みなさん、バードストライクという言葉はご存知ですか?鳥が飛行機の窓に衝突したりジェット部分に巻き込まれて飛行機事故を引き起こしてしまうことをさします。
実際にバードストライクが原因で事故になる確率は1/25000程度と非常に稀ではありますが、1990年から2015年までに米国内ではおよそ16万羽の鳥がバードストライクに巻き込まれており、毎年10億ドル(およそ1100億円)の被害が出ているのが現状です。
そこに目をつけたカリフォルニア工科大学(CalTech)のエンジニアチームは、AIを搭載したドローンが空路中の鳥の群れを検出し、自動でその群れを空路からそらす研究の論文を発表しました。
ドローンで鳥の群れを空路からそらす
Photo by Pixabay
バードストライクを避けるために現在おこなわれている対策としては、鳥たちの天敵である訓練した鷹を放つという方法。しかし、コストなどさまざまな観点から効果に限界があります。
そこで、論文の著者の1人であるChung氏は、ドローンを用いて解決できないかと考えました。空路上にいる、またはそこに向かう鳥の群れに対し、群れの位置を把握したAIドローンが威嚇することで、群れのまま誘導して空路からそらすというもの。
ドローンが鳥の群れを全体として捉え、鳥の威嚇となるドローンが群れの端に位置し、威嚇として作用することで、群れが徐々に方向転換していくというプロセスになっています。
そのため、ドローンが群れにだけに作用するポジショニングをとることがとても重要となります。もし個々の鳥に作用してしまった場合、群れがパニックを起こし逆に危険な結果になってしまう可能性があります。
そこで独自のm-waypointアルゴリズムを開発し、ドローンが自動で群れの動きを把握し、常に最適なポジショニングをするようになっています。
このアルゴリズムは実際の羊飼いと羊の群れの行動分布をモデルとして、3次元的にではなく2次元的なアプローチがなされているとのことです。
幅広い知識の導入とアルゴリズムの融合
ここまでのアプローチは単純な機械学習ではなく、実際の分類学や動物の行動を参考にし、それをもとに作ったアルゴリズムのもとで成り立っています。
羊飼いと羊の群れの行動を参考にしただけでなく、アルゴリズムを確立後、そのアルゴリズムがどう本物の鳥の群れに作用するかを実際に韓国でドローンを飛ばして実験したそう。その結果をさらに適用し、より理想的なアルゴリズムを作り上げたようです。
カリフォルニア工科大学航空工学教授のChung氏は、自身の航空工学とドローンの知識が今回の研究に功を奏したと述べています。
実際にドローンが適切なポジションで鳥の群れに近づき、水平に分散させていることがわかります。
その後アップデートしたアルゴリズムで実際にドローンが群れに対して威嚇している様子のシミュレーションが下記。
Credit: Soon-Jo Chung/Caltech
ドローンがきれいに群れを”群れのまま”方向転換させていることがわかります。しかし、今後は鳥の大きさによる分類や、群れの中の鳥の数による違いなどの課題が見えてきたようです。
見落としがちな問題点に着目し、さまざま技術を統合して適用するということ
バードストライクの問題は、実際に一般の人たちが目にすることは少ないかもしれません。Chung氏は、別名ハドソン川の奇跡とも呼ばれる、2009年に起こったUSエアウェイズ1549便不時着水事故をきっかけにこのプロジェクトを考案したようです。
Chung氏は「1549便の乗客が助かったのは機長がとても優れていただけだ。私は次に起こったときに必ずもハッピーエンドになるかどうかわからないと思ってしまった。」と語り、空路を鳥の群れから守る、という課題を自身のロボティクスの領域で応用したようです。
このように、日常に隠れていて見落としがちな問題を常に何か応用できないか考えることが、今後の開発環境に必要になってくるかもしれません
これを成すには、単純なエンジニアリングの知識だけでなく、そのほかのさまざまな分野の知識や人材との相互的な統合を行うことが必要不可欠。
AI開発が単純な機械学習だけでなく、さまざまな分野と交わることが、これからのAIの応用にとって重要になってくるのではないかと思います。
Source:Robotic Herding of a Flock of Birds Using an Unmanned Aerial Vehicle