こころの状態を推定できる非接触型環境センサの実用化が進む|千葉大学

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千葉大学大学院融合理工学府博士前期課程2年の紅林勲氏と統合情報センターの小室信喜准教授、大学院工学研究院の平井経太准教授、関屋大雄教授は2023年3月28日、大学院人文科学研究院の一川誠教授(山口大学時間学研究所客員教授)とともに、人間の認知機能に影響を及ぼしうる室内環境データ(温湿度やにおい、照度、音量、CO2濃度、微粒子、気圧など)を取得するセンサネットワークシステムおよびそれらの環境データと時間情報から、その環境内にいる人間のこころの状態を推定するシステムを開発したと発表した。同研究成果は、国際科学誌Internet of Thingsで2月25日に公開されたとのこと。

研究の背景:情動状態推定における課題

学習・労働環境が大きく変化しつつある現代社会/社会情勢において、メンタルヘルス対策、学習・労働の作業効率化、人為的作業ミス対策として、ストレスや疲労感、快適感、感情的覚醒度などの人間の情動状態の把握と環境改善が重要だ。心理学や認知科学で用いられてきた実験データやアンケート等の手法で得た情動状態の把握は心理特性の主観的な解明には効果的だが、客観的に解明するには不向きだ。

他方、体温や心拍数等の生体データ・心理指標と情動状態との対応を解析する研究は、客観的かつ高精度で情動状態を推定できるが、人体に取り付ける接触型センサを用いるため、生活に浸透させるには大きな障害となる。これらの経緯から研究グループは、客観的かつ非侵襲的な手法で情動状態を推定するシステムを開発し、80パーセント以上の精度で情動状態を推定することに成功したが、実用化に向けてさらなる精度向上が求められていた。

研究成果:非接触型環境センサによる情動状態推定

同研究では、非接触型環境センサデータのみを用いて人間の情動状態を高精度で推定するシステムを開発した。まず人の認知機能に影響を与えうる室内環境データ(温度、湿度、照度、光色、におい、音、CO2濃度、微粒子、気圧など)、生体センサから得られる生理的データ(皮膚体温、心拍)に基づく情報状態(覚醒度、感情価)、および時間情報を総合的に収集し、これらを紐づける。時間情報を加えることによって、生活リズムや室内環境の変化の割合をとらえられるようになり、これが推定精度の向上につながるという。

この収集データをもとに、生体センサから得られる生理的データに基づく情動状態を正解ラベルとして与え、教師あり機械学習によって環境データと時間情報から得られる情動状態の推定精度を上げていく。これにより同システムでは接触型である生体センサを使うことなく、環境データと時間情報のみを用いて情動状態を高精度で推定できるようになった。

実験では、2LDKの室内で3泊4日生活する6名(男性3名・女性3名)を対象に、本システムを用いて人間の認知機能に影響を与えうる室内環境と時間情報に関するデータのみから個人の情動状態(ストレスや覚醒度、疲労度、快適度の状態)を推定。その結果、約90パーセントの精度で情動状態を推定することに成功したという。この結果より同システムでは、非接触型センサのみを用いて、従来の生体センサによる手法にも劣らない精度を達成できたとしている。

■論文情報
タイトル:Mental-state Estimation Model with Time-Series Environmental Data regarding Cognitive Function
著者:Isao Kurebayashi, Koshiro Maeda, Nobuyoshi Komuro, Keita Hirai, Hiroo Sekiya, Makoto Ichikawa
雑誌名:Internet of Things
DOI:https://doi.org/10.1016/j.iot.2023.100730

■千葉大学大学院融合理工学府
https://www.se.chiba-u.jp/

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