アメリカでは人種間の貧富の差が10倍におよぶという(Unsplashより)
アメリカのカリフォルニア州オークランド市は3月24日、有色人種の低所得世帯を対象に毎月500ドル(約5万4000円)を支給する「ベーシックインカム(最低所得保障)」の実験を開始すると発表した。ベーシックインカムは2021年夏までに開始し、支給は1年半継続する予定という。英The Guardianや米Yahoo!ファイナンスなどが報じている。
近年、世界各国でベーシックインカムに熱いまなざしが向けられている。人工知能(AI)の進歩はもちろん、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大にともなう不景気や失業率の悪化、少子高齢化や格差拡大などの社会的背景による影響も大きい。
今回、オークランドが発表したベーシックインカムの実験は「オークランド・レジリエント・ファミリーズ・プログラム(The Oakland Resilient Families program)」と名付けられる。財源は全米の慈善団体「ブルー・メリディアン・パートナーズ(Blue Meridian Partners)」など、民間の寄付者から集めた675万ドル(約7億4000万円)でまかなう。
英The Guardianの報道によると、同プログラムに参加するには所得が地域の中央値の50%以下(3人家族で年間約5万9000ドル/約647万円)で、18歳未満の子どもが1人以上いることが条件という。半分は連邦政府の貧困レベルの138%(3人家族で年間約3万ドル/約329万円)以下の所得の人に割り当てるとのこと。なお、支給した金額の使い道は一切規定しないとしている。
アメリカの人種間の貧富の差は10倍にもおよぶ
なぜ同プログラムの支給対象は所得だけではなく、人種も規定しているのか疑問に思った人もいるかもしれない。同プログラムは人種による貧富の差を減らすことを目的にしたものだからだ。
オークランドのリビー・シャーフ市長は、米Yahoo!ファイナンスの取材に対し、「この国では人種間の貧富の差が10倍であることがよく知られています。オークランドでは、白人家庭と黒人家庭の所得の中央値は3倍の差を記録しています」と現状を明かす。米Yahoo!ファイナンスの報道によると、同プログラムは人種をベーシックインカム支給の資格にした初の試みという。
サンフランシスコはアーティストを対象に月10万円以上を支給
オークランドと言えば、「ジェントリフィケーション(地域の高級化、都市の富裕化)」の影響も見逃せない。たとえば、同じカリフォルニア州のサンフランシスコ市では家賃上昇の影響で、芸術コミュニティを7割失ったとされる。
サンフランシスコのロンドン・ブリード市長も2020年10月には、このような状況を受け、2021年初頭から最低でも半年間、130人のアーティスト(芸術家)を対象に、月1000ドル(約10万5000円)のベーシックインカム(最低所得保障)のパイロットプログラムを導入すると発表している。
同じカリフォルニア州でも、ベーシックインカムの実験をする際にオークランドは人種、サンフランシスコはアーティストにそれぞれ着目したのは興味深い。
「働かない人が増える」「タバコや酒に使われる」は誤り
AFPBB Newsの報道によると、オークランドのリビー・シャーフ市長は「ベーシックインカムを導入したら、働かない人が増えるだけだ!」「支給額はタバコや酒に使われるだけだ!」といった批判に対しては、同じカリフォルニア州のストックトン市で2019年2月から実施された、毎月500ドル(約5万4000円)のベーシックインカム実験の結果を挙げ、反論しているという。
というのも、ストックトンのベーシックインカム実験では、2019年2月と2020年2月を比較し、支給を受けていないグループはフルタイム雇用が5%しか変化しなかったものの、支給を受けたグループは12%も増加したことがわかっているからだ。また、受給者たちによる毎月の支出は「食品」が最多で、タバコや酒類に使われる割合は1%未満だったことも明らかになっている。
現在アメリカではベーシックインカムの実現を目指し、2020年11月3日のアメリカ合衆国大統領選挙の民主党候補者の指名争いで注目を集めた実業家のアンドリュー・ヤン(アンドリュー・ヤング)氏が、2021年のニューヨーク市長選に出馬するなど、ベーシックインカム実現に向けた動きは活性化していると言える。今後の取り組みにも注目したい。