「根本からサービスを改善することがDXの推進」日本のUXをけん引するビービット代表・遠藤氏

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UXは常に正解が見えない。試行錯誤の量も多く、ゴールと呼べるゴールはない。だからこそ、挑戦心を持って取り組める人と働きたい――。こう話すのは、株式会社ビービットの代表取締役・遠藤直紀氏だ。

2000年に創業し、創立20周年を迎えたビービット。主とするのはUXインテリジェンス事業で、UXデザインコンサルティングやUXチームクラウドUSERGRAM(ユーザグラム)の提供を手掛ける。ビービットによってUXが改善された企業は数多く、「花王」「ディー・エヌ・エー」「日本経済新聞社」などが名を連ねる。

ビービットが変えるUXの世界。これを実現するためにどういう人材を集め、どのような指針を持って取り組んでいるのか。遠藤氏に話を聞いた。

UX(顧客体験)を改善すれば売り上げを一桁増やすこともできる

UX(顧客体験)という言葉を頻繁に耳にするようになったのはここ数年の話だ。だが、ビービットでは先に書いたとおり、UXに関する事業を20年も手掛けている。

――遠藤氏
「日本国内において、UXに事業として取り組んでいるのは、我々ビービットが最長級だと思っています。創業から20年間で培ってきたUXの経験がビービットの特徴です」

いまではUXを改善させようとする企業は数多いが、創業当初は日本では馴染みのない文化だったという。

――遠藤氏
「もともと、ビービットはウェブサイトなどのUX改善からスタートしました。すでに当時からアメリカでは顧客体験の改善への意識が根付いていましたが、日本では『UX?なにそれ?』という状況でした。どういうことかと言うと、現状のシステムが最善だから使うのではなく、これしかないから仕方ない、といったことがありふれていたのです。

たとえば、各企業で使っている経費精算システム。これって使いづらいと思った経験はありませんか? にもかかわらず、無理やり使わせられる……。こういった状況が長らく続いていたわけです」

遠藤氏は続けて「サービスはユーザー中心に考える必要がある」と話す。

――遠藤氏
「人に使ってもらうサービスは、常にユーザーを中心に考えなければいけません。ユーザーが思い通りに使えなければ意味がないはずです。

そこで、ビービットはユーザーや利用状況を特定し、最適化していく事業を手掛けています。UXを改善することで、結果的に売り上げを伸ばすことにもつながります。ビービットがご支援した取り組みでも、あるメガバンクでUX改善をした際、売り上げが一桁増えたケースもあります」

ビービットによるUX改善を手掛けた企業は数多く、上記事例はほんの一部だ

「本来UXは自社内で改善するべき」という考えから生まれたサービス

しかし、遠藤氏は現状のUX改善について問題点があるという。

――遠藤氏
「UXというものは本来、自社内で解決していくべき課題だと思っています。少なくとも、全部をアウトソースするべきではありません。クライアント企業には、もっと自社のユーザーを理解してほしいんです。

ユーザーに最も近しい位置にいるのは、そのサービスを提供する企業自身ですよね。大きな企業だと、顧客体験を良くするための仕事を広告代理店にお願いすることもあります。ですが、顧客とつながり続けることがUXの本質である以上、企業自身がUXについて取り組むべきだと思っています」

この発想から生まれたのがビービットの「UXチームクラウドUSERGRAM(ユーザグラム)」というサービスだ。

――遠藤氏
「顧客体験を改善するには、顧客の声を聞くという作業が重要です。しかし、直接ヒアリングをするのは工数などの面も含めて現実的ではありません。その点、デジタル領域であればユーザーの行動を追うことが可能です。ビービットでは以前からユーザーのデータを集め、UX改善に取り組んできました。ビービットでの取り組みをクライアント企業もできるようにしたい、という考えから生まれたのがユーザグラムです」

