モーションキャプチャーを不要にする?AIによる動作解析サービス、開発の裏側

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テクノロジーを活用してスポーツをより深く楽しむのは、スポーツプレイヤー、ファンともに切望していることだろう。

スポーツにおけるAI活用もそのひとつだ。しかし、実際に活用が進んでいる例はあまり多くない。主な理由としては、

  • 分析に関わるデータ収集の難しさ
  • スポーツが占めるマーケットの小ささ

の2つがある。

こうした参入障壁があるなか、株式会社NTTPCコミュニケーションズ(以下NTTPC)は、2019年1月にアプリケーションサービス事業者へ向けて、単眼カメラの映像から動作解析を可能にするAPIプラットフォームサービスAnyMotionをリリースした。

Anymotionを使うことで、アマチュアのプレイヤーでも動作解析ができるサービスを、事業者が簡単に展開できるようになるという。

スマホで誰でも動作解析。編集部でもやってみた

NTTPCがAnyMotionで狙うのは、今まではセンサーの装着や専用機器の購入など莫大な手間と費用が掛かっていた人物の動作解析をスマートフォンひとつで可能にすることだ。

現在はAnyMotionを活用したユースケースのひとつとして、手本となる動作が行われている動画とカメラで撮影した利用者の姿勢の動きを比較分析し、アドバイスをするアプリケーションをα版として提供している。

アプリケーション事業者に向けて、AnyMotionを活用したサービス案を自ら開発し、体験の場として用意している形だ。

公開されている、比較対象となる手本は以下の通り。

  • スクワット
  • 戦士のポーズ(ヨガ)
  • スイング(ゴルフ)
  • ピッチング(野球)

実際に編集部で「スクワット」を比較してみた動画が以下。

手本と近い、動きが正しい部位は緑色に、ずれた部位は赤色に表示される。「1回の動作が早すぎます。もう少しゆっくりと行いましょう。」といったアドバイスももらえた。

管理画面の比較結果。部位別、時間別の一致度合いなども表示される。

モーションキャプチャーは「プロ」しか使用できない技術だった

AnyMotionはどのような経緯で開発に至ったのか?開発元であるNTTPCの伊藤大樹氏、組橋祐亮氏に尋ねた。

伊藤 大樹氏
NTTPC サービスクリエーション本部第一サービスクリエーション部サービスクリエーション担当

――伊藤
動作解析をアマチュアや部活レベルの競技者でも簡単に利用できるようにすることで、新たなマーケットが開拓できるのではないかと考えました。

動作解析はこれまで、プロスポーツで良く用いられていました。野球選手が自身のピッチングフォームを確認する際に使用するような技術です。高価で手間がかかるため、限られた人にしか使用できないシステムでした」

従来の動作解析技術は、モーションキャプチャー(現実の人物の動きをデジタル的に記録する技術)や3Dカメラを用いており、手軽に使用できるとは言い難い。AnyMotionはこれを、スマホひとつで手軽に使用できる環境を整えようとしている。

技術とビジネス、両面での試行錯誤

以前Ledge.aiの記事でも紹介したOpenPoseのように、姿勢推定自体はすでに確立された技術だ。

AnyMotionはさらに一歩踏み込み、理想的な状態との比較までをサービス側で行いフィードバックを返す部分が一番のポイントだという。

開発当初は、プロスポーツ選手の動作を手本とし動作の改善点を指摘するシステムだったが、「技術的な問題が浮上してきた」と伊藤氏は語る。

――伊藤
「たとえばゴルフのフォーム確認をしようとすると、手本を誰にするかという問題がつきまといます。

プロゴルファーにはタイガー・ウッズ、丸山茂樹など有名選手がいるなかで、どの選手のスイングを手本とするかを一意に決めることは難しい。利用者の性別や体格、筋力ごとに理想的なフォームが大きく異なるからです」

医療関係者からも、「体格的に無理な選手のフォームを選択した場合は、怪我を防止する機能が必要だ」という指摘があった。

アマチュアプレイヤーが大谷翔平選手のフォームをそのまま真似すると、肩が外れるなどの危険を伴う。怪我を防止するために、利用者の筋力や関節の可動域を考慮したうえでアドバイスする必要が出てきた。

また、AI開発特有のビジネス的な問題も浮上したという。

組橋 祐亮氏
NTTPC サービスクリエーション本部第一サービスクリエーション部サービスクリエーション担当

――組橋
特定の競技に特化したAIを作り込むと、他競技への応用が効き辛くなるという問題です。

たとえば、体操競技の回転を自動で採点するシステムがありますが、このシステムをそのままフィギュアスケートのジャンプを採点するシステムへ応用するのは難しい。それぞれの競技固有のデータを集める必要があるのに加え、特徴も競技ごとに作り込む必要があるからです」

体操競技とフィギュアスケートには同じ体を回転させる動作があるが、採点において回転の「どこを見て」評価するのかはまったく違う。体操競技用に開発したモデルをフィギュアスケート用に応用はできない。

――伊藤
「ある程度マーケットの広い競技でないと、特定の競技に絞ったAIを開発することは難しいです。

実際に、野球、サッカー、テニスといったメジャースポーツにはAI分析を導入したというニュースを聞きますが、競技人口の少ないスポーツではあまり聞かないですよね」

スキルトレーニングよりもフィジカルトレーニングに着目

そこで、AnyMotionでは特定の競技に依存しない「フィジカルトレーニング」に着目した。

スポーツのトレーニングは、「スキル」と「フィジカル」の2つに分けられる。

スキルトレーニングは、サッカーでいうボールの蹴り方やポジショニングの方法など、スポーツ競技独自の能力を高めるトレーニング。フィジカルトレーニングは、走力や瞬発力、筋力の向上など、基礎能力を高めるトレーニングだ。

――伊藤
「一般的にフィジカルトレーニングはほとんどの競技に共通な動作なので、シェアを広げやすいというビジネス的なメリットがあります。

また指導の際にも、足の高さや姿勢など、フィジカルトレーナーが見るポイントがある程度確立されているため、AIを適用しやすい領域でした」

今後はヘルスケア領域にも展開していく

――今後はスポーツ以外の領域でもAnyMotionを活用していくのでしょうか?

――組橋
「スポーツでの怪我を防止するという観点から、ヘルスケア領域への適用を考えています。実際に、開発した姿勢推定技術を接骨院や整骨院に導入するプロジェクトも進めています」

従来行われていた体の歪み測定における、

  • 写真を撮影して
  • 印刷して
  • 定規で線を引いて確認する

といったアナログな作業を自動化するシステムを開発中だという。ベテランの暗黙知を客観的に説明できることには大きな価値がある。

――伊藤
「ベテランの理学療法士は腰痛になりそうな歩き方がひと目でわかるといいますが、新人には難しいです。

AnyMotionを使えばどのように歩き方が不自然なのかを可視化し、それをもとに治療法を選定できます。今まで理学療法士が主観で判断していた治療法を定量的に判断できるので、患者もより納得して施術を受けられるようになります」

フィジカルトレーニングが必要でないスポーツは少ないだろう。名コーチの暗黙知を一般化できれば、多くのアマチュアプレイヤーが利益を得る。AnyMotionで、アマチュアスポーツのレベルが向上するのが楽しみだ。