「企業が抱える課題はAI開発会社が見つけるべき」2020年の企業とAIの付き合い方

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レッジは2019年12月にAIのスペシャリストを招き「AI TALK NIGHT vol.14」を開催した。今回のテーマは「自然言語×音声×画像のオムニAI活用~2020年に持つべきAI戦略~」だ。

多くの企業でAIが使われ始めている。特に昨年頃から、AIに対する期待感などが徐々に現実的な目線になってきたといえるかもしれない。身近な存在になりつつあるAIに、どのように向かい合っていくべきなのだろうか。これからAIを導入しようとする企業には何が必要で、どういったアクションを起こせばいいのだろうか。

今回のAI TALK NIGHTには、構文解析技術を活かした自然言語処理を得意とする株式会社Insight Tech(インサイトテック)から代表取締役社長 CEO 伊藤友博氏、コールセンター向けに音声から感情を解析する株式会社Empath(エンパス)からCo-founder and CSO 山崎はずむ氏、手書きの書類をテキストデータ化する株式会社アジラからCOO 三村完氏の3名に登壇いただき、「2020年のAI」との向き合い方についてトークセッションをした。

本稿ではAI TALK NIGHT vol.14の模様をレポートする。

あらゆる情報を活用し価値化させる「オムニAI」という考え方

――伊藤
「2020年に求められるのは『オムニAI』という発想だと考えています。ビジネス課題が複雑化している現状、“ひとつのAI”だけでは解決できない場面が増えてきています」

伊藤氏いわくオムニAIとは、「得られるあらゆる情報を活用し、これらを構造化・価値化するAIを組み合わせ、総合的に高度な意思決定につなげること」だそうだ。

現状、テキスト、手書き文字、音声、画像情報などの“非構造化データ”を活用できるようにはなった。しかし、各場面でのAI活用は進んでいるものの、個別活用で終わっていることが多いという。

ただし、伊藤氏はあくまでも「いまあるものを組み合わせて使うことが目的ではなく、各企業がもつ課題に対し、手元にあるデータをどういうふうに使うか、そしてどのような価値を生み出せるのか。AIを使うのではなく、AIを使って何ができるかが大事です」と言う。

――伊藤
「オムニAIの考え方を使えば、製造業での失敗ナレッジの体系化もできるのでは、と考えています。

たとえば、作業日報から、問題事象を対象とした因果関係を可視化。また、行動ログを画像解析し、テキストデータを組み合わせると『何をしたから失敗したのか』という原因発覚および知見を広めることができるようになると思います」

このオムニAIという考え方は、顧客から求められて生まれたものなのだろうか。

――伊藤
「オムニAIは実務のなかで多くの企業と議論する中で生まれたコンセプトです。多くの企業は、AI活用に向けたPoC(概念実証)をやっているけれど、ソリューション起点になっているように感じています。ただ、“課題ありき”で取り組まないと本質を見失うのではないか、と思ったのです
――山崎
「現場に行くと『データはあるから何かやってほしい』というオーダーはよく受けますよね。要するに、AIを使って目の前の課題を解決するのではなく、AIを使うという手段自体を目的化している企業がいらっしゃいますね」

――三村
「さまざまなデータを掛け合わせて新たな価値を生み出すことは非常に有益でしょうね。私が商談に行った際も、AI OCRで帳票の文字を識別したあと、特定の情報だけを抽出してデータをまとめてほしいと言われました。弊社アジラは文章を読み取るのが領分なのですけどね。

だからこそ、テキストから得られる情報の仕分けができるインサイトテックさんと協力して、新たな情報価値を顧客に提供する、みたいなことはオムニAIならではの考え方でありメリットですね」

――山崎
当然、課題を解決するっていうのが大事なので、単独のデータで解決できて、単独のAI技術で解決できるなら、それに越したことはないです。データはいっぱい持っているけれど、何をしたらいいのかわからない、という企業から連絡が来たらコンサルティングから入ります(笑)」

「なんでもいいからAIを使おう!」という気持ちが先行すると、AIの活用自体が目的になり、本質的な課題の解決に至らないことがある。

課題解決のために、複数のデータをAIで集めたり分析したりすることで、大きな価値を生み出すことはオムニAIならではの考え方。2020年は、データをさまざまな角度から見て、分析することが求められそうだ。

AI開発会社は企業に対して課題設定は求めていない

さて。今回トークセッションに参加いただいたのは、自然言語処理、感情認識、画像解析を行う3社。当然ながら、「AIを使いたいんだけど……」という相談が日々舞い込んでくるそうだ。

セッション中には、開発会社目線で「AIを導入したい企業」に対して求めるものは何かあるのか、という話題になった。AIを導入するにあたって求められるのは先述のとおり課題だ。ただ、AIを導入したい企業は、具体的な課題が見えないまま開発会社に相談することも多いと思われる。

