茂木健一郎氏「人間には何ができて、AIには何ができるのか、その境目を一度整理しておく必要がある」

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2020年8月、台湾から日本市場に進出したAIオムニチャネルマーケティングプラットフォームがある。それは、awoo Japanの「nununi(ヌヌニ)」だ。



nununiは、awooが自社開発したAIとNLP技術を融合したMarTechソリューションで、顧客獲得・顧客転換・顧客維持までトータルで解決すると謳っている。つまりは、ECサイトの効果を底上げし、売り上げ拡大と運用削減を両輪で実現できるプラットフォームだ。

nununiの特長は、ユーザーがまるで実店舗で買い物をするような体験を得られるという点である。顧客の購買動機に合わせたタグを抽出および生成し、各商品の“特徴”をタグとして付与する。また、商品間の関連性を計算し、ユーザーの検索意図や購買シナリオに合わせて自動で組み合わせを可変させる。これによって、ユーザーの回遊体験を高め、カスタマージャーニーを改善させている。

すでにnununiは、国内ECサイトにおいても続々と導入が進んでいるそうだ。


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>> awoo Japanのnununi、モバオクに導入決定(プレスリリース)

本稿では、awoo Japanが公開しているホワイトペーパーの一部を特別転載という形で、脳科学者である茂木健一郎氏とawoo Japan VPoBD 執行役員の吉澤和之氏による対談をお届けする。この対談は前後編での実施となり、本稿では前編部分のみをお届け。後半は同社のサイトからホワイトペーパーをダウンロードしてチェックしてほしい。

脳科学者である茂木健一郎氏(写真左)とawoo Japan VPoBD 執行役員の吉澤和之氏(写真右)

インサイトの限界

―― 吉澤氏
茂木さん、最近新著を出されましたよね?(『クオリアと人工意識』(講談社現代新書))なにかきっかけがあったんですか?
―― 茂木氏
あの本はそもそも、人間と人工知能がいかに共存していくかというのをテーマにしてて。ここ最近の人工知能ブームでAI技術ってどんどん進化してますよね。それに人間の技量も今後向上するだろうし。そうなってくると、人間には何ができて、AIには何ができるのか、その辺の境目を一度整理しておく必要があると思ったんだよね。
―― 吉澤氏
なるほど。そこで、人間がもつ特性としてクオリアの話が出てくるわけですね。
―― 茂木氏
そうそう。(今回のテーマの)マーケティングの観点でいうとインサイトという言葉に近いかな。「どうしてこの人はこの商品を買ったのか」っていう、その購買動機を探るのってなかなかマイニングの技術だけだと難しいんだよね。おそらくそこがAIと人間の技量の境目としてポイントになってくると思うんです。業界的にはインサイトってどう捉えられてるの?
―― 吉澤氏
インサイト自体は重要ですが、限界があるのも事実ですね。どれだけデータを集めてビッグデータ化しても、結局は過去の集積結果でしかないんです。類推することはできますが、人間の心理はとても複雑ですから、インサイトを的確に捉えることはやはり困難を極めます。逆に言えば、そのアルゴリズムの精度がAIテックカンパニーの勝敗を分けると思います。
―― 茂木氏
nununiはそれを自然言語処理のアプローチで研究してるんだよね?
―― 吉澤氏
はい、そうです。購買動機を特定していくためには、AIがデータに対して意味付けを行う必要があります。その精度を高めていくいことで、より人間と同じ解釈ができるようになります。インサイトの限界を超えられるかどうかは、その技量がまさにポイントになります。
―― 茂木氏
インサイトって結局、人間とは何かという本質的な議論に落ちていくんよね。思ったより深いテーマだと思うな。
―― 吉澤氏
深いですね。マーケティングのメソッドだと、性別や年齢といったデモグラフィックなデータを使ってユーザーをセグメント分けすることが多いんですが、インサイトを獲得するには距離が遠すぎるんです。結局、価値観は人それぞれなので、もはやそのアプローチでは効かなくなっています。

