LINEが考える「AIのニーズ」 領域特化で開発する理由

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スタンプや既読機能などで、コミュニケーションのスタイルを大きく変革してきたLINE。アプリはもはや日本では使っていない人のほうが珍しいだろう。

LINEはAIにも注力しており、2019年には、自社のプロダクト改善に活用してきたAI技術を外向けに販売する事業「LINE BRAIN」もスタートした。





コミュニケーションを変えてきたLINEは、AIをどう見ているのだろうか。LINEとレッジは1月28日、「AIとコミュニケーションの未来」と題してAI TALK NIGHT vol.15を共同開催した。本稿では、第一部である、LINEのAIカンパニーCEO 砂金信一郎氏と、モデレーターであるレッジ代表 橋本和樹の基調対談をお届けする。

AI TALK NIGHT vol.15第二部の内容はこちら

登壇者
砂金信一郎氏
LINE株式会社 執行役員
AIカンパニー カンパニーCEO
LINE BRAIN室 室長
Developer Relations Team マネージャー
プラットフォームエバンジェリスト

LINEのスマートポータル戦略実現に向けて、ライフスタイル変革をもたらすAIやチャットボットなどの技術を広く当たり前のものとして普及させることで、企業や社会と個々人の距離を縮めるビジネスプラットフォーム全般の啓蒙活動を担当。東工大卒業後、日本オラクル在籍時にERP導入プロジェクト多数と新規事業開発を、ローランド・ベルガーでは戦略コンサルタント、マザーズに上場したリアルコムでは製品マーケティング責任者をそれぞれ歴任。その後クラウド黎明期からマイクロソフトのエバンジェリストとしてMicrosoft Azureの技術啓蒙やスタートアップ支援を積極的に推進した後、現職。2019年度より政府CIO補佐官を兼任。


モデレーター
橋本和樹
株式会社レッジ 代表取締役

在学中よりWebサービスやシステムを受託開発。卒業後、NPO法人かものはしプジェクトに参画し、資金調達に貢献。2011年に株式会社ビットエーを創業。Web制作、データ解析、AIコンサルティングなどの事業展開を行い、150名規模まで組織を拡大。株式会社レッジ設立に至る。

日本の音声認識・合成の課題は「使われないこと」

技術革新が進んだおかげで、コミュニケーションのあり方は大きく変わったと言っていい。一方で、技術だけではコミュニケーションは変わらない。技術が果たす役割や、LINEの思うこれから「来る」技術はどのようなものか。

――砂金
「日本の音声認識・合成のあり方は課題だと感じています。たとえばここがシアトルなら、たいていどの人もアレクサを使っているだとか、Androidのグーグルアシスタントを使っている人が多い。

一方、日本では気恥ずかしさもあるのか、『Hey Siri』を言える人があまりいない。せっかくVUI(Voice User Interface)がスマートフォン一台一台に搭載されているのに、文鎮化しています

出典:Clova Friends公式サイト

たしかに、日本では街なかでSiriやClovaなどの音声アシスタントを使っている人はあまり見かけない。このことに対して、砂金氏は「音声の本当に便利な部分を見つけられていないだけ」と続ける。

――砂金
「日本人が音声を使いづらいことを理由に、日本の音声認識や音声合成が海外に遅れをとっていいか?というとそうではありません。その意味で、我々が音声の本当に便利な部分を見つけられていないのが現状だと思います」

LINEは、音声認識・合成に注力している。キャラクターを召喚して会話を楽しめる装置「Gatebox」で召喚できるキャラクター「逢妻ヒカリ」の音声には、LINE BRAINで開発・保有する音声合成技術が採用されている。

また、LINE BRAINの音声合成技術は、Googleが発表している、音声生成が可能なニューラルネットワークの一種「WaveNet」に精度で優っているという研究結果もある。

一方で、音声認識にも苦手な分野はある。たとえば、通常我々が会議などで話すスピードの日本語を「100%」認識できる音声認識エンジンは存在しない、と砂金氏は言う。

――砂金
「ほかにも、多人数が同時会話する際の話者分離などもまだ難しい。また、マイクと口元の距離が離れていても認識率は極めて落ちます。その意味で、まだまだ研究が必要な分野ですね」

