BtoCサービスで「AIすごい」マウンティングは損しかない。LINEとメルカリが考えるAI実装

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LINEとレッジは1月28日、メルカリをゲストに呼び「AIとコミュニケーションの未来」と題し、AI TALK NIGHT vol.15を共同開催した。

本稿では、第二部のLINEのAIカンパニーCEO 砂金信一郎氏、メルカリのCINO(チーフ・イノベーション・オフィサー)である濱田優貴氏によるパネルディスカッション『AI時代のBtoC領域における顧客体験』をお届けする。

AI TALK NIGHT vol.15第一部の内容はこちら

登壇者
濱田優貴氏
株式会社メルカリ
取締役CINO

東京理科大学理工学部在学中に、株式会社サイブリッジを立ち上げ取締役副社長に就任、受託開発の責任者を始めM&Aや新規事業の立ち上げなどに従事。同社を2014年10月退社後、2014年12月より株式会社メルカリに参画。翌年1月執行役員就任。2016年3月取締役就任。現在はCINOとして、技術領域全般、メルカリの研究開発組織R4Dを所管。

砂金信一郎氏
LINE株式会社 執行役員
AIカンパニー カンパニーCEO
LINE BRAIN室 室長
Developer Relations Team マネージャー
プラットフォームエバンジェリスト

LINEのスマートポータル戦略実現に向けて、ライフスタイル変革をもたらすAIやチャットボットなどの技術を広く当たり前のものとして普及させることで、企業や社会と個々人の距離を縮めるビジネスプラットフォーム全般の啓蒙活動を担当。東工大卒業後、日本オラクル在籍時にERP導入プロジェクト多数と新規事業開発を、ローランド・ベルガーでは戦略コンサルタント、マザーズに上場したリアルコムでは製品マーケティング責任者をそれぞれ歴任。その後クラウド黎明期からマイクロソフトのエバンジェリストとしてMicrosoft Azureの技術啓蒙やスタートアップ支援を積極的に推進した後、現職。2019年度より政府CIO補佐官を兼任。


モデレーター
箕部 和也
株式会社レッジ ディレクター

インターネット広告代理店にてSNSを通じた企業と生活者のコミュニケーションデザインのプランニングに従事。その後オンラインのみではこれからのマーケティングに不十分であると感じIoT案件を多数手掛ける㈱ウフルに転籍。従来は取得できなかったフィジカル領域のビッグデータを活用したIoTビジネスのコンサルティングを行った。Ledge参画後は、AIをはじめとする先端技術を活用した自社内外の新規事業開発を担当している。

AIで「売るを空気にする」

ほんの10年前、インターネット上でものを売買することは難しかった。決済や物流の方法が限られていたからだ。しかし、現在では少なくとも「買うこと」においては、以前と比べ遥かに簡単になったのは、eコマース市場の伸びを見れば明らかだ。

そんな中、メルカリは「売るを空気にする」ことを目指している。

――濱田
Amazonなどのおかげで、買うことはワンクリックでできるようになっている。一方、売ることは今もハードルが高いままです。メルカリでは、画像認識による商品検出や価格推定などを通して、『売るを空気にする』ことを目指していて、精度は完全ではありませんが、今はそこを磨いている段階です」
――砂金
「価格推定は、価格を推定するエンジンを地球上でメルカリだけが持っているとすると強い競争力になりますね。この商品は今ならいくらで売れるから売ろう、と言うふうに、売る動機づけができる
――濱田
「メルカリにはカスタマーサービス(CS)部門の割合が多く、取引で何かあったときの保障もしっかりめに行っているんです。商品が届かない、届いた商品が偽物だった、配送中に商品が壊れてしまったときなど、CSでお客さまの個々の状況を確認した上で、補償の対応をしています。これらも、ひとえに安全に売ることができ、価値交換をスムーズにするために行っているものと言えます」

メルカリに初めてAIを活用する機運が生まれたのは2017年からだ。社内でとにかくまずは使ってみようと価格推定やAI出品機能等を実装した。一方、LINEも、レコメンドエンジンやバスケット分析など、機械学習、データマイニングを使ったサービス改善は以前から行っているという。

両者ともに、もともとは目的ありきでAI活用が決まったわけではないものの、走りながら徐々に自社のビジネスに適応させている印象だ。

レコメンデーションの「不気味の谷どうするか」問題

2社は、ともにアプリ内でレコメンドエンジンを使用してユーザー体験を構築している。LINEは、LINEのトーク画面の一番上にある広告枠「スマートチャネル」に広告を設置し、ディープラーニングを使って個々のユーザーに最適化している。

