2019年夏、バンダイが立ち上げた新たなカードゲームブランド「AI CARDDASS(AIカードダス)」の第一弾タイトル「ゼノンザード」のサービスを開始します。
キャッチコピーは「AIがキミを一流にする」。文字通り、AIをさまざまな機能に盛り込んでいるカードゲームです。
2月19日には、夏のサービス開始に先駆けた発表会が開催されました。
本稿では、発表会で語られたゼノンザードの全貌を前半で紹介し、後半ではバンダイのプロデューサー小谷氏、AI開発を担当したHEROZのプロジェクトマネージャー大井氏、エンジニアの清田氏へのインタビューをお届けします。
発表会で明かされたゼノンザードのAI機能
発表会冒頭には、バンダイの代表取締役社長 川口 勝氏が登場。ゼノンザード発表への意気込みを語りました。
「バンダイはあらゆるカードゲームを作ってきました。今年、バンダイのカード事業31年目の挑戦として、AIの力で誰でも気軽にプレイできるカードゲームを発表します。これにより、カードゲームの競技人口も大きく増えるだろうと考えています」
プレイヤーのサポート役としてAIを使うことで、カードゲームをプレイする障壁を下げ、競技人口を増やすことを念頭に置いているよう。この部分については後半のインタビューでも解説します。
「HEROZでは、将棋に特化したAIの開発者などが在籍しています。将棋とちがい、カードゲームは相手の情報が見えない状態でバトルするので、HEROZにとっても新たなチャレンジでした。
今回作ったカードゲーム特化型AIは、プレイヤーのサポートや対戦を解析する機能など、AIをフル活用した機能が盛りだくさんです。ぜひ遊んでみてください」
発表会で語られた、ゲーム内でAIが使用されているポイントは以下の通り。
AIによるプレイヤーサポート、AIの育成
プレイヤー1人1人が、キャラクター化されたAIをバディとして選択。バトル中のサポートだけでなく、対戦後のバトル分析やデッキ構築のアドバイスなども行います。
AIはユーザーのプレイ内容や思考、癖によってさまざまな成長を遂げ、同じ見た目でも、中身はプレイ内容や頻度によって異なるとか。
AIとの対戦
サポートだけではなく、“倒すべき存在”としてのAIキャラクターも用意されており、アプリの中で誰でも「人間 vs AI」を楽しめます。
AIは、HEROZが提供する「HEROZ Kishin」を活用し、HEROZとバンダイが共同開発した「カードゲーム特化型AI」。ゲーム内のさまざまなシーンでAIを活用しているといいます。
「AIがキミを一流にする」のキャッチコピーの通り、AIがプレイヤーをサポートする機能もあるようです。一体どのようなゲームなのか? そもそも、なぜバンダイとHEROZが組むに至ったのか? 使われている技術も含め、バンダイとHEROZの3名に話を聞きました。
株式会社バンダイ カード事業部 カードダスチーム チーフ
大井 恵介
HEROZ株式会社 プロデューサー
清田 英寿
HEROZ株式会社 AIエンジニア
カードゲームは初見殺し。経験者が圧倒的有利な状況
そもそも、なぜカードゲームへAIを導入しようと思い立ったのか?バンダイ カード事業部の小谷氏は、「依然として残る初心者の参入障壁の高さを解消すること」が狙いだと語ります。
「カードゲームは、初心者が始めようと思っても、発売された当初から遊んでいるような経験者にまったく歯が立たない状況が昔から続いています。せっかく始めたのに、ゲームにハマるための「勝ち」を味わうことができない状況がありました。
ゲーム環境の流行に追いつくためには、追加でカードを買い足していく必要があります。これは経験者においても同じですが、ゲームに対してそれほど愛着がない初心者にとっては金銭面での負担が大きすぎるんですね」
しかし、買い足しをしないとゲーム環境の流行に追いつくことができず、負け続けるという負のサイクルに……。
加えて、カードゲーム独自のルールの難しさも初心者の参入障壁に拍車をかけます。カードゲームには膨大な種類のカードが存在し、それぞれ特殊な効果を持ちます。「初心者がパターンをすべて覚えるのは難しすぎる状況があった」と小谷氏は語ります。
AIによるアドバイスで上級者との対戦も可能に
――ゼノンザードはこれまでのトレーディングカードゲームとはどのような違いがあるのでしょうか?
