「新型コロナの第5波は東京五輪の開催中に来る」4度目の緊急事態宣言が発出される訳

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※インタビューは4度目の緊急事態宣言が発出されると報じられる以前である、6月29日(火)にZoomで実施した【写真ACより】

政府は東京五輪の開催中を含む8月22日(日)まで、東京都と沖縄県を対象に緊急事態宣言を発出する。特集『新型コロナとデータ分析〜4度目の緊急事態宣言は何をもたらすのか?』の1回目では、東京オリンピックとその後の感染拡大の可能性を考察する。

政府は東京五輪を控えた7月7日(水)、新聞各紙などに東京都を対象に4回目の緊急事態宣言を発出する方針を固めたと報じられた。沖縄県の緊急事態宣言も延長になる。期間はともに8月22日(日)まで。政府は7月8日(木)、専門家に諮問し、了承が得られれば新型コロナ対策本部で正式に決定する(※1)

株式会社JX通信社 取締役兼CXO 細野雄紀氏は6月29日(火)にLedge.ai編集部のインタビュー取材に応じ、「(新型コロナウイルスの感染拡大が)この増加ペースでいくと、第3波や第4波と並ぶような波が第5波としてやってくると思います。その波は東京五輪の開催中に来るかもしれません」と話していた。

ただし、第5波は東京五輪の開催によるものなのか、仮に中止にしていても同じような感染拡大が訪れるのか、因果関係の評価は難しいという。東京五輪を開催していない現在(6月29日)でも、すでに第5波が起こりうる兆候が見られることを踏まえ、東京五輪の開催が第5波の起点となったと安易に結論づけるべきではない、と細野氏は見ている。

いずれにせよ、京都大学大学院医学研究科教授で理論疫学者の「8割おじさん」こと西浦博氏、国立感染症研究所なども、8月初めないしは東京五輪の開催中に緊急事態宣言が必要になる可能性があるという試算を明らかにしている(※2、※3)。日本国内のみならず、英ガーディアンにも東京では第5波の可能性が懸念されると報じられた(※4)。

このような状況からも、政府が4度目の緊急事態宣言が発出を決定した背景としては第5波および、7月23日(金)から8月8日(日)の17日間にわたり開催を予定している東京五輪の存在が大きく影響していると考えられる。

(※1)産経新聞による報道「<独自>東京に緊急事態宣言発令 政府調整」時事通信社による報道「東京、4回目の緊急事態へ 8月22日まで、措置延長から一転―政府、8日に決定」、日本経済新聞による報道「東京8月22日まで緊急事態へ きょう諮問、酒類停止」日本経済新聞による報道「東京に4度目の緊急事態宣言、8月22日まで 政府案提示」

(※2)西浦博氏は6月9日、高齢者のワクチン接種が7月に完了しても、8月初めに再び緊急事態宣言に相当する感染拡大が避けられない可能性があるというシミュレーションを公開している(朝日新聞による報道「「8月に宣言相当の流行」21日解除なら、西浦教授試算」

(※3)国立感染症研究所などは6月16日、変異ウイルスの影響が小さくても、東京五輪の開催中に再び緊急事態宣言が必要になる可能性があるという試算を公表した(日本経済新聞による報道「五輪無観客でも「再宣言の恐れ」 感染研など試算公表」)。

(※4)英ガーディアンは現地時間6月29日、東京での新型コロナウイルスの感染者数が増加していることから、オリンピック開催まで1カ月を切った時点で、第5次感染の可能性が懸念されていると報じた(英ガーディアンによる報道「Surge in Covid-19 cases in Tokyo, less than a month out from Olympics」)。

東京五輪「心理的な側面は感染拡大の要因になりうる」

東京五輪が開催されるオリンピックスタジアム(新国立競技場)【写真ACより】

現在では4度目の緊急事態宣言発出にともない、東京五輪は原則無観客で開催される可能性が高いと報じられているものの、それ以前は政府や国際オリンピック委員会(IOC)などが会場の収容定員の50%以内で1万人を上限とすると決定していた(※5)。しかし、収容定員の上限を設ける場合でも、そもそも開催しない場合と比較すると、感染拡大のリスクが高まるのは言うまでもない。

ブラジルでは6月13日(日)から7月10日(土)まで、南米サッカー連盟(CONMEBOL)が主催するサッカーの大陸選手権大会「コパ・アメリカ2021」が開催中だ。同大会では選手や関係者のうち、陽性者は140人におよぶ(※6)。

この事例を踏まえると、東京五輪における「最悪のシナリオ」の1つとしては、大会関係者だけで数百人の陽性者が発生するという可能性が考えられる。ただし、コパ・アメリカ2021を開催しているブラジルは感染拡大をコントロールできていない国の1つとされていることは留意すべきである、と細野氏は付け加える(※7)。

東京五輪の開催に対しては「東京五輪を開催するにもかかわらず、感染拡大防止のために国民には外出自粛などを呼びかけるのか」などの批判もある。細野氏は「このような心理的な側面は感染拡大の要因になり得ます」と述べている。

(※5)時事通信社による報道「東京五輪、観客上限1万人 緊急事態で無観客も検討―組織委など5者協議〔五輪〕」

(※6)CNN.co.jpによる報道「サッカー南米選手権、新型コロナの症例140例に 選手やスタッフの感染急増」

(※7)ブラジルのジャイール・ボルソナーロ大統領は新型コロナを「ちょっとした風邪」などと表現し、マスク着用にも反対していた。6月7日にはボルソナーロ大統領自身が新型コロナ検査で陽性反応が出たことを公表した(朝日新聞による報道「「コロナは風邪」発言のブラジル大統領、発熱で検査」時事通信社による報道「ブラジル大統領、新型コロナ陽性 「これが人生」、経済再開を強調」

