6月29日に、Ledge.ai主催のイベント「AI TALK NIGHT vol.3」を開催しました。
「これってAIでできますか?」をテーマに、AIを導入しようとしている企業が持つ、
・「やることは決まっている」けれど「できるかわからない」
・「できるらしい」けれど「どこに気を付けるべきかわからない」
・「できるらしい」けれど「なにが最適であるのかわからない」
などの悩みを、AIのスペシャリストであるゲストに直接ぶつけられるトークイベント。レッジ主催で定期開催しています。
vol.1、vol.2のレポートは下記から。
キカガク吉崎氏を招いた「AI TALK NIGHT vol.1 “これってAIでできますか?”」イベントレポート
「AI TALK NIGHT vol.2」イベントレポート ── 電通が語ったAIプロジェクトの秘訣は“小さな成功の積み重ね”
vol.3となる今回は、ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社/ソニー株式会社の小林氏をお招きし、レッジのCMO中村、レッジ執行役員の飯野がモデレーターをする形でパネルディスカッションをおこないました。
ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社/ソニー株式会社 シニアマシンラーニングリサーチャー。1999年ソニーに入社。機械学習技術の研究開発をはじめ、近年ではディープラーニング関連の技術・ソフトウェアの開発に従事。
むやみなデータ収集は、ゴミの山から金を取り出すようなもの
ディスカッションのテーマは複数あったのですが、AI活用が向いている業界・向いていない業界の話では、多くの方が身を乗り出して真剣に聞いている様子が見てとれました。
「結構『データ』がキーワードだと思っていて。データが貯まっている業界、貯まっていない業界、貯まっているけどうまくいかない業界など、小林さんはどう見られていますか?」
「やはりIT業界は最新技術と近しいので、ディープラーニング活用はスムーズだと思います。一方で、大きい効果がある業界はITの導入が進んでいない分野で、そこはIoTで旗を振ってデータを取りに行っているので、可能性があるフロンティアだと言えそうです。」
「IT業界はデータがある分、より高度なことをやらなきゃいけない。やろうとしたけど特徴量がとれなくて結果が出ない話も良くあって、調べてみると漫然とデータを取ってしまっていることは結構ありますよね。結局人手で前処理をがんばるというパターンが多い気がしています。」
AIはデータが命ですが、データが多ければいいというものでもないようです。使えるデータと使えないデータがあり、前者を収集しなければいけません。
「ゴミの山に金が埋まっているようなものです。たしかに量はあるのですが、一生懸命ゴミを精製してようやく金が取れる、みたいはのは非効率だし精度も出ません。」
「農業もフロンティアとして注目されていますが、気候や温度など変数が無数にあって、結果がどうだったかがわかるのが収穫の時期なので、年に2回みたいなスパンになります。結果が分かるのが何回かある業界はAI活用に向いてると思いますけどね。」
その点、データが短いスパンで取れ、かつPDCAを回す速度が早いIT業界はAI活用に向いている……というのが本イベントでの結論となりました。レッドオーシャンにはなると思いつつも、まだまだ始められていない企業が多いはずなので、チャンスは大いにありそうですね。
AI導入に成功する企業 = AIを試した企業
AI導入に成功する企業、失敗する企業はどのようなものかも語られました。
「いろいろなAIの社内プロジェクトを回してらっしゃると思うのですが、中にはうまくいったものも、そうじゃないものもあると思います。その差異はどこにあるのでしょうか? プロジェクト単位ではなく企業レベルでも同じ話になるとは思うのですが。」
「ここは簡単です。結局、やったかやらなかったかがすべてです。」
「かっこいい(笑)!」
「ありがとうございます(笑)
足踏みをしてる企業は、確実に置いていかれます。今あるデータでまずはトライしてはじめて、こうすればいい、ああすればいいなどの発想が生まれるので、本当にまずはやってみて結果を得ることが正義ですね。
ちょうどインターネット黎明期に似ていて、当時HPを作った企業と作らなかった企業の差がどれだけついたかを考えれば、今始めない理由はないと思います。」
「僕も本当にそう思います。おっしゃっていただきましたが、今の状況って本当にwebの勃興期に似ていて。調査に時間を使っていると、その間に予算もモチベーションもしぼんでしまうんですね。試行錯誤を繰り返せば、細かい失敗を繰り返すことで、エンジニアじゃない人間でもAIプロジェクトを分かるようになります。」
最新技術は日進月歩で、特にディープラーニングの技術は日々イノベーションが生まれています。『前例がないので』『まずはしっかり調査してから』といって始めない企業と、今から始める企業で雲泥の差がついてしまう……。まさに時代の転換期です。
「そして、それを簡単に試せるというのがソニーさんのNeural Network Consoleとそういうことですね。」
「はい! うまくまとめてくださってありがとうございます(笑)」
ソフトウェアのソースコード=機械学習にとってのデータ
AI TALK NIGHTには、質疑応答の時間が多めに設けられているのも特徴。今回も参加者の方からの生々しい質問を、小林さんと一緒になり答えていきました。
「やはり、どこまで効果がでるかというのがなかなかわかりにくいところで、いろいろな企業が足踏みをしてしまっていると感じています。上司を説得するために、費用対効果の説明をどうしたらいいのでしょうか?」
「システム開発と一緒だと思うんですよね。それがどれくらい効率化されそうか、どのくらい価値があるかということを真剣に考えることだと思います。AIだからといって特別視する必要はありません。」
システム開発でもAI開発でも、費用対効果を出す、という本質は変わらない。ソフトウェアでいうソースコードは機械学習にとってのデータだと言い換えらる、と小林さんは言います。そう考えるとたしかに、ソフトウェアのコードにはお金を払うのに、データには払わないというのはナンセンスな気がしてきますね。
「確かにそうですよね。チャットボットなどのデータコーパス依頼は1行20円30円とかすると思うんですけど、それが10万行とかになると、やはり高いと言うお客様が多いのは事実です。システムにはそのぐらいの金額払っていたと思うんですけど……そこをすり合わせればうまくいくのかもしれないですね。」
試行錯誤した先に見える未来
今回繰り返し話に出てきたのは、「とにかくまずはやってみること」。まずは手持ちのデータでAIをはじめてみて、結果を出さないことには何も始まらない。AIに限らず、なんだか人生論のようになってしまいましたが、真理といえます。
今回もお酒を飲みながら、お客さんも含めコミュニケーションができるいいイベントになったと思います。あまりAIのスペシャリストに直接お話ができる機会もないと思いますしね。