【サイバーエージェント×楽天×メルカリ3社対談】~ 企業研究発表カンファレンスCCSE発足の舞台裏 ~(後編)

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前編では、企業研究所の研究発表に特化したカンファレンス『CCSE』発足の経緯と、サイバーエージェント、楽天、メルカリを含む協賛企業が賛同した理由とその思いをお話しました。

後編では、企業研究の情報をオープンにすることでどんなリスクがあり、どのような価値があるのか、CCSEはなにを成し遂げようとしているのか、引き続きサイバーエージェント 岩本氏、楽天 益子氏、メルカリ 木村氏に対談形式で語ってもらいます。

CCSE2018概要

CCSE2018は企業の研究所が中心となって研究発表を行うイベントです。
企業研究所では自社サービスの発展やイノベーションを起こすことを目的とした研究が行われています。CCSE2018はそのような企業研究を議論・発展させ、企業の研究を広く認知してもらうことを目的に開催に至りました。マシンラーニングやコンピュータビジョンなどのAI技術や、ロボット、IoT技術など、幅広い領域の研究について一日で触れることが可能です。そしてCCSE2018は発表を「聞く場」ではなく、「議論する場」として存在します。研究発表の後に質疑応答の時間を設けていますので、積極的に議論に参加してください。

出典:CCSE2018公式サイト

岩本 拓也(真ん中)
株式会社サイバーエージェント ロボットサービス事業部 主任研究員


益子 宗(左)
楽天株式会社 楽天技術研究所 未来店舗デザイン研究室 シニアマネージャー


木村 俊也(右)
株式会社メルカリ Team AI Engineer Manager

※ 詳細なプロフィールは前編に記載してあります。

情報公開することでリスクはあるが、そこで創出される価値のほうが圧倒的にデカい

――今回のカンファレンスは、企業の研究内容をオープンにしていく役割があると思うのですが、それはリスクも伴いますよね?

――岩本
「もちろん、企業の研究機関が情報公開することでリスクはでてきます。プロダクトに関連する研究内容を公開すれば真似されないともかぎりません。ただ、そういったことも積極的に発表するのが、企業の研究を知るという意味では重要だと思っています。」

――益子
「リスクはある一方で、たとえば同じ研究でほかの企業のほうが進んでいれば、真似すればいいと思いますね。情報交換しながら研究分野そのものを盛り上げていくべきだと思っています。」
――木村
「我々もCCSEで研究内容を発表することのリスクは社内で議論しましたが、そのうえで参加を決めています。というのも、自分たちができていないこと、突破できないことがまだまだたくさんあって。

自社のエンジニアブログもそうですが、情報をオープンにすることで意見や提案が出て、研究がよりスピーディーに発展する方を選びました。」

企業からみれば情報を公開することのリスクはたしかにありますが、そこの垣根を越えた情報共有こそが、今後企業研究の技術力向上にもつながりと考えているとのこと。

情報を公開しないより、公開する価値のほうが高い”という意識のもとで発表される研究内容は非常に楽しみです。

CCSEは議論する場を提供し、誰でも議論できる場にする

――CCSEはどのような価値の創出を目指しているのでしょうか?

――岩本
「研究そのものを盛り上げるために、議論が活発に行われる場は作っていきたいです。議論の定義はさまざまですが、CCSEは議論ができる場でありたいですし、そんな場を提供したいですね。」

その議論から一緒に研究を始めたり、ビジネスに活かして成功する、というのが理想だといいます。

――益子
「これまで企業の研究機関に所属する研究者が集まる機会は少なかったので、非常に楽しみですね。あと、その組織にいなければ見えづらいビジネス課題や社会課題を知ることで、こういうアプローチや技術が有用なんじゃないか、という議論が誘発されるなど、科学反応が起こる“気付き”の場にもなるといいかなと。」
――木村
「研究への先行投資の成果は、物によっては10年単位で出るようなものもあると思います。多くの場合、様々な基礎研究を組み合わせることで大きなイノベーションが生まれるため、ひとつの成果を出すのに自分たちだけではなく、それぞれの研究機関の強みを活かしてコラボレイティブに研究を進めていく方がより大きなインパクトを起こせるのではないでしょうか。そういう意味でも企業の研究内容を知れるCCSEは非常に良いと思います。」