セグメンテーションからの脱却

―― 茂木氏
確かに、セグメンテーションはともするとインサイトを邪魔するかもしれないよね。
―― 吉澤氏
というのは?
―― 茂木氏
以前TEDでネットフリックスのCEOのトークを聴いたんだけど、その内容がとても示唆的だったんだよね。彼らも最初は年齢や性別のようなセグメンテーションをしていたんだけど、ある時からやめたらしい。レコメンドのアルゴリズムに大幅な投資をして、視聴されたコンテンツをベースにした独自のロジックに組み替えた結果、ユーザーにとって楽しく便利なコンテンツ探しの体験を提供できるようになった、と。僕自身ネットフリックスのヘビーユーザーだけど、確かに彼らのレコメンデーションってすごく優秀だと思う。
―― 吉澤氏
つまりデモグラフィックの情報だけだと体験価値をあげられないということですね。
―― 茂木氏
そうだね。あとはブランディングの観点もあると思う。私たちはジェンダーや年齢で区別しないですよっていう。ダイバーシティの視点からみると、そういうことも重要になるかもしれない。
―― 吉澤氏
ダイバーシティに関しては、台湾でも、トランスジェンダー閣僚のオードリー・タンさんが現れたことで、クローズアップされています。
―― 茂木氏
そこまで議論が及ぶ必要があるんだよね。だから奥が深い。
―― 吉澤氏
セグメンテーションから脱却するためには、AIはどういった進化を遂げるべきだと思いますか?
―― 茂木氏
人工知能には3つの段階があって、最初の段階がオラクル型。質問すると答えが返ってくるというもの。2つ目がジーニー型。ある課題を与えたとき、その目的を遂行するための手段はAIに任せられている状態。

例えばパーティをやるときに、~を買ってきてと指示するんじゃなくて、何の食材を買うかはすべてAIが決めてくれるというもの。3つ目はソヴァリン型といって、人工知能自身が目的を定めて自ら判断、選択して実行するタイプ。いま僕たちが手にしているAIは、まだオラクル型なんだよね。これがジーニー型に進化していくと、Eコマースのグランドデザインに影響するかもしれないね。

―― 吉澤氏
ああ、なるほど。例えばAI自身がユーザーの好きそうなもの、似合いそうなものを勝手に選んでくれる、みたいなことですか?
―― 茂木氏
そうそう。でもそこで、例えば過去の購入履歴とかに頼りすぎてしまうと、セレンディピティのような体験ってなかなか生まれにくいんだと思うんだよね。プレファレンス(相対的なブランド好意度)って過去の行動や態度である程度固定化されちゃうから。
―― 吉澤氏
なるほど。確かに。

「 赤ちゃん」から捉えるマーケティング

―― 茂木氏
そういえばさ、Twitterで「マーケティングの本質は赤ちゃんだ」みたいな事言ってなかった?
―― 吉澤氏
あー言いました!あれは、競争意識と模倣意識が自我の成長を支える、という意味合いです。何を許容して、何に抵抗するのか。競争と模倣を繰り返しながら学んでいく姿は、マーケティングの世界と似ているな、と思ったんです。顧客が自分の好きなブランドを選定していく過程も同様だなと。
―― 茂木氏
あれすごく僕も同意しますね。消費者側も買い物を通じて学習していくという側面があるから、顧客のプレファレンスのセットが決まっていたとしても、切り崩せるというか。例えばある人の洋服のスタイルが決まっていたとして、でも「本当はこの人こういう服にするともっと魅力がでるのにな」っていうときに、違うスタイルをレコメンドすると、当然その人は抵抗感があるんだよね。でもその抵抗感をどう乗り越えさせるかっていうのが意外と面白くて。リアルの場で友人とかに「これ着てみろよ」って言われて着てみたら意外と気に入ってしまって、スタイルを変えるきっかけになった、みたいな。
―― 吉澤氏
趣味嗜好って結局思い込みですからね。ふとしたきっかけで全く違う分野に足を踏み入れるっていうのは誰しも経験はありますよね。
―― 茂木氏
そういうダイナミクスをどうEコマースに組み込んでいくのかっていうのは、とても興味ありますね。
―― 吉澤氏
それはまさに僕が提唱している「偶発性消費」の考え方ですね。趣味嗜好がすでに固まっている人、あるいは固まりきっていない人に対して、どんなストーリーとレコメンデーションで思わぬ商品と出会う体験を作れるか。Eコマースでいま求められているのはその「偶発性消費」だと思っています。
―― 茂木氏
それを語るうえで、ストーリー性は大事だよね。昔は「~系」っていう感じでテレビや雑誌が話題にして、そのファッションステートメントに乗っかるっていうのがあったけど、あれも一種のストーリーだよね。でも最近は消費者の価値観が多様化してるから、なかなか打ち出し辛い。
―― 吉澤氏
D2Cが台頭してきたのは、多様化した社会が反映された結果だと思います。マスアプローチのストーリーを作ることが困難になった以上、個別最適化していくというのは自然な流れですからね。

偶発性はクオリアをつなげることで生まれる

―― 茂木氏
思わぬ発見や出会いって偶発的なものじゃないですか。でも偶発性って数字には表れにくいよね。

そこってawoo Japan としてはどう捉えているの?