ユーザグラムの導入実績は300社以上。業種・業界問わず利用されている。

ユーザグラムを導入した企業の一例

――遠藤氏
「ユーザグラムでは、顧客の行動の順序や、流れを直感的に把握できるようにしています。PCやスマートフォンなど、デバイスをまたいだ行動も計測できます。

くわえて、AIによるサジェスト機能も搭載しているため、『どのページを閲覧した顧客の行動をみるべきなのか』をAIがレコメンドしてくれます。このレコメンドは、どのページがコンバージョンに貢献しているのかをもとに判断されており、成果向上につながる改善を助けてくれます」

ファッションとしてDXを進める時代はもう終わり

遠藤氏は、ユーザグラムがUX改善においてベストツールだ、という立ち位置を狙っている。

――遠藤氏
「ここ最近、DX(デジタルトランスフォーメーション)や、デジタル化が謳われていますが、RPA(ロボティックプロセスオートメーション)などで表面的な部分だけをデジタル化している企業が多いのも事実です。手段をデジタルにおきかえたところで、本質が変わっていなければ何も意味はないのです。

DXを推進するうえで、サービスや事業のなかの一部をデジタル化するのは良いことですが、同時に“提供価値”も変わることを考えないといけないと思っています。さらに、提供するサービスの価値が変わるのに合わせて、会社全体も変えていくべきです。それがDXの本来の姿だと思います」

ビービットは「UXを中核としたDX」の推進を掲げている。

――遠藤氏
「もちろん、UXを中心として変革しようとしている企業もあります。弊社がご支援している事例でいえば、サントリーやKDDI、パン・パシフィック(ドンキホーテ)などの日本を代表する企業がUX改善を中核に、DX推進に取り組んでいます。これらの企業が牽引することで、UXを中心としたDXが主流になっていってほしいと思っています」

続けて遠藤氏は「“ファッション”としてDXを進めるのはもう終わり」だという。

――遠藤氏
「多くの企業では、何をどう改善し、最適化させるべきなのか迷っている状況です。帳票読み取りなどをデジタル化させる企業もありますが、本当にその業務が必要なのかを、一度考えるところから始めるべきです。

自動車保険などでは、通常は書類に必要事項をたくさん書き込む必要がありますが、例えば車種と自動車の写真、簡単な概要だけでスマホから申請できるようにしたほうがユーザーにとっては手軽ですよね?顧客から提出された書類を機械が読み取る技術だけに注目するのではなく、根本からサービスを改善することがDXの推進であり、顧客体験の改善だと思います。流行りのスタイルだからという”ファッション”としてDXを進める時代はもう終わりにしなくてはいけないと思います」

ビービットが必要とする人材は「UXに詳しい人」ではない

ユーザグラムなどのサービスも相まって、さまざまな企業のUX改善を手掛けるビービット。そんな同社では、どういった人たちが働き、どのようにサービスが形成されているのだろうか。

――遠藤氏
「UXを中核としたDXの推進と言いつつも、まだ市場としては大きくないのも事実です。やろうとしている企業はあるけれど、実際に取り組んでいる企業は多くはありません。

また、日本の大手企業のデジタルサービスやシステムが国内に浸透しているとも言えない状況です。だからこそ、日本の企業にあったデジタルサービスやシステムをもっと提供していくべきだと考えています。そのためには、プロダクトマーケティングマネージャーのような、市場そのものを作っていく人が必要です」

ビービットでは、既存の領域を開拓するのではなく、新しい業務を発生させ、プロダクトを作り、マーケットを開拓できるような人を現在は求めているそうだ。

――遠藤氏
「ビービットで現在募集しているプロダクトマネージャーの場合、とにかく早く動き、早く動かせる人と働きたいと思っています。提供するプロダクトやサービスは、一回で成功することは“ほぼ”ありません。なので、試して学んで改善して、を繰り返せる人がマッチしていると考えています。

また、UX領域は“新しい視点”が必要になります。そのため、視点を変える意識があり、たくさん想像することが得意な人がフィットできるのかなと思います」

ビービットでは既存の仕事経験云々ではなく、チャレンジできるような好奇心を持つ人が大事だという。

――遠藤氏
「我々の事業はUXを扱っているので、ビービットには総じて『ユーザーは良い体験を提供してほしい』と考えている人が集まっています。

採用では、ユーザーにどれだけ寄り添える人なのかを重視しています。そもそも、UXという領域に精通している人はあまりいないので、経験よりも、いかにサービスを進化させることに共感してもらえるかどうかが大切だと思っています。

