awoo Japanが考えるスーパーマーケット業界の生き残り術〜台湾最大スーパーPX Martに学ぶ本当のDX改革〜

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インタビューに応えるPX Mart副会長謝健南氏とawoo Japan CEO 林思吾

台湾では誰もが知っている庶民派スーパー「PX Mart(全聯福利中心)」。台湾全土に1000店舗以上を構え、国民の80%が今いる場所から最も近いPX Martを10分以内に見つけられる。ここまでの成長を遂げた背景には、小売業界に携わるものなら誰もが危機意識を持つDX(デジタルトランスフォーメーション)に本気で取り組んだ実績がある。着目すべきは、PX Martのメイン顧客が非デジタルネイティブ世代である中高年世代であることだ。にもかかわらず、彼らは見事にDX改革を成功させた。この成功の裏に、日本のスーパーマーケット業界が生き残るための秘策が隠れている。

awoo JapanのVPoBD 執行役員である吉澤和之氏による寄稿第3回では、同社が行ったPX Mart副会長、謝健南氏(シェージェンナン)へのインタビューの内容をもとに、その秘策について読み解いていく。

決済手段の改革から始めたPX MartならではのDX事情

DX改革とひと言でいっても、その範囲は広大な海ほど幅広い。きっと課題をあげればあげるほど、何から手をつければ良いのか分からず、途方に暮れてしまうだろう。そこで参考になるのが、近年、DX改革を成功させ、台湾最大のスーパーマーケットにのし上がったPX Mart(全聯福利中心)だ。彼らがはじめに手をつけた改革とは何なのか。インタビューではこう答えている。

「顧客体験を改善するには、まず第一に消費者のストレスを軽減しなければいけません。我々がそこで手を打ったのは、決済手段の改革からでした」

最初に導入したのがSuicaと同じような物理的な電子マネーカードだった。日本と同じく、台湾でも磁気型の電子マネーは幅広く普及しており、国民の大半は抵抗感を感じていなかった。そこで2018年1月、彼らはPX Mart専用の電子マネーを導入する。しかし、これはDX改革の最初の一手に過ぎなかった。電子マネーカードの取り組みは、単に「消費者に電子決済に慣れてもらう」ためのものだった

レジを効率化させるために、「支払った現金のお釣りを電子マネーにチャージする」という画期的な方法も取り入れたことで、結果的にこのカードは1400万枚(台湾人口の4割以上!)にまで普及。これで決済革命のための素地が整ったというわけだ。

次に、PX Martは「PX Pay」と呼ばれるスマホ決済サービスを導入した。いよいよ本腰のDX改革が始まる。このサービスと電子マネーカードとの違いは「顧客体験」にある。

「PX Payを使えば、購入や使用履歴を会員一人ひとりに対して紐づけることができ、顧客データを適切な形で蓄積することができます。レジ待ちの問題も含め、多くの課題を解決することができました」

膨大な顧客ビッグデータを蓄積しマーケティングに生かすことで、新たなビジネスチャンスを得ようという試みである。DX改革の本質には、「ビッグデータの活用」というのは切っても切り離せない。当然、彼らもそこに勝機があるとみたのだ。

しかし、ここでどの企業も挫折してしまうのが「普及させる」という点だ。スマホ決済サービスをリリースすること自体は、そんなに難しいことではない。ビッグデータを蓄積するためには、「たくさんの顧客に使ってもらう」状態を目指さなければ、正直意味がないのだ。

そこで、普及するために彼らが取った手法。それが実にユニークであり、マーケティングの本質をついたものばかりだった。それを紹介していこう。

顧客と同世代の「ママさんヘルパー作戦」

PX Martの主要顧客は中高年。当然、この世代は若い人たちよりもデジタルに弱く、スマホ決済に対しても抵抗感を持っている。その障壁をどう乗り越えるか、というのがPX MartにおけるDX改革の生命線でもあった。そこで彼らがとった戦略が、通称ママさんヘルパー作戦だ。

どういうわけか、年齢を重ねると、おしゃべりになる。店員さんとよく話す中高年女性を見かけるのは、おそらく世界共通だろう。PX Martはその接点に目をつけた。中高年のスタッフが、同じ世代の顧客に対して、PX Payのやり方をとことん教えてあげるというのを徹底した。しかも、長時間向き合うこともざらだという。この取り組みによって、スマホ決済に対する抵抗感を、同世代のスタッフによるコミュニケーションによって、見事に打ち崩していった

