2019年3月27日、レッジは「AI TALK NIGHT vol.7」を日本マイクロソフト株式会社と共催しました。
日本マイクロソフト テクノロジーアーキテクト 鈴木 敦史氏、Surfaceビジネス本部 プロダクトマーケティングマネージャー 森下 諒氏、レッジ CMO 中村 健太らによって、
- AIを導入するにあたって必要なこと
- 先駆者がつまずいたところ
を焦点にディスカッションが展開された。
鈴木 敦史
日本マイクロソフト株式会社 テクノロジーセンター テクノロジーアーキテクト / 上智大学理工学部 非常勤講師
森下 諒
日本マイクロソフト株式会社 Surface ビジネス本部 プロダクトマーケティングマネージャー
中村 健太
株式会社レッジ CMO
モデレーター
橋本 和樹
株式会社レッジ 代表取締役社長
デバイスの進化が、AIの進化を加速する
イベント最初のテーマは、「AI×デバイスのビジネス活用と社会実装」。AIの社会実装や発展には、“デバイス”の存在が欠かせないというのが、登壇者3人の共通認識だという。
「AIが社会に浸透し、人々の生活に真の意味で寄り添ったといえるのは、極論言えばユーザーがインターフェースを意識しなくなったときなんです。
たとえば ”からあげを食べたいな” と思ったら次の瞬間には頭に埋め込まれたチップが近くのコンビニを教えてくれる、とかですね。もちろん、現時点でそんな世界を実現するのは技術的にも難しいですし、倫理的な問題も解決できていません。
とはいえ、いまできる範囲で可能な限りユーザーにインターフェースを意識させないよう努力する必要はあります。
そこで重要になるのが、従来のマウスやキーボードといったクラシックな入力方法に縛られない最先端のデバイスです」
話題を呼んでいるHoloLensも直感的な入力ができるデバイスの1つだ。HoloLensは、まさに理想のインターフェースを作りたいという想いから誕生したと森下氏はいう。
HoloLensとは、マイクロソフトが開発した Windows 10 を搭載した世界初の自己完結型ホログラフィックコンピューターです。HoloLens を頭に装着することで、現実世界の中にあたかもそこに存在するかのように、仮想オブジェクトであるホログラムを 3D で目の前に表示することができ、手のジェスチャーや音声コマンドによって操作できます。
「HoloLens が開発されたのは、HoloLens の生みの親であるアレックス・キップマンが、『2D のディスプレイにとらわれない世界を実現したい』と思ったことがきっかけでした。
現実空間そのものをキャンバスにして、我々が普段ごく自然に物理的なモノを扱うように、デジタル情報を3D で見て、掴んで、操作できることが理想の UI であると考えられます」
「入力を音声としたデバイスはいくつか製品として出ていますが、その裏にはデバイスの進化があります。
言葉を認識するAIの精度がいくら向上しても、言葉をデジタルデータにするデバイスが進化しなければ、AIの活用は難しいでしょう」
AI導入の現場でも、インターフェースを考えることは非常に重要だと中村は話す。
「AI導入を進めるうえで、インターフェース周りで問題にぶち当たることが非常に多いです。
たとえば、部品の種類の名前がAIでわかったからといって、それだけが役に立つ企業はほとんどないんです。重要なのは、部品を判別した段階で人間にどのタイミングで見せるのか、何を発想させて、どんな行動を起こさせたいのかです。
どう情報を受け取るのか、情報をどう人間にわたすのかなどは、事前に考えないと後々つまずきます」
ゼロからAIを開発するのは3割
海外の動向をみても、トレンドはやはり「音声」だと鈴木氏は言う。
「たとえば、米国のあるリフォーム店では、従業員と客の会話をAIで解析し、会話のなかからキーワードを抽出します。その際に客の音声を録音したり、従業員が何かを入力することはありません。
