海外メディアでも話題のAIスタートアップはいかにして“万引き防止”にたどり着いたか? VAAK CEOがいま明かす

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2019年3月27日、AWSの主催するイベント「AWS Startup Day」が開催された。

アーリーステージのスタートアップや、今後数年以内に起業を検討している人材などを対象とした、ビジネスをグロースさせるためのヒントが詰まったイベントだ。

基調講演には、本誌で何度も取り上げている、行動解析AIを開発する株式会社VAAKの代表 田中 遼氏が登壇。2018年には万引き防止AI「VAAKEYE」で容疑者逮捕へ貢献するなど、話題の渦中にいるVAAKは、何を考え、どのように事業開発を行ってきたのか。全貌が語られた。

「犯罪が起こらない豊かな社会」VAAKの目指す世界観

犯罪が起こらない豊かな社会」。VAAKの目指す世界観はシンプルだ。

それを実現するために、VAAKは2つのアプローチを取っている、1つは、映画「マイノリティ・リポート」のように、そもそも犯罪を未然に防ぐこと。もう1つは、人々の内面から、犯罪を起こすモチベーションをなくすことだ。

VAAKは、これらのアプローチを、「VAAKEYE」「VAAKPAY」という行動解析AIによって実現しようとしている。

VAAKEYE
防犯カメラの映像をAIで解析し、万引き行動などを検知して知らせるシステム


VAAKPAY
カメラの映像をAIで解析し、レジに並ぶことなく商品を購入することができる決済システム

1つ目のVAAKの万引き防止AI VAAKEYE は、

  • 万引き
  • 商店街、通学路などでの不審者による声がけ
  • テロ
  • ビル屋上からの飛び降り
  • 自動車事故
  • 駅での飛び降りや痴漢/痴漢冤罪

などの対策として、生活のなかで日常的に使われるようになることを目指している。

AIで特定の行動を検知すると聞くと、冤罪や差別を助長する危険性を思い浮かべるかもしれない。しかし、VAAKの目指すのはそうしたディストピア的な世界観ではない。

ラトガース大学のJerom Williams教授は、「Not rasically profile. Behaviorally profile.」つまり、レイシャルプロファイリング(人種警察が、人種や年齢などによって調査対象を絞って捜査を行うこと)ではなく、行動を検知することで、危険人物のみをスクリーニングできることで太鼓判を押している。

VAAKEYEが2018年に実際の容疑者逮捕に貢献した事件は、AIによる犯罪捜査への貢献という衝撃もあいまって、世界中でニュースになった。各国政府からも問い合わせが来ているという。

――田中
「2019年、10万店舗にVAAKEYEの導入を目指します。アクセルを踏むため、大型の資金調達も予定しています」

空き家に無人レジを設置し、過疎化地域にコミュニティを形成

2つ目のアプローチである、人々から犯罪を起こすモチベーションをなくすため、VAAKは地方創生に取り組んでいる。

地方の過疎化によりシャッター街が増えれば、治安も悪化する。その結果、地域の近所付き合いが減り、さらに過疎化する負のループだ。

VAAKはこの問題を無人レジシステム「VAAKPAY」を使って解決しようとしている。空き家に無人レジを置いた店舗をつくり、買い物客を軸としたコミュニティが形成されることを狙う。この取り組みには伊藤忠商事もアクセラレーターとして協力する。

関連記事:カメラと映像解析だけのAI無人レジ「VAAKPAY」体験してきた

――田中
「VAAKのゴールは、ビジネスによる社会課題の解決です。ビジネスのユニークな点は、社会課題に対するソリューションを、スピーディに、かつグローバルスケールでエコシステムに組み込めることだと思っています」

「犯罪が起こらない豊かな社会」を実現するためのVAAKのミッションは、「AIの目で課題を解決する」ことだ。

とくに映像解析で人の行動を検知することにフォーカスし、社員は現在は20名。そのうちCTO経験者が6名と、まさに技術中心の会社でもある。

事業立ち上げ軸は技術トレンド・ポテンシャル・公共性

では、そんなVAAKは、どのように事業を創っているのか? 田中氏は、社会性とスケーラビリティを軸に、以下の3点を事業づくりの際の基本的な指針にしているという。

  • 技術のマクロトレンド
  • 技術シーズ、事業ポテンシャル
  • ビジネスの立ち上がりやすさ、公共性の高さ

――田中
「技術のマクロトレンドを見たときに、AIやビッグデータ活用は大きなトレンドでしたが、ビッグデータマネジメントの会社は、すでにいくつも存在していました。

しかし、構造化データではなく、映像など非構造化データをマネジメントする会社は少なかった。そこで非構造化データのマネジメントプラットフォームを作ろうとしたのがVAAKです

映像による「行動解析」の事業ポテンシャルが相当高いと判断し、一点集中することを決めたという。冒頭で紹介したように、人の行動が分かれば、多様な業界へ横展開が可能だ。

さらに、田中氏の起業検討当時は、アカデミアによる研究開発がそれほど進んでいない領域でもあった。

――田中
「リサーチした結果、アカデミアの論文に載っている解析精度よりも、はるかに高い精度を出せることが分かりました。トレンドにも合致し、技術のポテンシャルもあり、広範な社会課題の解決につながる。これは“いける”だろうということで、VAAKを起業しました」

“万引き防止”に特化した理由

――田中
「最初は、

  • リテールテック
  • オートモーティブ
  • 街なかの監視
  • 建設現場

など、いくつかのポートフォリオを組んだうえで、行動解析に絞ってコンセプト検証を進めました。その先に、万引き防止というアイディアにたどり着いたんです」

2010年に警察庁、法務省、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、民間31団体が参加した「万引防止官民合同会議」が発表した全国の万引きによる被害額は4,615億円(1日あたり12.6億円)、対策額は1.8兆円に上る。

これまで、万引きとそれに伴う対策費用は店舗運営につきものと思われていたという。万引き対策で店舗が導入できるものといえば、万引きGメンや防犯カメラ設置による抑止力効果くらいの対策しかなく、抜本的なソリューションがない状態だった。

これらは費用対効果も把握しづらいうえ、実際に万引きが発生しても、逮捕まで至らないことも多い。VAAKでは費用対効果を担保しつつ、万引きを確実に削減できるポジションを取れると踏み、開発を進めてきたという。

また、店舗の運営者にとって憎き問題は、身内である従業員を疑うことだ。万引きがいつどこで発生しているのか把握が難しいため、身内も疑わざるを得ない。実際にVAAKEYEの店舗営業時、従業員を疑わなければならないことに悩む店舗経営者にとても喜ばれるという。

――田中
「2018年に行った実証実験の成果は、

  • 万引き被害77%削減
  • 万引き対策業務96%削減
  • 逮捕件数7件

です。

今後、店舗運営から“万引き対策”という業務をなくしていきたいと思っています」