「ゼノンザードでは、バディとなるAIが、ディープラーニングで膨大なプレイデータを学習して成長するほか、プレイヤーとの対戦を通じてプレイング内容や思考、癖などを学習します。初心者はAIからアドバイスをもらいながら対戦することが可能です」
バディーAIが、敵と対戦するごとに一緒に成長しアドバイスすることで、初心者でも上級プレーヤーとも戦えるようになる。アドバイスしてくれる友達のような感覚だといいます。
「ゼノンザードは「AIとの共闘」という点で従来のカードゲームとは違いますが、あえて従来のカードゲームに近づけている要素もあるんです。
たとえば相手のターンに介入するような複雑な動きを、デジタルカードゲームに取り入れるとテンポ感が悪くなりユーザーは嫌がる。そのため、ほとんどのタイトルではその要素が抜かれているのですが、ゼノンザードではトレーディングカードゲームに親しんでいた方にも楽しんでもらえるよう、あえてそのような要素を盛り込んでいます」
通常、物理的なカードゲームで不可能なルールは、デジタルカードゲームでは排除されるとか。デジタルカードゲームでそれらのルールを盛り込めば、敵キャラがズルをして攻撃していると思われかねませんが、あえてそれらの要素を盛り込んでいる。バランスにうまくAIを使っていると言えそうです。
「不完全情報」のカードゲームでAIを使うチャレンジ
――ゼノンザードにはHEROZの「HEROZ Kishin」が使われていると聞きました。カードゲーム特化のAIを開発する上で、苦労された点はありますか?
「たとえば将棋やチェスであれば、盤面だけで相手のポジションや持っているコマがわかるため、次の出方にも限りがあります。
一方、カードゲームは情報が開示されない不完全情報ゲームです。カードの種類が多いことや、相手が持っているカード、山札にあるカードが把握できないため、膨大な数の出方があります」
場面によって異なる効果を持つカードなどもあり、1枚あたりでも膨大な数の組み合わせがあるとか。そのため、現段階の計算量ではその中でも数千程度しか読めないといいます。
――そうなると、計算量も膨大になりそうです。そこはどうコントロールされているのでしょうか?
「我々エンジニアががんばっています(笑)
AIと比べると、人間は直観で10手先くらいまでしか考えられないのですが、その代わり直観が驚くほど当たります。
AIは経験則に基づく直観には弱いため、計算量が限られている中でどこまで対応できるようにするのかがひとつの壁ですね」
人間の直観は、カードゲームでも有用な手段。相手プレイヤーの手札や情報を把握できない状況では駆け引きが必要とされ、AIの苦手な領域です。
同時に、初心者が上級者に挑戦できるようになるには、初心者にアドバイスできる存在が必要。たとえ困難でも、カードゲームのような不完全情報ゲームのAI開発にチャレンジすることができて良かった、と清田氏、大井氏は語っていました。
AIでこれまでにない玩具を創る
――今後はどのようなAIの活用を考えていますか?
「今後は音楽的なアプローチを玩具にも応用したいと考えています。絵画や音楽のような芸術をAIに学習させると、人間が想像できないようなアウトプットを生み出します。それを子供の玩具にも落とし込めたら面白いのでは? と日々模索しています。
今後どのような技術をどの玩具に落とし込んでいくのか、現在両社でディスカッション中です」
「ビジネス的な観点では、AIはコストカットや工数削減といった活用のされ方が多いですが、クリエイティブな方向にもAIを活用していけたら、と思っています」
ビジネスプロセスの効率化や、コストカットを目的に導入されることの多いAI。しかし、効率化だけでなくだけでなく、玩具などのクリエイティブな方向にAIを活用することで、既存の延長線ではない、新たな価値を生み出すことも可能です。
トレーディングカードゲームは、1990年代後半「遊戯王」「ポケモンカードゲーム」が牽引して爆発的なブームになりましたが、2012年頃からのスマートフォンゲームの普及や、参入障壁の高さから、プレイヤーは減少傾向にありました。
AIとカードゲームを組み合わせた取り組みが、カードゲーム業界をどう変えるのか? ゼノンザードが、カードゲーム業界復活の起爆剤になり、カードゲームブームが再来するのが今から楽しみです。