UXは常に正解が見えない。試行錯誤の量も多く、ゴールと呼べるゴールはありません。だからこそ、挑戦心を持って取り組める人と働きたいですね」

遠藤氏は「大企業のDX推進ブームもあり、大企業の体質を理解している人も活躍しやすい」という。

――遠藤氏
「大企業の“論理”のようなものを持ち合わせている人も今後のUX領域では必要になるかもしれないと考えています。

大企業は縦割りになっていることが多く、現場でDXを推進しても会社全体をより良くすることが簡単ではありません。そのため、会社全体を動かせるような視点を持っている人も、ウェルカムです」

グローバル展開を見据え、創業以来初となる外部から25億円を調達

最後に、ビービットではどのような未来像を描いているのだろうか。

――遠藤氏
「アフターデジタルの世界観で、まさにど真ん中にあるのがDXやUXという考え方です。これらに対し、ビービットはコンサルティングとユーザグラムで支援しています。

まずは日本国内の企業のご支援を行っていきますが、グローバル展開も目指しています。すでに中国ではコンサルティング事業を展開しています。

世界のソフトウェアマーケットはアメリカ企業が50%を占めると言われていますが、ゆくゆくはビービットも参入していきたいと思っています。残念ながら現在、日本発のソフトウェアが世界で通用している例はあまりありません。それに、ビービットはチャレンジしていきます」

ビービットは今年7月に創業以来初となる25億円の外部からの資金調達を発表した。

――遠藤氏
「今回の資金調達は、株式会社経営共創基盤様をはじめ、いくつかの金融機関などから受けています。

調達した資金は、ユーザグラムのプロダクト強化に投資していきます。これは、先に話したように、グローバル展開を見据えています。あわせて、プロダクトマネージャーや、プロダクトマーケティングマネージャーといった、多くの企業にUXを浸透させる取り組みができる人を探しています。

ビービットは日本発のテクノロジーとして、さまざまな企業のDXやUXの在り方の変革を目指しています。そのために、挑戦心を持って取り組める人といっしょに働きたいと思っています」


Interviewee
遠藤直紀
株式会社ビービット代表取締役
1974年鳥取県生まれ。横浜国立大学経営学部卒。米国留学後、97年にソフトウエア開発会社に就職。98年にアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に転職、通信会社のインターネット活用戦略策定プロジェクトなどに参画。2000年3月、ビービットを設立し代表取締役に就任。設立当時から日本ではまだ馴染みの薄い“ユーザビリティ、ユーザエクスペリエンスの重要性”に着目、コンサルティングを開始。人間の心理を解明することで多くのデジタルサービスの改善を行ってきた。2017年からはコンサルティングに留まらず、ユーザエクスペリエンスを高めるSaaS、USERGRAMの提供を開始している。
https://www.bebit.co.jp/

ビービット・藤井 保文氏が登壇
Ledge.ai EXPO 基調講演が9月14日(月)20時スタート

本メディア「Ledge.ai」を運営し、AIソリューションの企画・開発を行う株式会社レッジは、AI導入を検討している企業のビジネスパーソン、AIソリューション企業をつなぐAI・人工知能オンライン見本市「Ledge.ai EXPO」を開催中だ。開催期間は10月16日(金)まで。

Ledge.ai EXPOは、AI・人工知能に関連するプロダクトやサービスの情報を発信する、展示会形式のオンラインイベント。AIが「分かる」、AIで「変わる」きっかけを作り出し、AIを導入したい企業のビジネスが進展するような体験を提供していく。

本イベントではウェビナー(オンラインセミナー)を多数開催するのだが、イベントを開始する9月14日(月)20時からは、ビービット・藤井保文氏が登壇する基調講演を実施。視聴にはLedge.ai EXPOへの参加申し込みが必要なので、視聴を希望する人は忘れずに登録しておいてほしい。