中国 AI事情|政府〜企業〜民間まで徹底網羅

China-AI
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2013年に習近平国家主席が打ち出した、ヨーロッパと中国を陸・海路で結んだ巨大な経済圏物流網である「一帯一路構想」を実現させるため、中国の発展は今もなお続いている。

とりわけ、国家を跨ぐ巨大な物流網を実現させるには運用システムのスマート化が不可欠であり、AIに関する中国政府の投資額は日本の約5倍、日本円にして年間4500億円と、力の入れ方が伝わってくる。

この記事では、中国のAI領域に関する主要なターニングポイントや共産党の政策、さらには現状の課題など、今まで中国が積み上げてきたAIの歴史を紐解き、全体像を理解していく。

中国の国内事情

共産党一党独裁ではありながら、社会主義市場経済という環境でBATIS(Baidu, Alibaba, Tencent, iFLYTEK, Sensetime)や多くのユニコーン企業が生まれた現代の中国は、世界の国内総生産ランキングで2位の経済大国へと成長した。

首都の北京、金融の上海、貿易の広州、そしてITの深セン。中国本土の4大都市と称され、大手外資だけではなく、国内大手やユニコーン企業の本部がオフィスを構えるこれらの都市は、中国の発展に大きく貢献してきた。実際にこれらの都市を訪れた人からは「想像していた中国と違った」という声を多く聞く。

China-AI左から北京、上海、広州、深圳のランドマーク夜景

その一方で、一人っ子政策を廃止した後も止まらない出生率の低下により、2030年頃には人口が頭打ちになる。若者が少なくなれば、今の経済を支えている労働人口も減少する。

下記の図は、国連が発表した中国の総人口推移予測グラフだ。縦軸が人口/億、横軸が時間/年を表している。現時点の出生率に対して、+0.5%であれば一番上の青い点線、-0.5%であれば一番下の青い点線に推移し、真ん中の赤い実践が人口推移の平均予測値となっている。

平均予測値である赤い実践を見てみると、2020年から2050年ごろまでは14億人程度で大した変化は無いように見られる。しかし、人口総数は変わらなくても、年齢層の内訳は変化する。2020年1月17日に総人口が14億人を超えたと中国国家統計局が発表していた裏で、2050年に60歳以上が5億人近くになるという予測も出ており、労働人口問題の深刻さが垣間見える。

©︎2019 United Nations, DESA. Population Division. Licensed under Creative Commons license CC BY 3.0 IGO. United Nations, DESA. Population Division. World Population Prospects 2019. http://population.un.org/wpp/

一帯一路という巨大な物流網を整備し、さらなる発展を目指す中国にとっては、減りゆく人材を機械で代替していくことが必須であり、AI技術開発は労働人口減少の未来に対抗するために、今取り組まなければいけない最重要課題であることは間違いない。

次の章からは、AIに関する中国の歴史や政策、各企業や社会の実情など、現状わかる情報をまとめていこうと思う。

中国政府の政策

中国のAI研究開発は、第二次AIブームの1970年〜1980年からようやくスタートしたとされている。

中国政府は1970年代に近代国家を目指すため提唱した「四つの現代化」(農業・工業・国防・科学技術)に加え、1986年以降に実施された各五カ年計画に含まれる「電子・情報産業政策」等政策を通じて、コンピューターの普及や近代化を進めた。

2000年代に入ると、「国家科学技術中長期計画 2006年」によりスマートセンサーや拡張・仮想現実など、多くの研究課題が国家の重点プロジェクトとして発足した。さらに2015年、ドイツ政府が提唱した「インダストリー4.0」の影響を受け、中国政府は「中国製造2025」を提唱。世界の工場と呼ばれていた時代から、自国で自国のものを開発する時代へと舵を切り始めたのだ。

そして2017年、中国製造2025を補完する目的として、中国政府は「次世代AI開発計画」を発表した。この計画は、大きく三段階に分けて産業成長目標や投資規模が設定されている。

産業を成長させるには、企業の成長が必要不可欠なため、中国政府は有望なAI関連企業には補助金や各種優遇制度を設けている。目的はAI産業を用いた中国産業規模全体の底上げだ。

中国はIT分野でこそ都市部では先進的であるが、地方における第1次、第2次産業はまだ発展が望まれる。先端技術であるAI産業を成長させ、そこから得た技術や効率化のノウハウを応用し、他の産業領域も活性化することで国内全体の産業規模を大きくするのが狙いだ。

世界に比べて出遅れた中国のAI研究開発だったが、政府の強力なバックアップによって世界第2位のAI開発国にまで上り詰め、世界のトップに狙いを定める。

次の章では、国と企業の関係性を見ていきたい。

繁栄の祝福と束縛される企業

アメリカの大手IT企業を表す和製英語として「GAFA」があるが、中国の大手AI企業を表す言葉として「BATIS」が挙げられる。

  • Baidu(百度|中国最大の検索エンジン会社)
  • Alibaba(アリババ|IT会社、ECサイトで有名)
  • Tencent(テンセント|中国SNS会社、WeChatを運営)
  • iFLYTEK(アイフライテック|音声認識サービス中国市場シェア70%)
  • Sensetime(センスタイム|ディープラーニング技術会社)