AIを導入したい企業は、どういった提案だと開発会社に対して話がスムーズに進むのだろうか。また、AIに対するリテラシー含む基礎知識をどれだけ備えていればいいのだろうか。開発会社3社の商談・現場話へと話が移った。

――山崎
「ぶっちゃけて言えば、導入を検討したり、相談しに来てくださったりする会社に対して、スキルや知識を求めることはないです。さらに突き詰めて言えば、具体的な課題がよくわかっていない状態でも問題ないです。

ぼくら(AI開発会社)自身が特定の課題に対して刺さるプロダクトを作れていないと、意味がいないのではないかと思っています。だからこそ、導入を求めている企業が課題を探すのではなく、開発会社側が業種・業界の抱えている課題を見つけて、それを解決できる製品なりサービスを作ることを求められていると思っています」

――伊藤
「当社としても同じようなスタンスです。たしかに、課題が明確になっていれば、AIの導入、活用までに必要なステップ数を減らすことはできます。ただ、大きな企業だとしても自身で課題を見つけてまとめるのは簡単なことではありません。

なので、我々AIベンチャーが課題を整理する段階から入り、課題への対応手段としてAIが活用できるのかを議論するのがいいのではないでしょうか」

――三村
「課題が見つからない、ということであれば無理してAIを使わなくてもいいのではと思っちゃいますけどね(笑)。とはいえ、OCRなどの技術は、最近では広く知れ渡ってきたこともあり、具体的な抱えている課題を提示してくださる企業も増えてきました」

他社の成功事例を探すことがAI導入の近道

AIを利活用するためには企業側が課題設定をする必要がある、と頻繁に言われる。しかし、開発会社は課題を整理する前に相談してほしい、という。では、AI開発会社にはどのように相談すればいいのだろうか。

――三村
「AIを使おうとしている企業は、もっとワガママになってほしいです。いまでは多くのAI導入事例も公開されているので、『うちの会社もアレをやりたい!』などという相談でもありがたいです」
――伊藤
「自然言語処理については一般的になりつつある領域だと思います。すでにテキストマイニングなどに着手されていて、さらにブレイクスルーしようと考えている企業などからの問い合わせは多いですね。最近では業務課題に対応したAI活用事例も増えているので、参考になるケースは少なくないと思います」
――山崎
「当社の場合は、最初に『〇〇と××が解けます』のようにできることを提示しているので、それにフィットした企業から問い合わせいただくことがありますね」

――三村
「入力業務がある企業だと、OCRとRPAの連携はある意味で定番になりつつあります。おふたり同様に、求める技術がきっかけになって連絡をいただくことが増えています」
――伊藤
「これからAIを使おうとしている企業が参考にするのは『成功事例』だと思います。いまではさまざまな事例が出ているので、まずは参考にするところから始めて、それから開発会社に問い合わせるのがスムーズかもしれません」

AIは各企業の業務を効率化する手段のひとつとして存在している。これからAI導入を検討する企業は、スタート地点を「AIを使う」ではなく、「同業他社がAIで作業工数を削減している」のような“気づき”にすることが重要だ。

2019年はさまざまな企業でAIの導入が始まった。同時に、各企業の導入実績なども広まっている。そのため、気づきを得られる機会は多いだろう。

気づきを得るために他社のAI導入事例を探すなら、さまざまな業種のAI導入事例を500以上も掲載しているレッジのプラットフォーム「e.g.」を活用するのもおすすめだ。

今年2020年のAIはどのように変化していくのか

トークセッションの最後に、登壇した3社それぞれに2020年のAI業界の展望を聞いた。

――三村
「『OCR』や『音声認識』などの具体的なキーワードを扱う人が増えているように感じます。いまはAIの導入にあたって『課題設定が必要』と言われることが多いですが、今後はOCRなどの具体的なキーワードに紐づけた具体的な課題を解決しにいく流れが出てくるのではないでしょうか。

AIが身近になり、できることが理解されてきたので、さまざまな人がAIに対して知識や認識を深めていく時期だと思っています」

――山崎
「三村さんがおっしゃるように、『何が解けるか』を軸にした話が増えていくでしょう。AI開発会社目線の話をするなら、汎用的なモデルを作ることが求められそうだと考えています。

今は、案件ごとの受託開発が基本となるビジネスモデルが多いですが、今後は、個別に特化したモデルではなく、学習を必要とせずに“ある程度”使えるようなAIを生み出すことがビジネス的に勝負になりそうです

――伊藤
「AIでできることが広く知れ渡ってきたので、今まで以上に課題を見つけることが大切になると思います。ただ、ひとつの情報やデータでは課題解決力が不足するかもしれません。

したがって、さまざまなAIを活用するオムニAI的思考があると、抱える課題への最適解を求められたり、新しい価値を生み出せたりすると思います