メルカリも、アプリ内でレコメンドエンジンを採用し、個々人に適した商品などをレコメンドしている。

――濱田
「“売るを空気にする”を実現するため、将来的には、たとえば子供が生まれて購入したベビーベッドがあったとしたら、一定の期間後にそれを売るようレコメンドしたりというように、買う体験と売る体験をフェーズによってサジェストする機能を付けたいですね。いつかは、そのベビーベッドを使わなくなったら自動で引き取りに来るような世界観にしたいです」

――砂金
「レコメンデーションでの『不気味の谷どうするか問題』はどうしていますか?ディープラーニングを使って個々のユーザーにゴリゴリに当てに行っても、『なんでこれ好きだって知ってるの?』となりませんか?

砂金氏が指摘するのが、レコメンデーションにおける「不気味の谷」現象だ。不気味の谷とは、AIやロボットを人間に似せて作ったときに、ヒトはそれらを「人間に近い、好ましい」と捉えるのではなく、嫌悪感を感じるというもの。端的に言えばロボットが人間と似すぎて気持ち悪い、といった感覚のことだ。

――濱田
「私はイノベーション担当なので不気味とは思わないですが、Googleでプライバシーモードをユーザーが選べるように、ユーザーが主体的にレコメンデーションを受けるかどうかを『選択できる状態をつくる』といいかなと。ですが、最終的には便利な方に流れると思います」

「AIプロジェクトやりたい」で予算が取れる今、ビッグウェーブに乗れ

セッションでは、AIを使う会社と使わない会社の差についても言及があった。

――濱田
「差は大きくなるでしょうね。たとえば、Tiktokはユーザーがアプリをインストールして6タップ目までのデータで、見せるコンテンツを最適化するようなプログラムによってアプリをグロースさせています。プロダクトの作り方が『AIありき』に変わっている。

なんとなくで運営している会社は、TikTokを運営するByteDanceのような会社に早晩抜かれるでしょう。メルカリとしては、危機感を感じつつも、チャンスを感じています」

砂金氏は、濱田氏に同意しつつ「プロダクトに搭載されているAIがすごいかどうかという議論は不毛」と切り込む。

――砂金
AI使っているんだな〜ということをユーザーに気づかせたら負けじゃないですかね。それよりは、ユーザーが気づかないうちに最適なUXを提供するためのAI、が理想です。『AIってすごいだろ』というのが透けて見えるAIは良いと思わないですし、そう感じさせないために工夫が必要だと思います」

出典:Clova Friends公式サイト

――砂金
特にビジネスがtoCならなおさら、『AIすごいアピール』に得なことはありません。

たとえば、他のAIアシスタントと違い、LINE ClovaにはAIアシスタントにキャラクターを付与しています。たったそれだけで、おじいちゃんおばあちゃんが『Clovaさん、今日の天気は?』と話しかけてくれる。

日本人はドラえもんやアトムといった『キャラクター』で育ってきました。自分の生活を助けてくれるものとして、ロボットやAIという表現が有用だから使う、というのはアリですが、おじいちゃんおばあちゃんが優しく話しかけてくれるのは、AIがすごいからじゃなくて、ただかわいかったからなんですよね。BtoCであればそういったユーザビリティの側面が大事だと感じています」

また砂金氏は、toBのAIビジネスについても言及。「今のAIは、toBにとっては稟議で予算を取りやすくするためのツール」とバッサリ切る。

――砂金
「今のAIは特定の技術ではなく、ディープラーニングを応用した分野という意味でしかなく、実態はあるようでありません。

企業人は、うまくこの状況を自分の成長のために使ってください。AIやDXといった言葉が絡むプロジェクトは、今ほど予算獲得しやすい時期はありません。AIでPoCやります!といえば、ほかのプロジェクトでは予算が取れませんがAIなら取れます。自分でイノベーティブなものを作りたい思いがあるのであれば、このビッグウェーブに乗ったほうがいい」

AIがバズワード化していた時期から少し経過し、市場はある程度成熟してきたといえど、まだまだ企業内で決裁権を持つ層のAIに対する理解が進んでいるかというと、まだ不足しているといえるだろう。そのような決裁者をうまく説得できれば、AIプロジェクトはほかのプロジェクトに比べて始めやすいのかもしれない。

一方、新型コロナウイルスの拡大による不況下で予算が絞られれば、成果を出していないAIプロジェクトは真っ先に削減される。その意味で、AIで何ができるのかをすでに見極め、成果を出すために動いている企業と、そうでない企業の差は今後分かれる一方だろう。Ledge.aiでは今後も動向を注視していく。