「AI導入にはカルチャーがすべて」台湾のトップAI企業が示す日本の向かうべき道

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会社から突如「AI推進担当」に任命され、途方に暮れている担当者は多いと思います。一口にAIを導入するといっても、

  • 課題の特定
  • データ収集
  • データ管理
  • 学習モデル構築
  • 学習モデルのメンテナンス

などやることは膨大。それ以前に、何から始めたらいいのかすら見当がつかない人もいるのではないでしょうか。

そんな悩みに、一定の答えを提示してくれる人物に今回インタビューしました。AI技術者が多数集まる台湾のトップAI企業「Appier」の、企業向けAI担当専任部長 チャールズ・エン氏です。

Appierはクロスデバイス広告配信ツール、AIを組み込んだマーケティングプラットフォームやマーケティングオートメーションツールを提供し、現在アジアの14ヶ国に展開しています。

今回、「AI導入にはカルチャーがすべて」と語るエン氏に、その言葉の意味するところと、AIの社会実装に向けて日本が進むべき方向性を聞きました。


チャールズ・エン (Charles Ng)
企業向けAI担当専任部⻑として2017年11月入社。
チーフデータサイエンティストであるシュアンテン・リンにレポートし、次世代の企業向けAIソリューションを開発するAIサイエンティストとエンジニアを統括。データサイエンスのリーダーとして、予測、最適化、機械学習の技術に基づくソリューション開発における豊かな経験と知識を有し、ビジネスにおける課題を解決してきた。Appier入社前は、韓国有数のEコマース企業、Coupang社のチーフデータサイエンティストを務める。それ以前はIBM、DemandTech、Viveconにておおよそ15年に渡りデータサイエンス領域の業務に携わってきた。米国スタンフォード大学にて管理科学・工学の博士号を、パルデュー大学にて保険数理および数学の学士を取得している。

AI導入の”大前提”はデータドリブンなカルチャー

――御社が9月に発表したAPACにおけるAIの普及度調査では、調査対象となった8ヶ国の中で日本は7位でした。御社は台湾の中でAIをもっとも利活用している企業のひとつですが、日本のAI事情は他国と比べてどう映るのでしょうか?

出典:Appier

――エン
「AIの普及という点では、私はこの結果にあまり驚きを感じていません。AIの導入は簡単ではなく、むしろ長旅です。これからAIが普及する余地が大いにあるということで、喜ぶべきことです」

そう朗らかに語るエン氏。AIの導入が長旅、とはどういうことでしょうか。

――エン
「AI導入の大前提は、機械学習に耐えうるデータの存在と、それ以上にデータドリブンなカルチャーが重要です。しかし、それらを用意するには時間もお金もかかる。データサイエンティストやAIエンジニアといった人材も必要ですが、彼らを雇ったり育成したりするのも時間がかかります。彼らは今、どの企業も欲しい人材ですから」

カルチャーを醸成するには、企業のトップがAIを深く理解し、データに基づいて経営判断を下すことが必要。トップが急に「明日からAIだ、データドリブンだ」といっても根付くものではない、とエン氏は語ります。

――エン
「適切な人を雇い、適切に人を育てる。ディープラーニングに耐えうるインフラを構築し、構造化されたデータをアクセス可能な環境に置く。データドリブンなカルチャーを作るのは一朝一夕にはいきません。先の調査では、それができるスピードが速かった国が上だっただけのことです

インドネシアが最上位の理由は、スタートアップが多く、自分たちが必要なシステムを一からスクラッチで構築できるため、AIをシステムに組み込みやすいためと指摘します。

AI導入というと、データをどのように集めて学習させ、モデルをどのように構築するのかなどのハード面が話題になりますが、カルチャーというソフト面こそがもっとも重要という主張は新鮮です。

確かにデータドリブンな意思決定が可能な環境なら、データが不可欠なAI導入における判断も適切にできる可能性は高まるでしょう。

「ソリューションに合う課題を探すな」データサイエンティストのみの集団ではダメな理由

――AI導入にはデータが重要になると思いますが、Appierではデータをどのように位置付けているのでしょうか。

――エン
「データはもちろん重要ですが、データそのものに価値はありません。AIを導入する際は、データとモデルの両輪で回す必要があります。Appierの強みは、データとモデルを統合して提供できていることです」

――AppierはAIでどのような事業を展開しているのでしょうか?

――エン
「我々はマーケティング領域でAIを組み込んだ、3つのプロダクトを展開しています。データサイエンスをするのにデータサイエンティストでなくても使えるプロダクトを提供しています」

そのツールとは以下の3つ。

  • クロスデバイス広告配信ツール「CrossX(クロスエックス)」
    複数のデバイスをまたいでサイトを閲覧するオーディエンスを特定し、広告を配信できるツール

  • データサイエンスプラットフォーム「AIXON(アイソン)」
    バラバラのデータのフォーマットを統合し、AIでオーディエンスの行動予測などを可能にするツール

  • プロアクティブマーケティングオートメーションツール「AIQUA(アイコア)」
    自社データ、自社以外の行動データ、CrossXデータベースをマッチングすることで、さまざまなチャネルでのコンバージョンを高められるツール

日本国内の一例として、LIFULL HOME’SがAIXONを導入後、従来のマーケティング施策と比較した際に、直近の1ヶ月でPC約190%、スマートフォンでは約330%のコンバージョン率を達成した事例があります。

330%とは大きい数字。AIとマーケティングの親和性を感じます。

――エン
「データサイエンティストでなくても使えるツールと強調するのは、データサイエンティストのみの集団は技術ばかりにフォーカスしてしまうためです。課題に合うソリューションを見つけるのではなく、ソリューションに合う課題を探してしまう。

あくまで業務について理解している人がデータサイエンスをできることに意味があります」

大事なことは、問題を特定し、それから解決できそうなツールを探すこと。技術は重要だが、解決する課題がなければビジネスにおいては無価値だ、とエン氏は語っていました。

AI導入は技術ドリブンではなく課題ドリブンであるべき

――これからAIを導入する企業へアドバイスするとすれば、どのようなものがあるでしょうか?

――エン
「AI導入は、技術ドリブンではなく、ビジネス課題ドリブンであるべきです。そのためには技術を学ぶのではなく、繰り返しになりますがビジネス課題を理解し、課題を特定することがすべてにおいて先決となります」

まずは技術ではなく、課題を探すこと。そこが分かれば、自ずとどのような技術が最適なのかが分かってくるといいます。

――AIを導入する際に、その姿勢を身につけるにはどうすべきでしょうか?

――エン
「簡単なことです。新しいことを恐れずにチャレンジすることです。実験や失敗の経験を活かせる文化がすごく大事。先程も述べましたが、AI導入には組織のカルチャーがすべてです。

AIが通常のソフトウェア開発と違うのは、結果がよく分からないことです。ソフトウェア開発では、順序立てて考えればある程度明確な答えが出ます。AIでは、たとえどんなに考えたところでなんの成果も出ないときもある。それならもうチャレンジするしかないでしょう」

日本では、何か新しいことにチャレンジするとき、前例を求めすぎる意思決定者に新しいチャレンジが否定されるという話は至るところで聞きます。しかし、そもそもAIは前例も仮説も役に立たないものだと知ること。

AI導入には、結果が分からなくとも新しいことにチャレンジするカルチャーを作ることが不可欠であるとエン氏は教えてくれました。むしろ、そんなカルチャーを作れなければ、日本はAI領域でいつまでも他国の後塵を拝するかもしれません。

まずはエン氏の言う通り、自社のビジネス課題は何なのか、考えることから始めてみてもいいのではないでしょうか。