1月16日、AuB(オーブ)株式会社は、アスリートの便(腸内環境)の解析データをAI(人工知能)に読み込むだけで、サッカー選手か否かを85%の確率で見分けられるようになったと発表した。そのほか、ラグビー選手なら80%、長距離陸上選手なら50%の割合で識別できるそうだ。
この研究結果によって、競技ごとに異なる運動習慣や食習慣が腸内環境に影響を与える可能性が示唆できる、としている。
調査では257人ぶんの「便データ」を使った
AuBは、「腸内細菌の群れ(集合体)である腸内環境(腸内フローラ)の競技ごとの特徴から、その人の競技をAIで分類できる可能性があるのではないか」という仮説を立て、2019年2月から検証を開始した。
今回の調査では、AuBが持つ28競技種目、500人・1000検体以上のアスリートの便データのうち、プロリーグや社会人リーグ、実業団、大学の部活に所属するサッカー選手119人、ラグビー選手83人、長距離陸上選手55人の計257人が対象だ。各人の便の検体からDNAを採取して、その人の腸内に棲む腸内細菌の数や種類、その割合を解析した。
解析したデータのうち、約9割をAIに学習させる。機械学習は、クロスバリデーション(交差検証)という手法を使い、精度を高めているそうだ。その結果、AIの確かさを示すAUCの評価指標は、3競技ともに0.8以上(サッカー:0.83、ラグビー:0.88、長距離陸上:0.80)の高い数値を示した。
※AUCとはAI精度の指標である「AUC(Area Under the Curve)」のこと。最大値は1。
※AUC/0.8以上:非常に高い効果、0.7-0.8:高い効果、0.6-0.7:効果多少あり、0.5-0.6:効果がさほどない。
AIに学習させなかった残りの1割の解析データをテストデータとして競技判定をしたところ、サッカー選手は84.6%、ラグビー選手は80%、長距離陸上選手で50%の正解率となった。
腸内環境から選手のパフォーマンス向上へつなげる
腸内環境は食生活などによって変化するとされる。今回の調査は、いずれかのチームに所属する選手のデータ群を解析しているため、極めて同じ様な食生活をしている可能性があるという。つまり、競技以外のチームとしての特徴がデータに影響していることも考えられるそうだ。
将来的には、被検体を増やして、バイアスを除くと、腸内環境が競技やチームの特徴から外れる選手を簡易的に見つけられそうだ。そうした選手は、当事者の競技軸から外れた腸内環境になっている可能性が高い。そのため、腸内細菌の特徴と選手の課題の関係性を見出しながら腸内改善を意識したコンサルティングで、選手のパフォーマンス向上に寄与できる可能性があるとAuBは睨んでいるようだ。
そもそも、腸内環境が異なれば、太りやすさや、酪酸菌の多さ、腸内フローラの機能の違いがあるという。たとえば、「プロテインを摂取しているが、筋肉が付きにくい」という課題を持つ選手は少なくない。
しかし、腸内環境を見ると筋肉のつきにくい選手は、「腸内細菌の多様性(種類やバランス)」と「筋肉の形成にかかわる菌の数」が低く、「菌の構成が栄養を吸収しにくい状況」にあるという。そうした選手には、管理栄養士が筋肉のつきやすい腸内環境をつくる食事指導をする。この指導によって実際に筋肉をつけた選手もいるそうだ。
中継でも活用されるスポーツでのAI
AuBが取り組むのは選手自身へのコンサルティングなどを目的としたAIの活用だ。いま、選手だけでなく、スポーツ全体においてAIの導入・活用が大きく進んでいる。そのなかでも我々にとって身近なのは「中継」だ。
昨年11月には、ソニービジネスソリューションが開発したAIを活用した音響解析システムをNTTぷららが使い、NTTぷららが制作する卓球「Tリーグ」のダイジェスト番組制作に活用されたニュースがあった。
音声解析AIがボールの音や歓声からラリーシーンや盛り上がりを見せたシーンを抽出することで、ダイジェスト番組の制作をサポート。抽出されたシーンはCSVファイルとして提供される。必要なシーンが自動的に抽出されているため、試合のすべてを見直しながら編集する必要がなく、すぐにダイジェスト番組を制作できるそうだ。