日本といえば、自動車産業。ただ、いろいろ規制もあったり道路は狭かったりと「自動運転のレベル4・レベル5って、日本で可能なの?」と、懐疑的になりますよね。
レベル1:加速・操舵・制動のどれかひとつを自動で行うもの
レベル2:加速・操舵・制動のうちの複数を自動で行うもの
レベル3:加速・操舵・制動のすべてを自動で行うが、緊急時にはドライバーのアシストが必要
レベル4:限定条件下において、完全自動運転。ドライバーがいらない
レベル5:いかなる条件下においても、完全自動運転。ドライバーがいらない
そんななか、架空の街をつくって、自動運転AIを走行・学習させるという取り組みをおこなっている驚きの企業がありました。
2018年3月には11億円の資金調達も行い、いま非常に勢いのあるアセントロボティクス。AIでの学習データ生成、GAN活用、VR運転+深層強化学習など……
最先端の技術を使い倒して、ほぼ仮想空間だけで自動運転AIを開発しています。
今回はそんな先進的な取り組みをしているアセントロボティクスにインタビュー。
インタビューさせていただくのは、以下のお二人。よろしくお願いいたします。
・代表取締役 石﨑雅之 さん
ほぼ仮想空間だけでAIを開発。アセントの独自学習環境「ATLAS」
――まず、アセントがどんなことをしているのか、概要を教えていただけますでしょうか?
「アセントのミッションは、“いかなる状況下でも完全自動運転できるAIの開発”です。
地図情報があるなど特定の状況下での自動運転は、技術的にできるようになってきました。ただ、汎用的な状況での自動運転はまだまだといえるので、弊社はそこを目指しています。」
「現実世界で、自動運転AIを学習させるのはとても大変です。
事故が起きたら大変ですし、自動運転車にはセンサーがたくさんがあり、それらすべてのデータを集めるのはとても大変です。
そうした課題を払拭するために、私たちは3D CGモデルの仮想の街で、AIを学習させています。」
仮想の街で学習させているとは驚きです。たしかに、それであれば事故の心配や規制を気にする必要もありませんね。
「学習のためのデータもAIで生成しています。さらに自動運転の制御AIについては、人間がVRで仮想の街を運転をし、それを規範として学習させています。
このアセント独自の学習環境を『ATLAS』と名付けています。」
ほぼ仮想空間だけで完結しているとは驚き。まるでSF映画のような話ですね!気になるこのATLASについて、さらに詳しくお話を伺っていきましょう。
GAN、VR、深層強化学習。最先端技術によって、生み出される強力なAI
「自動運転に使うAIには、大きくわけて、“認知AI”・“制御AI”の2つがあります。認知AIが制御AIの自動運転を手助けするという関係になっていますね。」
2つの役割は下記のとおり。
- 認知AI:周囲の環境を認識するためのAI
- 制御AI:運転操作をするAI
1つ目の認知AIは、どの部分が道路なのか・どこに人や車が写っているのか、を認識するためのAIですね。

アセントでは、3Dボックス検知+セグメンテーション、ポーズ推定、深度推定をおこなうAIを開発している
これらのAIが、仮想の街で運転をする際に活躍します。
ところで、仮想の街はCGなので現実世界とは景色が異なります。そういった状況でも、認知AIは効果を発揮するのでしょうか?
「まさに、その課題にGANを使用したAIを使用しています。CGの街並みの画像を、画像生成AIに入力し、現実のような景色に画像を生成しています。これによって、現実世界に近い状態で制御AIは運転・学習をおこなうことが可能です。」
一般的に、AIに使用するデータは、実際に展開する現場に近いほうが良いとされています。3D CGモデルだけだと、現場と状況が乖離しすぎてしまうので、その差を生成AIで埋める、ということですね。
「制御AIについては、人間がVRで架空の街を運転したデータを規範にして、深層強化学習を用いて学習しています。さらに、そこにもGANを用いて学習しています。」
GANというと画像の自動生成で有名ですが、もともとは学習手法のひとつ。GANの監視ネットワーク側に人間の運転データを使用し、制御AIの精度を上げているとのことです。GANというと、研究でしか使用されていないイメージがありましたが、アセントではすでに実用しているんですね。
“生成ネットワーク”と“監視ネットワーク”を敵対させる学習手法。生成ネットワークが、監視ネットワークをだませるように学習をしていくため、高い精度を実現できるといわれている。高度な画像を生成できるDCGANなどが話題になった。
あらかじめ設定した“報酬”を得られるように学習していく強化学習という手法に、ディープラーニングを組み合わせ、さらに精度を高められるようにした学習手法。AlphaGo Zeroで使用されたことで有名。
ATLASの強みは、スピード・精度・多文脈対応
――ATLAS、ものすごいですね。ビジネス面でのインパクトはどんなところにあるでしょうか?
「仮想空間でシミュレーション学習ができるATLASでは、現実世界での学習にくらべ、実際のデータが1〜3%で可能です。
また、仮想空間ということは、あらゆる文脈を再現することが可能です。
たとえば、東京・アメリカ・北京で運転するのは、それぞれ全く前提が違いますが、ATLASなら低コストでも多文脈に対応できます。」
「また、良い自動運転AIをつくるには、失敗するパターンを知る必要があります。現実では失敗できませんが、架空の街であればそれが可能です。」
なるほど。ATALSは、コストを低く抑えられるだけではなく、多文脈への対応、精度向上にも大きなインパクトがあるということですね。
ビジネスモデルとしては、自動運転AIの、ライセンス販売・導入・ATLASによるメンテンスによってマネタイズを計画。すでに大手自動車メーカーとの研究開発も進めているそうです。
アセントのAIは宇宙にも進出する? 今後の展開に期待大
――今後の展開についてはいかがでしょう?
「ATLASなら多文脈に展開できるので、車だけではなく、農業機械、ドローン、水中などいろんなシーンに横展開可能です。
もしかしたら、宇宙での自動運転ロボットもできるかもしれませんね。」
それはとても夢のあるお話ですね!
さらに今度の予定としては、隠れた場所から人が飛び出してくるかもしれない・見えていなくても想像するといった予測を行うAIも開発。2019年には、認識・予測・制御の、運転に関わるすべての要素をAI化するとのこと。
アメリカのように広い国じゃなくても、自動運転AIをスピーディーに開発することができてしまうとは驚きでした。AIでの画像生成・VRなど、最先端技術を使い倒しているところもとても面白いです。今後の実車運転デモなどに注目です。
Fredさん・石﨑さん、ありがとうございました。