって数年経ちますが、過去に自社内だけで取り組もうとしていたことがありました。当時は約一年かけても停滞が続いたため、外部のパートナーを探しはじめました。その際に重要だと感じたのは、発注者側のリテラシーです」

――田中
「私もビジネスサイドの部署とは地道にコミュニケーションを図っています。その部署の業務を私自身が体験し、その上でAIに関する情報を共有しています。AIを業務に活用するには、発注者側と提供者側が双方に理解することが重要です」

AI導入の試行錯誤から得た失敗の共通点

今回登壇した3名が興したプロジェクトは成功ばかりではない。数々のプロジェクトでの試行錯誤から、学びに通ずる共通点を語ってもらった。

――斎藤
“AIを試す”と“課題を解決する”を混同すると失敗するケースが多いです。AIの可能性を試すのであれば、AIのどの特徴が何に生きるのか仮説を立て、その検証を目的にした方が良いと思います。課題解決が目的であればAIにこだわる必要はありません」
――干場
「世界で初めての取り組みをする場合は、当然ですが失敗するケースが多いです。あとは、目的の定義が決まっていないケースです。たとえば、画像検出したいものが明確に定まっていないと、ゴールがずれる可能性があります」
――田中
「最初から大きいことはやらない方がいいと思っています。現場や上層部との期待値ギャップを生まないためにも、まずはできることから小さくやって、成功体験を作ってかないと、齟齬が生まれ上手くいかない場合があります」

AI導入における成否の分岐点

最後に、AIプロジェクトを成功に導くために担当者がやるべきこと、をテーマに提言をもらった。

――斎藤
「なんにせよ、やってみることだと思います。マーケティングと似ていて、社内外を巻き込み、そのプロジェクトがインパクトのあることだというアピールをするんです。

そして、それらを実現するためには関係するメンバーとどんなコミュニケーションをするべきなのか。そうしてひとつの成功例を作ると、徐々に仲間も増えていくと思います」

――干場
「ひとつに絞れなかったのですが、まずはうまくいきそうで簡単なことから始めることが挙げられます。つまり小さい成功体験を積み重ねていくことですね。

あなたが今AIでやりたいことが実現した場合、本当に業務に落とせるのか?という観点を持って進めることも必要です。

もうひとつは、経営課題を解決しているかということです。経営者や上層部を納得させるうえで必要な観点になってくると思います」

――田中
「若い人にどんどん任せてほしいなと思います。AI関連技術はホットな領域ですし、若い人でも取り組んでみたい、という意欲を持つ人は増えてきている印象です。

もちろん知識や経験も大事ですが、AIプロジェクトを進める上では熱意も非常に重要です」

AIを導入しビジネス活用を進めるためには、周囲を巻き込むことが重要だという話が頻繁に出てきた。時には数字という成果を生むために奔走し、時には社内外のメンバーを巻き込むために戦略的に動く必要がありそうだ。

3社は、AIを活用した数々の実績を残しながら、現在新たな実証実験に向けて取り組みを進めている。今後もその動向に注目したい。

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