この方法は、日本でも通用するのではないか。日本の中高年層も、ご多分に漏れずネットリテラシーは概ね低い。パートやアルバイトで働く主婦のみなさんがとことん顧客と向き合ってスマホ決済のやり方を教えていけば、じりじりと利用者は増えて行くはずだし、何よりコミュニケーションが増える。顧客にとっては、親しい友人が出来たのと同じような感覚でお店に足を運ぶようになるし、店側に取っても都合が良いはずだ。

全国網のスーパーならではのオムニチャネル 「PX Go!」

もうひとつの着目すべき取り組みは、「PX Go!」というサービスだ。これは、スマートフォンから商品を購入し、受け取りは宅配か店舗を選択するというものだ。店頭在庫を活用した、全国網スーパーマーケットならではのオムニチャネルサービスである。日本でもセブンイレブンなど多くのコンビニやスーパーマーケットがこの取り組みをしているので馴染みもあるだろう。

しかし、PX Martの革新的な取り組みはそこではない。「PX Go!」にはおもしろい機能がある。それは「分批取貨」と呼ばれる、まとめ買いサービスだ。これについて、インタビューではこう答えている。

「『PX Go!』を使用すると、ユーザーは一度に色々なものを購入します。家族や友人に配布するための商品を購入したり、グループでの購入なども出来るようになっています。こうして、さらにPX Martに足を運んでもらい、利用してもらうための手段を整え、購入する頻度や単価をあげる仕組みを作っています」

この取り組みを理解するには、台湾人の消費文化を抑えておく必要があるだろう。台湾人は、誤解を恐れずに言うと「お節介」な気質を持っている。これは私の第二回の寄稿(https://ledge.ai/awoo-japan-part2/)において、台湾デジタル担当大臣のオードリータン氏の言葉としても紹介している。台湾では、何かを買ってきて、みんなに分け与えるというのが一般的な習慣なのだ。

PX Martは、この仕組みをうまく取り入れた。ユーザーが商品をまとめ買いすると、そのユーザーは商品を受け取る「権利」を与えられる。その権利はまとめて行使する必要はなく、必要なときに必要な本数だけ、どの店舗でももらうことができる。まさに好きな時に、好きなタイミングで、好きな場所で受け取ることができるという、オムニチャネルな発想である。しかもその権利は「譲渡」や「共同購入」が可能だ。自分が買った品を、人に分け与えることができたり、一緒にその商品を購入するといったことができたりするのだ。

こうした取り組みにより、PX Go!とPX Payはどんどんとユーザーを増やすことに成功し、リリースからわずか1年足らずで、いまや台湾 TOP3のモバイル決済アプリとなった。

DX改革とはビジネスモデルの再構築と同じである

しかし、なぜエンタープライズ企業であるPX Martが、わずか1〜2年の間にこのような改革が出来たのか。インタビューでは、そのヒントをこう語っている。

「一つ言えるのは、『複雑さ』を解消させることです。物事の課題の本質は、実はとってもシンプルです。組織が大きくなるほど、克服すべき問題が複雑になり、市場テストと目標達成の速度を遅くさせます。デジタル変革をするのであれば、この原理からまず取り除いて行く必要があるでしょう」

DX改革とは、既得権益との戦いでもある。レガシーな文化・習慣から卒業し、いかに新たな時代を迎え入れる準備に本気で取り組めるか。そのためには、過去のやり方を捨てて、新しいものをふんだんに吸収していくことが求められる。この波に乗り遅れると、もはや手遅れになる。なぜなら、デジタルトランスフォーメーションとは次の時代に適したビジネスモデルを構築するのと同義であり、次の時代は、デジタルがすべての中心に添えられるからである。

しかし、最適なプロセスは、企業によって異なってくるだろう。PX Martのように決済手段の改革が第一ステップにくる場合もあれば、Eコマースの再構築、社内体制の抜本的改革なども重要事項として挙げられるはずだ。果たして、日本のスーパーマーケット業界は今後どうなっていくべきなのだろうか。どのようなDX改革をすれば、顧客にとって有益なのだろうか。今後のニューノーマル社会における小売業界の変革に期待するとともに、我々awoo Japanも、その変革のサポートを全力でしていく。