清水亮さん「ギリアの考える最強のAIの作り方」を語る

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『教育としてのプログラミング講座』(中央公論新社)や『よくわかる人工知能』(KADOKAWA)などの著書などでも知られる清水亮さん



一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)は2020年12月17日、CDLE勉強会 第7回目を開催した。

CDLE(Community of Deep Learning Evangelists)は、日本ディープラーニング協会が実施するG検定およびE資格の合格者が参加するコミュニティ。CDLE勉強会は、CDLEメンバーの知見を広げるために、ディープラーニング(深層学習)の有識者が講演するというものだ。

今回は、ギリア株式会社代表取締役社長 兼 CEOで、JDLA正会員でもある清水亮さんによる「ギリアの考える最強のAIの作り方。寄り添い、イノベーション、インプリメンテーション」と題した講演が実施された。この記事では、AI企業ギリアが考える「最強のAIの作り方」といったトピックを中心に、同講演の様子を紹介したい。

「くだらないことをやると、思わぬ発見がある」

まずは、清水亮さんによるAIやディープラーニングに関する考えや取り組み方について、簡単に触れておきたい。清水亮さんは講演のなかで、視聴者たちに伝えたいことの1つとして、「くだらないことをやると、思わぬ発見がある」といった言葉を紹介した。実際、清水亮さん自身も「くだらないこと」に積極的に取り組んでいるという。

実際、講演のなかでは、過去に敵対的生成ネットワーク(GAN)ベースの画像変換手法「CycleGAN」において、顔写真から食べ物の写真を生成するだけではなく、逆に食べ物から顔写真を生成できたことに驚いたことや、半分だけの画像でも全体像を自動生成できる「Image GPT」において、自身の画像を使用してみたことなどを振り返っていた。

清水亮さんは「論文だけ見ても、どこまで本当なのかわかりません。論文だけ見てもダメで、必ず新しく面白いものがあったら、絶対自分でやることにしています。そうしないと意味がありません」と語る。実際、「くだらないこと」のなかには、現在のギリアの取り組みに結びついた例もあるようだ。

「性能を上げようとして、開発費が高騰するのは本末転倒」

また、講演では「ギリアの考える最強のAIの作り方。寄り添い、イノベーション、インプリメンテーション」といった本題のとおり、清水亮さんが考えるギリアの理念や戦略についても話が及んだ。

清水亮さんはこのような企業の根幹に関わる話はあまりほかでは語っていないことを明らかにし、「せっかくの機会なので」と前置きしてから、「まず、僕が考えているのは(AI開発においては)『精度、精度』と言いますが、精度が高いだけでは付加価値が高いとは言えないということです」と切り出した。

「野球で例えると、バットをボールに当てるには目の良さが必要です。これが精度です。しかし、野球はボールだけ見たら勝てるわけではありません。ボールにバットを当てて、ボールをどれだけ遠くまで跳ね返すのか、もしくは、状況を判断して的確な場所にボールを飛ばすかが大事です。要は、総合力が大事です」

では、付加価値が高く、総合力に富んだAI開発とは何か。清水亮さんは「AI単体の性能ではなく、顧客に提供可能な具体的な価値が開発費・維持費に見合うこと。これが大事です。めちゃくちゃ大事ですが、割と見落とされがちです」と説明する。



「たとえば、試しにやってみようというPoC(概念実証)だけ受けても、『なるほどね』で終わってしまいます。100万円だろうが、1000万円だろうが、1億円だろうが、払える人は払うし、払えない人は払わないですが、『なるほどね』で終わったら、お金も時間も無駄になってしまいます」とし、「性能だけを上げようとして、開発費が高騰してしまうのは本末転倒です」と主張した。

さらに、清水亮さんはもっと大事なポイントとして、「ワンショットではなく、長期的かつ継続的に価値を提供することができる。これがすごく大事です。AIは作って終わりにしてはダメです。『AI使って、トータルに日々の業務をどうするの?』というのが大事です」と話している。

「投資家に驚かれるが、われわれは技術に執着しない」

ところで、なぜ、ギリアはこれほどまでにAI開発において総合力を追い求められるのか。その背景には、同社の持つ「顧客志向」「技術に執着(しゅうじゃく)しないという誇り」「社内技術の水準化」といった3つの価値観が隠されている。

清水亮さんは、なにより「『お客様がもうかってこそ、当社が分け前をほんのちょっとだけいただける』というところが大前提です」と断言する。

また、「よくこの話をすると、投資家の方から驚かれるのですが、われわれは技術にまったく執着がありません。むしろ、技術に執着しないことが誇りです。フレームワークを特定したり、環境を特定したりしてしまうと、そこで縛られ、それを使わなければいけなくなってしまいます」と話した。

「僕らは新しい技術はもちろん、古い技術もそうですが、とにかくお客さまの問題解決するときに必要なAIの技術を貪欲に取り組み、最適な組み合わせをすぐに出せるようにしています。だから、引き出しがすごく多いです」

そのうえ、「社内では、1回顧客の問題解決したものを抽象化して、GUIに落として、営業でほかの案件のお客さんに提案したり、そのまま適用したりできるような仕組みを作っています」と補足した。

「1番大事なのは愛情と言うが、宗教的な信仰こそが大事」

このようなギリアの戦略は成功していると言って良いだろう。同社が2017年6月から2020年10月にかけて手がけたPoCは34件中、33件が成功しており、成功率は97.05%にもおよぶ。なぜ、これほどのPoC成功率を達成できるのか。

清水亮さんは、最終的なゴールから逆算してPoCを提案していることや、顧客とともにデータを作成する方法を考えていること、データを作成するための専用工場を完備していることに加え、「1番大事なのは愛情などと言いますが、もっと言うと宗教的な信仰こそが大事です」と熱弁する。

具体的には、「『ディープラーニングや人間の知性といったものに対する信仰があるかどうか』がすごく重要です。それがないと、『結局、うまくいきませんでした』と、なにか言い訳を考えて、原因に蓋をしてしまいます。むしろ、『うまくいかないわけがない』と考えることが大事です。うまくいかないときこそチャンスがあります」と説明している。

「AI人材が業界の外に育っていかなければいけない」

最後に、視聴者のメッセージを求められた清水亮さんは「これから先は、AIに対応できる人がAI業界の外にたくさん育っていかなければいけないと思っています。そのうえで、AIを使いたいとか、AIをこういうことに使えるのではないかとか、アイデアがすごく大事になってきます。ぜひ皆さんには、想像力を膨らませて考えてほしいです」と、講演を締めくくった。