第6波の有無「ワクチンの接種率に依存する」

第6波の有無はワクチンの摂取接種率に依存すると見られる【Unsplashより】

たとえ第5波が収束しても、いずれ第6波が起こる可能性があるのではないか。

この疑問に対しては「非常に難しい問題」としつつも、「(可能性としては)あり得ると思います。ただ、ワクチンの接種率に依存します」と話した。

現在、アメリカや中国などはワクチン接種率が高く、感染拡大が収束に向かっている。アメリカは一時期、感染者数が急増していたが、現在では極めて減少していると言える。

日本においても現在の1日あたり100万回のワクチン接種が完了する状況を維持できたり、それ以上のワクチン接種のスピードを実現できたりするのであれば、いずれアメリカのように感染者数が減少するだろう。

このような状況が起きれば「もしかしたら、第6波が来ずに終わる可能性もあるのではないか」と予想している。

ところが、最近では若者などを中心としたワクチン接種の危険性への懸念のみならず、SNS上などでワクチンが「卵巣に高濃度に蓄積」「不妊になる可能性が懸念される」などの誤情報が広まったり、陰謀論者がワクチンを保管している冷凍庫の「#プラグを抜こう」と呼びかけたりなど、不穏な動きも見られる(※8)。

細野氏は「いかに誤情報に惑わされずに、しっかりと正しい情報を広く深く伝えていくことが大切になります。もちろん、接種する側のオペレーションも大切です。その両面でやっていくべきでしょう」と訴えた(※9、10)。

(※8)BuzzFeed Japanによる報道「「ワクチンが卵巣に蓄積、不妊の原因に」は誤り。「一生妊娠できなくなる」とYouTube動画も拡散、若い女性に影響か」時事通信社による報道「全国で相次ぐプラグ抜け ワクチン冷蔵庫、廃棄原因に―ネットで呼び掛けも」

(※9)内閣府政府広報オンラインは公式Twitterアカウントにおいて「新型コロナワクチンを接種すると、接種部分の痛みや発熱が起きることがありますが、ほとんどは数日以内に回復しています。ワクチンを2回打てば、感染症はかなり抑えられます。持病のある方や高齢者にとっては、特にメリットが大きいワクチンです」と訴えている(該当ツイート)。

(※10)ワクチンの接種会場などについては厚生労働省「コロナワクチンナビ」、ワクチンにまつわる疑問点については厚生労働省「新型コロナワクチンQ&A」、ワクチンの副反応疑い報告については厚生労働省「新型コロナワクチンの副反応疑い報告について」などを参考にしてほしい。

「さざ波」発言はミスリード誘う投稿だ

LINEAR【7月1日に編集部で「Our World in Data」をキャプチャ】

LOG/ログスケール【7月1日に編集部で「Our World in Data」をキャプチャ】

世界的に見て、日本における感染拡大の状況はどうか。

元・内閣官房参与で嘉悦大教授の高橋洋一氏が5月9日(日)に、自身のTwitterアカウントにおいて、世界の感染拡大状況を比較したグラフとともに「日本はこの程度の『さざ波』。これで五輪中止とかいうと笑笑」と投稿し、大きな非難を浴びたことは記憶に新しい(※11)。

細野氏は「さざ波」発言について、「『感染者数が他国より低いから、東京五輪の実施リスクは低いだろう』とするのはロジックの罠(わな)です。ミスリードを誘うような投稿だと思います」と話した。

「視覚的に『さざ波』なのは事実だと思います。ただ、他国と比較するときはログスケールを使うほうが望ましかったのではないか」

ログスケール(対数スケール/対数目盛)は目盛りの幅を均等ではなく、割合に応じた幅で表示する方法を指す。ログスケールを使用すると、広い範囲の値を簡単に比較できるとされている。一般的には、地震の強さ(マグニチュード)、音の大きさ(音圧)、光の強度(光度)などに使用される。

高橋氏は同投稿においては、オックスフォード大学が運営する「Our World in Data(データで見る私たちの世界)」からグラフを引用していたと見られる。「Our World in Data」でログスケールの設定では「さざ波」には見えない、と細野氏は指摘する。

細野氏は「比較対象になっている国々が恣意的にピックアップされている印象もあります。感染者数が多い国を抽出し、それ以外の国を比較対象に入れなければ『さざ波』に見えるのは当然です」と付け加えた。

「感染者数だけを見れば、日本は比較的悪くない状況が続くでしょう。ワクチン接種により医療状態にも改善の兆候が見られるので、社会インフラが陥落するような事態は起きにくいと思います。しかし、過去と比較して見ると、決して悠長(ゆうちょう)なことを言っていられない状況だと思います」

(※11)高橋氏は5月21日(金)、日本の緊急事態宣言について「欧米から見れば、戒厳令でもなく『屁(へ)みたいな』もの」とツイート。菅首相は5月24日(月)、高橋氏本人の申し出により内閣官房参与を辞任するにいたったと説明した。(日本経済新聞による報道「高橋洋一参与が辞任 首相「本人が大変反省」」

株式会社JX通信社 取締役兼COO 細野雄紀氏

株式会社JX通信社 取締役兼CXO。2012年に早稲田大学 人間科学部を卒業し、同年4月にJX通信社にジョイン。サッカー・J1リーグに所属する湘南ベルマーレのソーシャルメディア戦略アドバイザーも務めている。Twitterアカウント

JX通信社はニュース速報アプリ「NewsDigestiOSAndroid)内において、「新型コロナウイルス 日本国内の最新感染状況マップ きょうの新規感染者数、ワクチン接種状況・予測」を公開中だ。

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