AIは特定の領域でナンバーワンを目指せ

AIの良し悪しは、データで決まると言っても過言ではない。LINEではデータをどのように扱っているのか?橋本が疑問を投げかける。

――砂金
LINEでは、すべてのデータはエンドツーエンドで暗号化されているので、私たちはトークの内容を見ることができません

一方、ユーザーがLINEをどのような使い方をしているのかなどは、ログからある程度解き明かすことができる。また、会社規模が大きくなっても、ユーザーインタビューを地道に実施していることもLINEの強みのひとつだという。

――砂金
「LINEは狭く深く、特定の領域で100%に近い精度のAIをつくることを目指していて。狭く深い領域を追求することを『ナローバーティカル』と呼んでいます。これは、特定の業務を精度の高いAIに任せる方が、ニーズがあると思っているからです。なんでもできるが精度が70%のAIをつくるのは、ほかのベンダーに任せます」

出典:LINEプレスリリース

たとえば、昨年LINEがスタートした『LINE AiCall』は、音声合成の電話対応で飲食店の予約ができるサービスだ。飲食店予約以外には、現時点では対応していない。

特定の業務をAIに任せきり、100%に近い精度で完遂させる。そうすることで、「意外とAIに任せられる範囲はある」ことに周囲が気が付き、業務がより便利に改善する方向に寄与することがLINEの役割、と語る。

――砂金
「余談ですが、先程のLINE AiCallは、KPIを与えられた業務である電話応対をどのくらい達成できるかという、タスク達成率をKPIとしていました。ところが、ボトルネックとなったのは、意外と日本人は電話の先にいる相手が人間ではないと気づいた瞬間に電話を切ってしまうこと。いかに会話を自然にするか、スムーズにすることが大事かが身に沁みました」

だからこそ、ナローバーティカルが重要といえるだろう。あらゆる電話対応が可能だが「不気味の谷」を超えられないAIと、特定の電話対応の分野でまったく不自然さを感じさせないAIとでは、後者のほうが導入したいと感じられる。投資対効果が明確だからだ。

文化理解を武器に、外資の日本語対応をサポートする

そんなLINEが昨年スタートしたAI技術の外販事業である「LINE BRAIN」は、何が強みなのだろうか。

――砂金
「近年、いわゆるGAFAM(GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)、BAT(Baidu、Alibaba、Tencent)などに代表されるグローバルベンダーによるジャパン・パッシングは甚だしい。昔は日本は『儲かる国』として日本語対応への優先度は高かったですが、今はちがいます。対応していても英語と中国語、日本なんてそんな国ありましたっけ?というレベルです」

LINEには、スタンプや既読機能の実装で積み重ねた、日本を含む東アジアの文化に対する理解がある。それを活かし、むしろ外資系ベンダーなどの日本語対応をサポートしていきたい、と砂金氏は語る。

これは親会社である韓国NAVERの影響も大きいかもしれない。LINEと社内プロジェクトで協業もするというNAVERには、過去に検索エンジンやマップなどでGoogleが参入しようとしたが、韓国語や、自国文化への理解といった強みによって、はねのけた過去がある。

砂金氏は、「韓国は自分たちの言語に自分たち以上に詳しい国はないというプライドがある」と語った。翻って、日本ではどうか。

――砂金
「ユーザーへの理解がすべてです。Gateboxのユーザーは、ヒカリちゃんに対して命令するのではなく、会話すること自体を求める人が多いんです。そこでGateboxにClovaを実装し、ユーザーからの命令をヒカリちゃんがClovaへ命令するという体にすることで、ヒカリちゃんとは純粋に会話を楽しみたいというニーズに対応しました。

LINEのビジョンは『Closing the Distance』といって、人と人の距離を縮めること。要件のみでのドライな関係ではなく、感情が乗ったコミュニケーションのあり方をこれからも考えていきたいですね