2019年3月6日、株式会社レッジの自社イベントスペースにて、『AI TALK NIGHT vol.6』を開催しました。『THE AI 3rd』の振り返りとともに、イベントで語られた内容について議論が交わされました。
本稿では、以下に焦点をあててイベントの様子をお届けします。
- AIプロジェクトに失敗が多い理由
- AIの言語理解にブレイクスルーが起きている
- 人口減少の対策にAIは欠かせない
- AIはバブルか?
- AI人材の採用はどうすべきか?
AIを導入しようとしている企業が持つ、
- 「やることは決まっている」けれど「できるかわからない」
- 「できるらしい」けれど「どこに気を付けるべきかわからない」
- 「できるらしい」けれど「なにが最適であるのかわからない」
などの悩みを、AIのスペシャリストに直接ぶつけられるトークイベント。AI TALK NIGHTは、レッジ主催で定期開催しています。
株式会社レッジ 代表取締役社長
飯野 希(写真右)
株式会社レッジ 執行役員
AIプロジェクトの3分の1は失敗に終わる
株式会社電通のAI MIRAI 統括、児玉拓也氏はTHE AI 3rdのなかで、自社でAIを開発した際の失敗について次のように語りました。
「これまで開発系のプロジェクトは46つありました。そのうち15つは何らかの形で日の目を見ています。しかし、11つは完全に失敗、もしくはお蔵入りしたプロジェクトです。感覚としては、大体3分の1は形になり、3分の1はお墓に持って行き、残り3分の1は継続審議中。そんな割合で進んでいます」
スタートアップが日の目を見る確率は、Googleベンチャーズが選んだ企業でさえ15%程度と言われています。AIプロジェクトでは、ある程度の失敗を覚悟したうえで導入を進める必要があります。
児玉氏は自社プロジェクトでの失敗例として「良いAIを作っても使われないことがあった」といいました。その経験から、AIを開発する価値の是非については入念に調査すると言います。
「AIが完成した際に、『誰がいつどうやって使うのか、会社にどういうメリットがあるのか』を議論する手間を惜しまないようにしています。そして、利用者に近いメンバーを巻き込むことも欠かしません」
AIプロジェクトに失敗が多い理由は、今までのITシステムの開発と根本的に異なるからです。基本的なITシステムはアルゴリズムを基にした開発が行われますが、AIシステムにおいてはデータを基にした開発が行われます。そのため、
- 学習データの集め方
- データの学習方法
- 求められる精度
を見定める必要があります。これらが曖昧なままプロジェクトが進行する、計画が頓挫してしまう可能性が高くなります。
株式会社電通の講演は【AIの「乗りこなし方」:これからのAI活用に必要な視点】という題にて行われました。講演レポートはこちらから。
日本語データの活用が進めばブレイクスルーが起きる
AIベンチャーのInsight Techでは「不満買取センター」というサービスを営業しています。
企業の商品やサービス、社会をより良くするために、人々の不満を買い取るサービス
THE AI 3rdのなかで、株式会社Insight Tech代表取締役社長、伊藤友博氏は、「日本語のテキストデータが活用できていないこと」がビジネスにおいて大きな課題であると語りました。
「私は、日本語データのビジネス活用の難しさが、日本におけるビジネスの進化を阻害しているとさえ思っています。活用が進めば、日本のビジネスではさらなるブレークスルーが期待できます」
また、今後数年間は「日本語」を扱う作業において大きな変革の時期となるのではないか、とレッジの飯野は言います。
「2018年には、AIが人間と同等の精度で英語から中国語への翻訳ができるようになりました。日本語においては精度としてまだ不十分ですが、もう少しでブレイクスルーが起きると言われています」
今は、「日本語」がビジネスのネックになっていますが、それが解決されるのも時間の問題です。分析できていないテキストデータが大量に眠っている企業は、そろそろ動き出しても良いタイミングではないでしょうか。
株式会社Insight Techの講演は【「文章解析AI+α」で解決したビジネス課題実例と成否の鍵】と題して行われました。講演レポートはこちらから。
10年後のIT技術の発展は予想できないが、人口減少は確実に起こる
現在、警備員の有効求人倍率は8.65倍となっており、警備業界全体の人手不足は明らかです。少子化により、警備業界での人手不足はさらに深刻な問題となっていきます。ALSOKでは、警備業務を代替するために10年以上前からロボット開発を進めており、施設の夜間警備などに活用しています。
