3月22日にレッジが開催した、「これってAIでできますか?」をテーマにAIのスペシャリストを招いて夜な夜な語るイベント「AI TALK NIGHT」vol.1。第一回から大変盛況をいただきました。
「これってAIでできますか?」をテーマに、AIを導入しようとしている企業が持つ、
・「やることは決まっている」けれど「できるかわからない」
・「できるらしい」けれど「どこに気を付けるべきかわからない」
・「できるらしい」けれど「なにが最適であるのかわからない」
などの悩みを、AIのスペシャリストであるゲストに直接ぶつけられるトークイベント。レッジのイベントスペースで定期開催しています。
第一回は、株式会社キカガク 代表の吉崎さんを招聘。吉崎さんのAIに対する深い知見と、弊社CMO中村のトークも冴え、熱い夜となりました。当日の様子をレポートします。
スピーカー紹介
株式会社キカガク代表取締役社長 吉崎 亮介氏
1991年生まれ、京都出身。
舞鶴高専にて画像処理・ロボット制御の研究、京都大学大学院にて機械学習による製造業のプロセス改善の研究に従事。修士2年生で化学工学界で世界最高峰の国際学会ADCHEMにて最優秀若手研究賞を受賞。
大学院卒業後、ITベンチャー企業を経て、株式会社キカガクを創業。AIの教育およびコンサルティング事業を手がける。日本マイクロソフト・Preferred Networks両社が唯一公認のデータサイエンス人材トレーニング企業。SOMPOホールディングス・京都府と連携した行政初のデータサイエンティスト人材養成講座や、日経ビッグデータとの講座開催、Udemyでの講座提供など創業1年で多くのプロジェクトを実施。2018年4月より東京大学客員研究員に就任。
株式会社レッジ CMO 中村 健太
webコンサルとして数多くの実績を持つ株式会社レッジのCMO。2014年より一般社団法人日本ディレクション協会の会長を務める。主な著書に「webディレクターの教科書」「webディレクション最新常識」など多数。レッジではAIコンサルティング事業のプロデューサー、企画プロデュースのマネジャーとして大小数々のAIプロジェクトを成功に導いている。
セミナーの流れ
セミナーは、事前に参加者から質問を募集し、イベント当日に吉崎さんとレッジCMO 中村が答えていく形で進みました。
事前にいただいた質問を、大きくテーマに分けると以下の通り。
- AIで人間の業務の代替や業務効率化はできますか?
- AIで未来の予測や異常検知はできますか?
- AIで適切なレコメンデーションはできますか?
- AIで暗黙知を可視化し、ナレッジマネジメントはできますか?
- その他質疑応答
今回は、盛り上がった質問と応答を抜粋してご紹介します。
AI活用にはデータとロジックが不可欠
はじめの質問は、「AIで人間の業務の代替や業務効率化はできますか?」というものでした。
「業務の効率化、代替におけるAI活用はよく聞かれる質問です。もちろんAIの導入も可能ではありますが、コストや費用対効果を考えると、必ずしも導入するべきではない、もしくはAI以外のシステムで十分、といった印象を持っています。」
AIという言葉だけがひとり歩きしていますが、実際は導入しても思ったように精度がでないことが多く、挫折してしまう企業が多いのも事実。AI導入ありきで考えずに、自分たちが何を解決したいのかを考える必要がありますね。
また、業務効率化という文脈で、広告などのクリエイティブ制作をAIへ置き換えられるか、という質問もありました。
「クリエイティブという領域を言語化できるのであれば可能だと思います。現在デザイナーがおこなっているデザインを言語化して数値化し、エクセルのカラムに落とし込めれば、AIがそれを学習可能になります。」
「よく「Alpha GO」などが、AIが人間を超えた例として挙げられますが、数十億の盤面のパターンを学習しているだけで、マシンスペックの高いコンピュータなら十分学習できてしまう範囲。データを学習させ、アウトプットするプロセスの延長線上にすぎないんですよ。
一方、クリエイティブを言語化するには、『人間が感動するクリエイティブとは何か』を言語化しなければいけないので、難易度は高まります。」
Adobeや電通などが、すでにクリエイティブを自動生成するAIツールの実用化に向けて動いているように、ニーズは明らかに存在しています。しかし、そうした企業は膨大なデータと資金を持っている、いわゆる大企業。すべての企業が恩恵を享受できるよう、ツールの実用化が待たれますね。
職人芸をいかに言語化し、ロジックに落とし込めるか
みなさんもご存知のゴルフ。そのゴルフ場の芝刈りのノウハウが暗黙知になっており、どのように言語化したらいいかといった質問もありました。たしかに、繊細な感覚が求められそうです。
「芝刈りの職人さんがいるのであれば、なぜ芝をこの長さにしたのか、と聞いてみれば、意外と『今日は天候がこうで、風向きがこうだったから、この芝の長さにしたんだ』など答えてくれるはずです。そこをロジックに落とし込む作業をすることで、自然と暗黙知だったものが言語化されてくると思います。」
「AIがどこに注目すべきかという要素が特定できれば、その数値は機械学習で最適化できます。AIを使うにはデータとロジックが不可欠です。まずは人間がしっかり学習させるデータのロジックを理解して、言語化していないと、出てきた値を人間が検証できません。
なので、必ず前処理として人間がロジックを作り込むか、人間による教師データ作成という作業が発生します。」
吉崎さん曰く、教師あり学習は「職人あり学習」。暗黙知を知っている職人さんがいるのであれば、それを丁寧に言語化してロジックに落としていけばいいので、教師データの作成も成功する可能性が高いんだとか。
サンプル数が少ないものは、状況の定義が重要
これまで起こった事故のデータをもとに、未来の事故を予測できるか、という質問もありました。サンプル数が少ないケースでは、どう学習データを用意したらいいのでしょう?
「事故の予測は、現状では難しいかと思います。一回一回の事故はすべてがユニークなデータなので、教師データ作成が困難なためです。ただし、人間が定義した事故の状況に対して、近しい状況のときにアラートを鳴らす、といったことは現状の技術でも可能かもしれません。」
たしかに、たとえば同じ自動車事故でも、事故が起こった際の状況は千差万別。いくつもの偶然が重なって起こっているので、すべてのデータはオンリーワンのデータです。データがAIに予測可能なものかどうか、慎重に見極める必要がありますね。
漠然とどこかに遊びに行きたいな、と思っている人に対して、適切な遊びをレコメンドするにはどうしたらいいか、という質問でも、状況の定義の重要さが話されました。
「ユーザー属性がわからないまま『適切』ということを定義してサジェストするのは、難しいかと思います。人間はそもそもどのように遊ぶのか、まで分析できていればできると思います。たとえば、事前に『サマースポーツが好き』などの回答をもらっておけば可能ではないでしょうか。」
AI活用はデータ集めで決まる
対談中に一貫して語られていたのは、「いかにデータを正しく収集するか」ということでした。
そもそもデータがなければAI活用は難しいですし、データがあったとしても、それがAIにも処理できるよう、構造化されていなければ使えません。
一般的に、AI=なんでもできると誤解されがちですが、AIに対する理解のギャップを埋めることが、レッジの役割でもあると考えさせられました。
株式会社電通に登壇いただいたAI TALK NIGHT vol.2の記事も近日公開予定です。こちらも楽しみにお待ち下さい。