上記5企業は、2017年に発表された「次世代AI開発計画」において、中国政府から指名された5大プラットフォーマーだ。前の章で触れた通り、該当企業には国から補助金や許認可支援が与えられる。

中国国内に留まらず、海外展開も積極的に行い発展していこうとするBATISだが、代償として中国政府の指示に従わざるを得ないことが指摘されている。

中国の大手IT企業を表す「BATH」(Baidu, Alibaba, Tencent, Huawei)に含まれるファーウェイは、アメリカ政府から規制を受けた。理由は「情報通信上のリスクがある」ため、企業を通して中国政府が他国の機密情報を取得している疑いが出たのだ。

アメリカのホワイトハウスは2019年8月13日に、政府機関がファーウェイを含む中国企業5社から通信機器・ビデオ監視機器・その他サービスについて、直接購入を禁止する暫定規則を発効した。

事実、ファーウェイは中国政府から最大約8兆2000億円の支援を受けていた、とウォールストリートジャーナルが報じている。ファーウェイ自身は政府との関与を否定しているが、ゼロであるとは言い切れないだろう。アメリカ政府のファーウェイ規制は今も続いており、今後一層の発展を望むBATIS、そしてなにより中国政府にとって、無視できない課題のひとつであるのは間違いない。

しかし、海外に行かずとも、中国の14億人市場におけるビジネスチャンスは豊富である。それを助長するのが、中国政府→大企業→ユニコーン企業という資金の流れである。

ユニコーン企業が生まれやすい環境

Photo by Annie Spratt on Unsplash

企業価値が10億ドル(約1100億円)以上・非上場・設立10年以内のテクノロジー企業は、独自の強みと巨額の利益をもたらす期待を込めてユニコーン企業と呼ばれている。2019年に新規ユニコーン企業は全世界で142社増加した。内訳はアメリカが78社、中国が22社で、中国は世界2位のユニコーン輩出国となった。

どのようにして中国はアメリカに次いでユニコーン企業を量産しているのか。これには大企業からベンチャーへの投資が盛んであるという要因が考えられる。

先ほど紹介したBATISは国からの支援を受けつつ、有望なベンチャー企業には惜しみなく投資を行っており、他の主要企業も含めた合計民間投資額は6000億以上を確保している。自社開発に注力しながら、有望なベンチャーが大きくなったら買収し取り込むことを繰り返し、力を増しているのだ。これにより、ベンチャーは資金力を、大企業は技術力を得ることができ、相互成長の好循環が生まれている。

中国AI業界の今後

Photo by Carlos Irineu da Costa on Unsplash

現在から2030年までの10年は、順調に行けば中国はマイルストーン通り産業規模を拡大させ、世界のAI技術でトップを行く国になることは間違いない。

しかし、一党独裁の社会主義体制は、徐々にその弱さを露呈しているようにも見える。超少子高齢化社会、諸外国の企業に対する規制など、AI技術以外の要因が発展を阻害することもありうる。

中国のAI領域がどのように発展していくのか、引き続き注目していきたい。

中国AIニュース

ディープフェイクに関する規定を中国政府が発表

世界中で有名人や他人の顔を別の顔に書き換えるディープフェイク技術が問題になっており、2019年11月29日に中国政府は、インターネット・音声・動画情報サービス管理規程(网络音视频信息服务管理规定)を通知した。

この規程の施行は2020年1月1日からで、虚偽のニュースや、AI技術を用いた偽物であるという明記がない動画などを作成・配信した場合は刑事罰の対象になる。中国以外では2019年7月にアメリカのヴァージニア州でディープフェイク映像の作成・共有が法律で禁止された。

新型肺炎対策、ネット問診サービスをAI技術が担う

深刻な問題となっている新型肺炎対策のため、病院にいけない人でも問診を受けられるサービスが浙江省の行政サービスネットで開始。これにより、長時間病院で待つことによる集団感染を防ぎ、新型肺炎に感染していない人の自宅待機を促進する。このサービスにはAlibabaの研究院「阿里達摩院(DAMO)」が開発しているAI技術が使われており、市民の質問や悩みに自動応答する。

中国のAI論文数がヨーロッパ全体を超す

2019年米スタンフォード大学 HAI(Human-Centered AI Institute)のレポートによると、同年の世界全体AI領域論文数が、中国28%、ヨーロッパ27%という結果になったという。加えてスタートアップに対する投資額も中国がアメリカより多く、中国政府VSアメリカ民間企業という構図になっており、2020年もAI産業覇権争いから目が離せない。

シャオミ、7700億円をAI・5G・IoTへ投資

中国IT大手シャオミの雷軍CEOは、今後5年間でAI、5G、IoT分野に、合計で500億元(約7750億円)以上を投資すると発表(外部リンク)した。AI分野における自社の優位性を高め、地位を確立することが狙いだという。今後もこのような中国企業が潤沢な資産を携えて日本に進出してくると予想する。