――岩本
「発表者からの一方通行のカンファレンスではなく、発表者と聴講者が議論する場にしたいですね。デザイナーや経営者も交えて質問や意見を交わせる場にすることでより価値のある場にしていきたいと思っていす。また学会では発表されにくい、企業研究所ならではの研究発表もあるのでとても楽しみです。」
――益子
「今回は発表の質疑応答と懇親会が準備されています。質疑では、研究者の発表に対してデザイナーや経営者の方、学生の方など様々な人たちが質問や意見をしやすい雰囲気や環境を準備する予定です。

また懇親会では発表した企業の研究者が一目でわかるネームタグをつけ、発表内容についての詳しい内容や企業での研究の取り組みについて聞けるタイミングを意図的に設ける予定です。」

CCSEは単に企業の研究内容を一方的に発信していくのではなく、さまざまな職種や意見を持った人たちが新しい価値を導きだす場。コラボすることでより一層議論の質もあがると思うので、発表はもちろん、そこで何が生まれるかは注目したいですね。

企業の研究所のあり方、研究者の存在意義を議論したい

――具体的にどんなことを議論したい、伝えていきたいという点はありますか?

――益子
「“研究っておもしろいよね”というのを広めていきたいですね。“研究“というと、カンファレンスに論文を通すために1人で頑張っていて少しつらい、というイメージを持っている方も少なくないと思っていて。でも、企業における研究はもっと多様で、研究は新しい技術、考え方を使って世の中にインパクトを与えたり、サービスを改善できる”わくわく”するものである、というのを伝えたいです。」
――木村
「あとは、今回のCCSEには、技術や研究に理解がある経営陣のいる企業が参加していると思います。企業に研究機関を作るためには経営陣の理解が不可欠です。経営者の方とも、これからの研究所のあり方を議論できたら面白いと思います」
――益子
「そうですね、企業のなかの研究所の在り方や、社会的意義は考えなくてはいけないと思います。企業のなかで永続的に活動していくために、どのように研究の価値を社内で理解してもらっているのか、というのは知りたいですし、議論したいです。」

たしかに、マイクロソフトリサーチやディズニーリサーチといった、海外の研究所も閉鎖してきている時代に、いつ自分たちの順番が来るかはわかりません。研究所とそこに所属する研究者の在り方はCCSEで議論されるべきですね。

――岩本
「CCSEの登壇者はIT系の会社が多いので、研究者の働き方、今後のキャリアパスについても議論したいですね。

今はアカデミックから民間企業にうつる方も多いですし、色々なキャリアの可能性があると思います。やっぱり、研究者同士でもそういう話題にはなる。たくさんの方の考えを聞いてみたいです」

最近でいえば、筑波大学准教授の落合陽一さんや、株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長そして東京大学の教授を務める暦本 純一さんなど、研究者といってもさまざまな働き方があります。研究者の働き方の議論も、今後のCCSEで活発におこなわれそうです。

CCSE運営委員からのメッセージ

――最後になりますが、CCSEに参加される方々、研究者へ一番伝えたいメッセージはありますか?

――岩本
「そうですね、 “あなたの研究している技術は、どこかしらで求められている技術かもしれないよ” ということを伝えたいです。

情報がオープンになっていないがために、研究を辞めてしまう方も少なくありません。ただ、企業の研究を知る、少し研究の焦点を変えてみる、といったことでどこにでも研究者の居場所はあります。」

ここまでお話を聞かせていただき、CCSEは単なる研究者の発表会ではない、というのがよくわかります。

  • 企業研究の情報公開、共有
  • 日本の研究力そのものの向上
  • 最先端技術への理解、新しい価値の創出

という、CCSEが成し遂げようとする大きな目的への想いが、対談いただいた3人の方々全員から伝わってきました。

研究者に限らず、CCSEはさまざま分野、職種の方々が議論できる場です。興味のある方はぜひ参加されてみてはいかがでしょうか?