2020年のスポーツをAIが変える5要素、戦略立案から観戦まで

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各種スポーツではAI(人工知能)に限らず、IoT機器やデジタル製品などの導入が進められている。以前、女子バレーボールの日本チームがiPadを使って試合の分析をしていたニュースを覚えている人も少なくないだろう。

時代は進み、いまではデジタル機器にとどまらずAIを活用する事例も増えてきた。それこそ、2019年は社会全体でさまざまなAIが導入された。それにともなって、スポーツやその周囲での活用事例も増えている。スポーツ分野全体をAIが変えるかもしれない。



AppierのチーフAIサイエンティストであるミン・スン氏は、2020年開催の国際的スポーツイベントとAIに関するセミナーを実施した。そこでは、AIによってスポーツの試合、観戦、競技場等の環境などが変化するかもしれないと言う。本稿ではこのセミナーで語られた、スポーツ分野全体で今後活用が始まったり、広まったりしそうなAI事例を紹介する。

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1、戦略の立案やシミュレーターでの活用が増える

まず語られたのは、選手や監督・コーチ向けのAIだ。球技や格闘技などの試合(対戦)を要する種目で活用されるケースが多い事例だ。

自分たちの戦略に対して、相手チームがどういう動きを展開するのか、予測と分析をするAIに注目が集まるそうだ。いわゆる行動モデリングを利用したもので、自分たちと対戦相手の動きを学習させ、シミュレーション環境を構築するものである。

画像出典:pixabay

選手本人はもちろん、監督やコーチなどに有益となる技術になるという。これまでは机上で作戦を考えていたこともあったが、AIシミュレートすることで一層具体的に指示を出すことも可能になりそうだ。

AIシミュレートした戦術を、選手がどれだけ再現できるかがカギを握りそうである。

2、競技中に選手の各種情報をリアルタイムで表示

次に紹介されたのは、私たち観戦する人向けのプロダクト。すでにいくつかの企業がサービスとして展開しているが、実際に競技している選手を、リアルタイムでトラッキングし、さまざまな情報を可視化させる仕組みは今後のスポーツ大会でも採用機会が増えていくだろう。

陸上競技で例を挙げるなら、選手の基本情報や、選手の走る速度、その選手がいま何位なのかなどの情報を、映像に対して即座に映し出すものである。さらには、個々の選手の情報だけでなく、対戦カードごとの成績などもすぐさま表示できる。

パナソニックが開発した画像解析技術を用いた競泳選手のトラッキングシステム。選手の肌の色や動きなどの情報を考慮することで、選手の位置を数値的に判断できるようになった

なお、ボールなどを使う種目においては、そのボールをトラッキングすることで、ボールの回転や軌道などを画面に表示できるようだ。

さまざまな情報を可視化することで、あまり競技に詳しくない人でも、競技そのものや選手に興味を持たせることにもつながりそうだという。とくに、バドミントンなど超高速なスマッシュが出た瞬間などは、ルールや選手への知識は浅くても盛り上がるはず。

3、自動追尾ドローンで競技者を追跡しつつカメラ中継

先に挙げた選手のトラッキングは、特定の競技場内で実施される競技で主に適応できる技術だ。というのも、トラッキングするには競技前に複数のカメラを競技場内に設置する必要があるからだ。

自転車競技のロードレースやクロスカントリー、陸上競技のマラソンや競歩などは、一般道路で実施される競技なので、先述した特定の会場内で可能なトラッキングが難しいとされる。

そこで活用に期待がかかるのが自動追尾型のドローンだ。選手もしくは集団を自動で追尾し、その模様をカメラ中継するもの。当然、カメラ中継だけでなく、先の例のような選手情報などをリアルタイム表示させる機能も備える。

単純に追跡するといっても超えるべきハードルは非常に多い。街中で実施される種目の場合、木々や看板、トンネルなどとぶつからないよう自動的にドローンが回避しなければいけない。さらに、動く選手を追いかけて捉え続ける。さらには、その選手の速度などのデータを分析や処理したり表示したりする。

ドローンに求められる性能は非常に多いが、自律飛行が可能なドローンはskydio社(外部サイト)から発表されている。昨年末より配送開始となったとされる「skydio 2」は、手元でビーコンを使って操作すれば操作範囲は1.5kmほどまであるという。

Skydio 2の公式サイト(画像は公式サイトより)

選手ごとに固有のドローンが追従し、中継映像などを送ってくれる未来もそう遠くはなさそうだ。

4、混雑状況は基地局と公共交通機関で状態把握

スポーツに限らず、大きな大会やイベントが開催されると、その会場周辺は大混雑。訪日外国人観光客も含めると、想像できないほどの混雑になるだろう。2020年の夏ごろにおいては、およそ50万人以上の海外観光客が東京に訪れるのではないか、とされている。

画像出典:pixabay

観光客だけでなく、大会運営のスタッフやボランティアの方まで加味すれば、会場周辺が大混雑することは容易に予想できる。このような環境をAIがどのようにコントロールできるかについても問われているとミン・スン氏は言う。

そのために活用できそうなのが「通信基地局」と「公共交通機関」だそうだ。

ある特定の地域において、何台のスマートフォンがWi-Fiや4Gに接続しているかを把握できれば、おおよその人数の把握につながるのではないかという。また、電車の駅などの改札を利用すれば、どれほどの人数が駅を使っているのかもわかる。

これらのデータを集めることで、AIによる予測分析に使えるとミン・スン氏は考えている。

たとえば、これから30分以内に、どの地域がどの程度の混雑になるのかなどの予想もできる、とのことだ。さらにこの分析結果から「大変な混雑なので、臨時便を手配しよう」などの意思決定にもつながるのではと。

画像出典:pixabay

ただし、集めたデータの分析を毎回クラウドに送信していては、膨大なトラフィックが必要になる。さらには、データの流出などによって悪用されることも防がなければいけない。そのためにも、ローカルデバイス上でAIを使えるようにする必要があるそうだ。

5、審判におけるAI活用は選手への浸透がカギ

ところで、スポーツといえば気になるのは「審判」や「判定」へのAI活用だ。

パナソニックが発表したアメリカンフットボールの試合映像を解析し、プレーの開始と終了を自動でタグ付けすることを目標とした研究

ミン・スン氏は審判などへの普及について次のように話した。

「さまざまな種目のなかでも、球技はとてもわかりやすいです。たとえば、線の内外どちらにボールがあるのかの判定です。ミリ単位の精度でトラッキングでき、テニスやバドミントンなどでは活用されています。そのほかの種目でも、その種目ごとに適した技術自体は確立されつつあります。

競技で使用する道具にAIを仕込むことが必要なケースがあるので、その場合は選手等にどのように理解してもらい、浸透させるかが今後のカギです」

と言う。

最近では、動画解析などによって、ダンスの技術をスコア化するプロダクトも発表された。AIを活用することで、さらに競技を楽しめるようになるのかもしれない。

エイベックスは動画解析技術とデータサイエンスを活用しダンス技術のスコア化を実現したと発表


2020年は新たなマーケティング創出の機会

また、実際にスポーツの現場やその周囲に関わらなくても、2020年においては訪日外国人を見込んだ需要は増すと予想されている。ミン・スン氏も「ウェブサイトの閲覧データなどから、旅行者(消費者)のペルソナを立てることで、新たなマーケティング機会を創出できるだろう」と言う。

小売業界でも海外からの消費者ニーズを分析すれば、大きなチャンスを得られるかもしれない。

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