50年前の論文をベースに、営業トークを可視化するAIベンチャー秘伝のコア技術とは?

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上手い人の営業トークのノウハウ、横展開できないと思っていませんか?

いかに新規顧客を開拓し、案件を受注するかに注力する、営業という仕事。顧客の信頼を勝ち取るためには話し方はもちろん、話す内容、順番や見出しに至るまで、高度なコミュニケーションスキルが求められるので、属人化しがちです。

  • できる人とできない人の明確な差が見えにくい
  • 指導する人によって言うことが違う
  • 体育会系の根性論になりがちで、PDCAが回っていない
  • 新人の教育にエース社員の時間が取られる
  • 属人化のため、ノウハウをなかなか蓄積しにくい

など、属人化による様々な弊害がある一方で、属人化しているからこそ、あまりAIが入り込む余地がないという印象もあるかもしれません。

今回、営業トークにおける暗黙知をAIで見える化し、改善できるツールがあるという噂を聞きつけ、コグニティ株式会社のお二人にお話をお聞きしました。

河野 理愛 / 代表取締役
1982年生まれ、徳島県出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業。大学在学中の2001年にNPO法人を設立、代表として経営を行う。 2005年にソニー株式会社入社、カメラ事業を中心に、 経営戦略・商品企画に従事。2011年に株式会社ディー・ エヌ・エー入社。 2013年コグニティ株式会社を設立。
楠富 智太 / UpSighter事業部 事業部長
1988年生まれ。長崎県出身。防衛大学校システム工学部卒業。防衛省にて将校として勤務。その後、株式会社ABEJA、株式会社博報堂を経て、2017年12月にコグニティ株式会社に入社。

営業における暗黙知を見える化する「UpSighter(アップ・サイター)」

――営業の暗黙知をAIで見える化できるツールを提供されているとお聞きしました。どのようなツールなのでしょうか?

――楠富
「弊社は『UpSighter(アップ・サイター)』というツールを提供しています。会話のロジック構成や展開の仕方を見える化し、伝えたい内容をどのような構成で適切に伝えているかを評価します。

例えば、あなたの会話にはエビデンスやファクトがエース級の人に比べて少ないので、そこを増やすといいですよ、のようなアドバイスができるイメージです」

分析できる会話シーンは、

  • 商談
  • プレゼン
  • コールセンター
  • 日報
  • ロールプレイング
  • 採用面談
  • 1on1面談

など、さまざま。ユーザーはトーク内容を録音してアップロードするだけで、詳細をレポートにします。

下記がレポートのサンプルです。非常に細かいパラメータで評価しています。

――楠富
「こうして会話の暗黙知を見える化することで、対面営業現場のブラックボックスを解消し、エース級人材が持つ営業ノウハウの横展開や、自動採点による教育コスト、指導ブレの削減といった効果が見込めます」

営業の教育であれば、通常、人事部門が一括でロールプレイング研修を行うことが多いものです。

UpSighterは、その都度研修を行わなくとも録音をアップロードするだけでレポートが出力され、自助努力でPDCAを回すことができ、大幅な教育コスト削減につながります。何回も繰り返し実践される、ロールプレイングにかける教育コストが削減できるのは大きいと思います。

天才肌、キャラ売りの営業も見える化

――導入されている事例はすでにあるのでしょうか?

――河野
「例えば、ある人材会社では、営業成績が良いエース人材が新入社員にマンツーマンで教える手法を取っており、エース人材の貴重な業務時間が教育に割かれていました。

しかし、その新入社員の伸びがあまりよくなかった。UpSighterで見える化したところ、そのエース人材は、いわゆる“キャラ売り”だったんです」

ファクトやロジックで説得しなくても、天性のキャラクターで売ってしまう人、確かにしばしば見かけます……!いわゆるキャラ売りは、個人の資質に依存するため、教える側には向かないらしいんだとか。結果として、その人には教育するポジションを外れてもらい、プレイヤーとして活躍してもらったそうです。

――河野
「そもそも対面営業は属人性が高く、見える化のニーズは高いので、類似のツールはほかにもあります。しかし、それらを使うには大量の学習データが必要です。ほとんどの企業はそもそも、ロールプレイングや営業現場の音声データなど記録していません

なるほど……。過去に他社のAIツールを導入検討していた企業が、大量の学習データを用意できず挫折し、コグニティならと声をかける事が多いそうです。

UpSighterであれば、最低3サンプルあればモデルを作ることができます。そこまで少なければ、データを収集するのに手間はかかりません。

単語ではなく情報のまとまりを分析するフレームワーク「CogStructure」

――少ないサンプル数で営業の見える化・分析が可能ということですが、UpSighterの裏側の仕組みについて教えてください。

――河野
「UpSighterには、独自に開発した『Cogstructure』という、情報の構造を分類するためのフレームワークを組み込んでいます。

通常、会話などの自然言語を処理するためには、形態素解析によって文章を節ごとに分けるなど、ある単語の出現率や、単語同士の組み合わせの確率で判断します。

一方、CogStructureでは単語の出現頻度ではなく、ある情報のまとまりがどのくらいあるかを判断し、そこから情報の関係性を突き止めるアプローチを取っています」

形態素解析
言語で意味を持つ最小の単位(=形態素)に分け、それぞれのパーツの品詞などを判別すること。

――河野
「この手法は、現在主流のディープラーニングによる自然言語処理とはまったく異なるアプローチです。50年以上前の論文の手法をベースに、ロジックをさらに細かく分類しました」

その50年以上前の論文とは、「Toulmin’s Argument Model」というもの。ある主張を成り立たせるのに必要な要素として、事実や理由、論拠、結論などが必要だとし、人間のあいまいな会話に何が足りていないのかを明らかにしようとした論文です。

――河野
「例えば、これは有名なスティーブ・ジョブズのスピーチ「Connecting the dots」をCogStructureで分析したものです。彼が癌を体験し、時間は有限であると気付き、その体験から『点と点をつなげる』という主張をしているのが見える化されています」

単語ベースの形態素解析ではなく、一段抽象化した「情報のまとまり」が、どのくらいの量存在し、ほかの情報とどのような関係性があるのかを見える化するアプローチをとっています。

注目すべきは、単語ではなく情報のまとまりに注目するため、どの言語にも対応可能なことです。大量のデータを学習させて形態素解析をおこない、ある単語の次に来る単語の確率は〇〇%、という判断をしていくディープラーニングではこうはいきません。

「CogStructure」をtoC領域にも活かしていく

――河野
「実は最初は営業ではなく、会議の議事録の自動サマライズにトライしたんです。しかし、需要があまりなく、うまくいかなかった。

しかし、CogStructureデータを更に蓄積したい想いがあり、技術を活かす会話データを集められる領域はどこか、ずっと考えていました。そのとき、営業の領域を見つけたんです」

創業して最初の1、2年はひたすらCogStructureの実験を行なっていましたが、営業という領域を見つけたことをきっかけに事業が軌道に乗り始めたんだとか。今後はCogStructureを活かして、toCのコミュニケーション分析にも展開していく、と河野さんは語ります。

UpSighterでふわっとした営業ノウハウを見える化できれば、デキる営業マンのノウハウを簡単に盗む見習うこともできます。そういう意味で、営業がブラックボックス化している企業にとっては非常に有益ではないでしょうか。

コグニティは海外展開も積極的におこなっていくとのこと。今後も非常に注目したい企業です。