AIを使い、自然な会話をリアルタイムで解析することで、お客さんが何を求めているかを瞬時に推測できます」
AIが搭載された製品が世に出ていたり、海外の大手企業から誰でも簡単に使えるAPIが公開されていたりと、AIは手を伸ばせばすぐに手の届くところにある。
そういった状況のなか、現場では何が起きているのか。
「いま支援させてもらっている企業の7割は、今ある技術とIT巨人たちのAPIを組み合わせて作っていますね。それに加えてインターフェースの工夫をしたりと」
「以前、『伝票をAIで解析したい』と相談をもらいました。情報や構造が似ていれば難しくないのですが、それがバラバラだと正直AIには向きません。ただ、データが膨大なので人間では限界がある。そこで提案したのが、ライトなAI実装です。
すべてを自動化するためのAIを実装するのではなく、AIで一部を自動化させました。IT巨人のAPIを使い、伝票のどこに文字があるかを認識します。AIで文字を認識した後は、どこをデータとして読み込ませるのか人間がラベル付けをする、というワークフローです」
最終的には、社内ツールとしてローンチされ、課題を解決した。ゼロから開発するよりかは、はるかにコストも抑えられたという。
「我々がAPIという形でAIを提供しているのは、誰もが簡単にAIを利用できることを目指しているからです。
AIは人間の仕事を奪う、業務をラクにしてくれるなど、さまざまな意見、情報が飛び交っています。そのなかで、AIを一般の方々に理解してもらい、誰もが簡単に利用できる形にすることが、我々マイクロソフトの役割だと思っています」
重要なのは、AIを使うことをゴールにするのではなく、人の作業をAIでラクにできないか? たとえばAPIを使うことで簡単に実装できるのではないか? という発想だと登壇者は口を揃えた。
今までの延長線上にAIはない。まずは業務を可視化して課題を見つける
では実際、どのように課題を発見し、AIで解決していくのか。AIの活用を成功させるには、以下の3つを理解しておく必要があるという。
- ゴールを設定する
- 日々の業務を可視化して、課題を浮き彫りにする
- 既存業務の延長線上にAIはないことを認識する
「AIに限らず、プロジェクトを推進する上で重要なのは、課題と向き合うことです。AIを使って何かやりたい、だけだと最終的に何を目指すのかわからなくなる。どれだけ潤沢な予算があっても、ゴールがないとどこかで折れてしまいます。
一旦はどんな技術を使うかは忘れて、誰の何を解決するかに振り切る。そのなかで人間だと限界がある部分をAIなりの最先端技術で効率化していく。そういったやり方でプロジェクトを進めていくと前に進みやすいですね」
「課題は、思っているほど浮き彫りになっていません。なので、日々の業務をデータ化して課題を自ら探していく必要があります。その課題に対して、AIを活用していく。別にAIでなくてもいいのですが。
AIをはじめとして最先端テクノロジーを使う上では、経営陣にはそれなりの覚悟が必要になります。というのも、今までの(業務の)延長線上にAIはないからです。
たとえば、工場における業務をAIで効率化できたとしても、そもそも外部との通信が禁止されていたり。AIを導入しようとするとさまざまな壁にぶち当たります。そうなったときに何かを変えていく、いわゆるデジタルトランスフォーメーションが必要です」
課題と向き合う。解決策を探す。それに合わせて自らを変えていく。
3人の話で共通していたのは、
- 課題を可視化して、向き合う
- どんな技術でもいいから、その解決策を考える
- 解決策に合わせて柔軟に自らを変えていく
という点だ。
技術は、極論何でもいいという。課題解決のためにAIが必要であれば使う。課題解決に取り組んでいるなかで、他技術の活用に限界がくればAIを使う。AI導入でもAIプロジェクトでも、成功のヒントはAI技術自体にではなく、上記のような考え方にありそうだ。技術的側面で悩む前に、現状の進め方、考え方を今一度整理してみてはどうだろうか。