企業のお問い合わせやショッピング・銀行など。最近AIアシスタント/チャットボットを利用したサービスって増えてますよね。
ただ、「うまく使いきれない」「効果が出ない」といった課題もよく聞きます。
今回は、ドイツMicrosoftでNLPエンジニアとして働いた経験もある、SPJ代表の江口さんにインタビューしてきました。
「そもそも、どういった目的でつくるべきなのか」「どう運用すればよいのか」といったボット運用で大事なことや「技術やビジネス上の課題をどう解決していくか」について伺いました。
株式会社SPJ代表取締役。NTT通信研究所にて開発業務を担当後、ドイツおよび日本Microsoft社にて検索システムの研究開発に従事。その後、人工知能(NLP)開発を日本およびカナダの大手ベンチャーにて行う。
2017年からは、SPJを創業。
株式会社SPJ https://spjai.com/
AI技術研修や人工知能技術コンサルティングを行う。最近では、フラワーショップ・チェーン店のAI店員の対話システムを構築。
チャットボット単体よりも実は裏のビッグデータの方が重要
まずは、SPJが考える理想のAIアシスタント/チャットボットを伺うために、以前の事例から使っている技術について聞いていきます。
――SPJが対話エンジンを開発された「AI店員エレーヌ」(※1)ですが、お客さんと話している言葉を判別する際には、具体的にどんな技術を使っているのですか?
「話者の意図を判別する際に、ディープラーニングを使っています。あらかじめ決めておいた意図にお客さんの言葉を分類し、判別をしています。会話からメインのキーワードを抽出し、解答とのマッチングをしていますね。」

顧客の要望に合わせた花を提案したり、顧客の名前と購入履歴を学習。顧客との会話に活用する
「ただ、一番重要なのは、「チャットボットの会話をする部分」ではなく、「溜まったデータを分析する部分」です。どんな傾向があるのか。どんなニーズや不満があるのかをVOC分析(顧客の声分析)で明らかにしています。
そこから、精度向上や隠れたインサイトにつなげていますね。なので、チャットボット単体よりも実は、裏のビッグデータの方が重要です。」
チャットボットを作る際、「フロント画面をどうするか」、「どんな会話をできるようにするか」ばかりを考えてしまう……というのも聞く話。しかし、それでは、チャットボットを使う目的としては不十分ということですね。
表面的な部分にこるだけだと、一時的な話題性はあるものの持続的にビジネスに還元できません。なので、顧客の声を拾いビジネスにつなげる循環を生むことが重要とのこと。
いままで聞けていなかったVOCを聞く手段としてのチャットボット、という風に考えると設計も大きく変わりそうです。
最初からは完全なものは作れない。精度をあげる仕組みが必要
――こういったAIアシスタントを実装する際、課題になる部分を教えてください。
「技術的課題とビジネス的課題をお話しします。
技術的な課題としては、いくらチャットボットを作り込んで作成したとしても、予期せぬ質問が必ずくるということです。なので、最初から完全なものを作れるとは思わないほうがいいですね。それよりも、精度をあげていく仕組みを作ることが必要です。」
チャットボットに関してよく聞く、『会話が成り立たない』という不満。しかし、会話を最初から完璧にすることは不可能なので、『完璧なボットを作る』よりも『いかにユーザーからデータを集めて改善する仕組みを作るか』は、ボット開発をする上で重要ですね。
「ビジネス的課題には、社内稟議を通すために、ビジネスインパクトを証明するのが難しい課題があると思います。
そこに対しては、チャットボットによる既存システムの代行よりも、チャットボットを使って、顧客のデータを回収する部分に焦点を当てるべきですね。回収できる顧客の声をサービスに活かせると、会社の役に立つことを示せると思います。」
何が拾えなかったのか、からユーザーの意図をくみとる
――具体的にはどういったデータを収集するイメージで、運用するべきなのでしょうか。
「たとえば、
- 何が拾えなかったのか
- どうすれば拾えるのか
- ユーザーはどんな意図をもって話しかけているのか
といったことを分析し、レポートできるようにしておくといいと思います。ユーザーの声を直接聞くことができる部分なので、非常に重要です。ただ、なかなかここまでできている企業はいないのですが。
設計の部分からこういったところを考慮しているのといないのとで、大きく成果が変わると思っています。」
メディアをみていても、「いかにAIアシスタントを構築したか」や「成功したチャットボットの事例」などはたくさん溢れています。
しかし、どのように分析し、どう改善していったかといった、本質的に重要な話は抜けがちなのかもしれません。
江口さんによると、アメリカではチャットボットの運用がすすんでおり、すでにチャットボット専門の運用コンサルティング会社もあるそうです。日本でもその流れは来そうですね。
マシンに話しかける文化が当たり前に
――最後に、AIアシスタント/チャットボットの利用は今後どのように変わっていきそうですか。
「コミュニケーションよりも仕事に関連したタスク管理のように、業務特化型チャットボットが使われてくるでしょうね。
また、18年は音声認識が主になると思います。2020年までにはアメリカ人の半分以上が音声検索をすると言われているので、マシンに話しかける文化が広がります。
その流れは日本でもくるでしょうね。ロボットかディスプレイ型か具体的な形はわ<かりませんが、スマートスピーカーの需要は確実に広がると思います。」
昨年、一般向けに発売されたスマートスピーカー。現状は、会話の精度が低い問題はありますが、ユーザーの増加にともない、改善されていくのでしょうね。そうなると、実現できる機能の幅が一気に広がりそうです。
今後、どんなサービスが生まれてくるのか注目です。
江口さん、本日はありがとうございました。