ALSOK営業総括部次長の干場久仁雄氏はAIによる警備員の代替が最大の生存戦略であると言います。
「警備業界では東京五輪などの誘致が決まった影響で需要が急増しています。現在は、警備ロボットはもちろん、4Kや5GをベースにしたIoTデバイスによる、社会全体に警備網を広げるゾーンセキュリティマネジメントの実現に向けて動き出しています」
ALSOKは人手不足に対する解決策として、IoTデバイスやロボットの導入を前提とした未来を考えています。
「スマートフォンが普及して社会が大きく変わっていったことからも明らかなように、10年後20年後にIT業界がどうなっていくかの予測は立てにくい。しかし、人口の減少確実に起こる。これからのビジネスでは、人口減少に対処できない企業は生き残れない」
人口減少は確実に起こるため、その事実を受け入れられず対策を立てられなかった企業は、この先大きな損失を被ることになりかねません。早い段階で対策を立てることが不可欠です。
ALSOK干場氏の講演は【AI・4K・5Gで進化するALSOKの警備サービス】と題して行われました。講演レポートはこちらから
AIのポテンシャルは未知数
特別講演は、株式会社シンギュラリティ・ソサイエティ代表理事の中島聡氏(写真左)、東京大学大学院特任助教授の大澤昇平氏(写真中央)、株式会社ABEJA執行役員の菊池佑太氏(写真右)が、ディスカッション形式で語り合う場となりました。
セッションでの議題の1つ「AIはバブルか否か」についての3者の意見をまとめました。
「AIへの注目度はまだ上り調子です。そうすると、企業にはお金が集まるし、勉強する学生も増えるし、メディアも騒ぐ。今はバブルだと思いますが、人を育て、技術を育てる健全なバブルだと思います。まあ、どこかでドーンと落ちるとは思っているんですけど」
それに対して、大澤氏、菊池氏は別の立場を取っています。
「現状をバブルというのは違うと思っていて、むしろAIの価値自体はもっと上がると思っています」
「バブルとは感じておらず、AIのポテンシャルはめちゃくちゃ高いと思います。今後あらゆる生活に溶け込んでいくと思うんですよね。意識するものではなく自然に存在するものとして認識されるようになります」
レッジの橋本はこれらの意見を踏まえ、次のように語りました。
「欧州で行われた調査のなかで、AIを使っていると発表したにも関わらず、AIを使っている証拠が出てこなかった企業が多数あるそうです。なんでもAIと言ってしまっている現状はあるのかなと思っています。そのようなことからも、『AI』という言葉が1人歩きしているのを感じます。
現在、AIに対しての期待値が高すぎる分、これからAIに対しての投資額が下がってしまうことは起こりうるかもしれない。そういった意味ではバブルであると思います」
特別講演では3名の講演者に「AIがバブルか否か」のほかに、「エンジニアの価値について」「ビジネスパーソンへの提言」など、たくさんの意見を頂きました。特別講演のレポート記事はこちらから。
AIがわからない企業にAIエンジニアは入らない
今回のAI TALK NIGHTでは質疑応答の時間が設けられました。質問のなかで一番印象的だった「AI人材の採用方法」についてここで触れたいと思います。
「良いAIエンジニアを採用するために、どのように人材を見定めたら良いでしょうか?」
「そもそも、優秀なAIエンジニアは『これからAIを始めます』という企業には入りません。そのような人は、給料の高い企業か、データが多い企業を選びます。AIをこれから始めようと思っている企業は、最初に入ってくるエンジニアの伸び代を測るしかないと思います」
「採用する側にAIに対するリテラシーがないと、AIエンジニアの能力を見極めることは不可能です。企業の幹部レベルの人間がしっかりとAIについて学ぶか、AIを理解している人材を置く必要があります」
AIの需要が高まっているなかで、AIエンジニアの採用はどの企業も模索を続けている最中です。企業幹部、採用担当にAIについて理解できている人を置くことが最善策かもしれません。
AI TALK NIGHT vol.6は、THE AI 3rdの全体を総括したトークセッションとなりました。AIプロジェクトの失敗事例から、日本語のビジネス活用、日本が抱える労働者不足の問題など、さまざまな話題についての議論が交わされました。
特別講演でのお話でもありましたが、これからAIが生活に浸透していくことは間違いないです。ALSOKがそうしているように、新しい技術を日々取り入れることがこれからの時代に必須な取り組みである思います。