―― 吉澤氏
僕らはツールを提供するベンダーサイドなので、当然投資対効果が求められます。でもおっしゃるとおり、そこって数字では決して表れない部分なので、正確な計測は難しいですね。僕が考えるに、偶発性消費というものは、ブランド体験に近い気がします。自分の趣味嗜好に関連するものばかりお勧めされるのって、決していい体験だとは思いません。多少の”遊び”は必要だと思います。その遊びをアルゴリズムで極めていくことがAIの課題でもあり、ブランド体験の源泉になっていくと思います。
―― 茂木氏
確かに。スターバックスとかその辺よくできてる気がするなあ。ハロウィンとかクリスマスとかのシーズン商品と、ずっと変わらずにある定番商品と、季節関係なく出される新商品と、うまい具合にブレンドされてセレンディピティをうまく誘発していると思う。何を買ったらいいか迷わせないっていうかさ。そのためには提案する商品のバランスって大事だよね。
―― 吉澤氏
顧客満足度を高くするためには、変に迷わせないというのはポイントかもしれませんね。毎回カテゴリー検索や条件検索をしているとストレスに感じることになりますし。迷わせるとしたら、そこにワクワクするような体験が付いてないといけないですよね。
―― 茂木氏
あと難しいのは、セレンディピティって、その消費パターンからしたらロングテールなんだよね。だから、いろんな商品があるなかで思わぬ発見をする確率って低いわけで、何がトリガーになるかもわからないから、効率性が介在できないっていうか。
―― 吉澤氏
人間って、商品自体に魅力を感じて買っているのではなくて、その商品がもつ特性に魅かれて買っている、というのがランカスター・モデルとして提唱されているんですが、セレンディピティを誘発するのもその商品特性が関わってくる気がします。商品そのものを探す体験だと、おっしゃる通り、セレンディピティが生まれる可能性はとても低い気がしていて、一方で商品の特性から探っていけば、自分好みの商品に出会う確率は上がると思います。例えば「この靴が好き!」というよりも、「この靴の素材感が好き!」というのがわかれば、その素材を使った靴以外の商品にも出会えるわけですよね。自分のなかの選択肢が広がるというか。
―― 茂木氏
なるほど、確かに。
―― 吉澤氏
でもこの理論って、先生の本にも書かれている「クオリア」にも通じるんじゃないですか?
―― 茂木氏
そうだね。人それぞれ好みってあるけど、なかにはどうしてそれが好きなのか自分自身理由がわからない時があって、そんな時にクオリアの感覚が無意識に顔を出す。何かの言葉を耳にした時、感覚的クオリアがまずその言葉のもつ音の質感を認識して、次に志向的クオリアによってその言葉が「解釈」あるいは「意味付け」される。人はその解釈によって物事をみるから、商品特性のアプローチは正しいと思う。
―― 吉澤氏
偶発性を生むにはそのクオリア同士を繋げていく必要がありますよね。あとは、ブランドによって偶発性の範囲も違ってくるでしょうから、ブランド自身がどこまでの偶発性を許容するか、という観点も企業視点だと重要だと思います。
―― 茂木氏
ストーリー性っていうのも関わってくるもんね。台湾でなぜタピオカが流行しているかって、もともと台湾にはお茶の文化が根付いていたけど、若者を中心に徐々にお茶離れが起きていて、それを取り戻すために生まれたものでしょ?そのストーリーを含めて消費と結びついているわけだよね。偶発性と物語性の関係っていうのはすごく興味深い。

…後半に続く

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本稿でお届けした対談の続きは、awoo Japan公式サイトからebookとして入手できる。マーケティング最新情報、トレンド、活用事例集などの資料となっている。もちろん、nununiの導入事例などについても細かく記載されている資料だ。

茂木氏との対談の続きでは、「偶発消費のためのAI活用」「セレンディピティの科学的な実現は可能か」といったテーマでAIだけでなくマーケティング全般まで通じる対談が実施されている。

また同社のほかのホワイトペーパーでは、台湾デジタル担当大臣 オードリー・タン氏から放送作家 山口トンボ氏に至るまで、さまざまな業種・業界の著名人との対談も公開中だ。

無料でダウンロードできるので、ぜひとも手に取っていただきたい。


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