※インタビューは6月29日にZoomで実施した。記事内の発言は取材当時にもとづいている【Unsplashより】
政府は東京五輪開催中を含む8月22日(日)まで、東京都と沖縄県を対象に緊急事態宣言を発出中だ。特集『新型コロナとデータ分析〜4度目の緊急事態宣言は何をもたらすのか?』の3回目では、感染事例のビッグデータから2度目(1月13日〜2月28日)と3度目(4月25日〜6月20日)の緊急事態宣言の効果、および現在と今後の感染拡大の可能性を考察する。
7月20日現在のデータ ※データ提供元:FASTALERT(ファストアラート)新型コロナウイルスリアルタイム情報【NewsDigest「新型コロナウイルス 日本国内の最新感染状況マップ・感染者数」より】
現在、政府は東京都と沖縄県を対象に、東京五輪の開催中を含む8月22日まで4度目の緊急事態宣言を発出中である。以前から東京五輪や緊急事態宣言には「東京五輪を開催するにもかかわらず、感染拡大防止のために国民には外出自粛を呼びかけるのか」「また飲食店を狙い撃ちするのか」などの批判があった。
昨今では、東京五輪の中止を求めるオンライン上の署名が45万を超え、政府の「酒提供飲食店への取引停止問題」に批判が集まり、撤回にいたるなど問題が露呈している(※1、2)。このような状況に対する不満は東京五輪の開催を目前にしてかつてないほど高まっているように見える(※3)。実際、東京都民の「外出自粛率」は低下傾向にあるという報道もある(※4)。
一方で、直近の3度目の緊急事態宣言はどうだったのか。株式会社JX通信社 取締役兼CXO 細野雄紀氏は6月29日(火)にLedge.ai編集部のインタビュー取材に応じ、2度目と3度目の緊急事態宣言は質的に異なると分析し、3度目の緊急事態宣言について「データを見る限り、明確に感染増加を抑制したと言えます」と話した。
2度目の緊急事態宣言は新規感染者数がピーク時に発出した。仮に緊急事態宣言を発出しなかったとしても、減少傾向に転じていた可能性が高い。緊急事態宣言を発出してから1週間で減少傾向に転じていたが、緊急事態宣言の影響だけではすぐにこのような影響が起きることは本来あり得ないと指摘し、緊急事態宣言で減少傾向に転じたとは言いづらいと語る。
3度目の緊急事態宣言は新規感染者数が増加傾向にある途中で発出した。実際に発出してから約1週間後のゴールデンウィーク(GW)中に感染拡大のピークが訪れ、順調に減少傾向に転じていった。政府はGWという人流が活発になると思われる時期を見据え、緊急事態宣言を発出したと考えられる。
細野氏は3度目の緊急事態宣言について「おそらく、さらに1週間前に発出していたほうが効果はあったと思います」としつつも、「人の交流の機会や頻度が減り、47都道府県で新規感染者数がぐんと減りました。緊急事態宣言は人の心理に関係なく効果があったと思います」と話した。
同社が4月15日に発表したプレスリリースによると、2度目の「緊急事態宣言」が解除された3月22日以降の感染事例報告施設は「飲食店」が134施設、「オフィス」は126施設で、全体の2割弱におよぶ
政府や東京都などは、3度目の緊急事態宣言では「人流抑制」を重視していた(※5)。飲食店は午後8時までの時短要請、酒類提供やカラオケ設備を持つ飲食店は休業要請、百貨店やショッピングセンター、量販店、映画館など1000平方メートルを超える大型施設は休業要請を強いられた(※6)。
細野氏は政府による飲食店への対応について「(政府による対応の)正しさは何で決まるのか。非常に難しい問題」としつつも、データ分析の観点から「弊社が見ているデータでは飲食店とオフィスの2つが大きな感染源になっていました。感染者数を減らすという意味では妥当に見えます」と語る(※7)。
細野氏は「3度目の緊急事態宣言中は多くの飲食店が時短営業や休業を余儀なくされました。直近では、家族内や飲食店以外の事業所、オフィスなどの感染事例がメインになってきました」と話している。
映画館や美術館などへの対応については「表面的に見ると、なぜそこまでする必要があるのかという話もあると思います。しかし、(映画館や美術館などの)目的地に行くついでに寄り道するケースもあります。人流抑制の観点で言うと、行動の目的そのものをなくした効果が現れたと考えるほうが自然でしょう」と述べた。
細野氏が指摘するとおり、緊急事態宣言における政府の対応をどう評価するのかは「非常に難しい問題」だ。たとえば、飲食店などはただでさえ来店客が減少すると言われる状況で、休業や時短営業を余儀なくされると、最悪のケースとしては廃業や倒産を避けられないケースも考えられる(※8)。
実際、株式会社東京商工リサーチによると、7月2日の16時時点で新型コロナウイルス関連の経営破たんは全国で累計1650件(倒産1558件、弁護士一任・準備中92件)。飲食業は最多の296件におよぶ(※9)。ここでは「あくまでデータ分析的には正しい」という表現に留めたい。
また、著者としては冒頭で触れたような矛盾や問題を抱えた現状を踏まえると、今回の4度目の緊急事態宣言が過去と同じような感染拡大防止の効果を望めるかは疑問と言わざるを得ない、と補足しておきたい。
人口が少ない都道府県「火種はどこにあるかわからない状況」
今回の取材では、地域別における新型コロナウイルス感染事例のビッグデータをもとに、現在と今後の感染拡大の可能性についても話を聞いた。まずは人口が多い東京都と大阪府から見ていこう。
同社が4月15日にプレスリリースを発表した、2度目の「緊急事態宣言」が解除された3月22日以降の東京府での感染事例が判明している施設数を23区ごとに集計したもの
東京都は千代田区を中心に都心部でまんべんなく感染報告が上がっている(※10)。
同社が4月15日にプレスリリースを発表した、2度目の「緊急事態宣言」が解除された3月22日以降の大阪府での感染事例が判明している施設数を24区ごとに集計したもの
大阪府はオフィス街や飲食店などが密集する繁華街でキタ(北区)とミナミ(中央区)に感染事例が集中している(※10)。なお、これらの図の感染事例には家やマンションなど、クローズドなコミュニティは含まれていない。
主に感染拡大するのはオフィスや飲食店などオープンなコミュニティとされる。感染事例が多い場所は単に人口が密集しているだけではなく、オフィスや飲食店など人と人が会う目的地があるかどうかが大きく影響しているのではないか、と細野氏は分析する。
「家庭内の感染だけなら、短期間で感染拡大は収束するでしょう。しかし、実際はそうではありません。オープンなコミュニティをいかに抑制していくのかが感染抑止には重要です。だからこそ、『人流抑制』といった考え方も生まれていくのではないか」
一方で、東京都や大阪府以外の地域ではどのような特徴があるのか。人口が多い都道府県ほど増加したり減少したりといった急激な変化は起こりづらいのに対し、人口が少ない都道府県は些細なきっかけで急増する傾向があるという。
たとえば、沖縄県では去年7月の緊急事態宣言下において、わずか約1週間で人口10万人あたり100人の陽性者が発生した。現在も依然と高い水準に留まっている。
細野氏は「現在は3度目の緊急事態宣言が明けてから、全国的には減少傾向ないしは横ばい傾向です。一方で、6月15日頃には山梨県、6月29日頃には秋田県など、特定の地域が増加傾向にあるという箇所が少しずつ出てきています。(人口が少ない都道府県においては、感染拡大が起こりうる)火種はどこにあるかわからない状況です」と語った。
(※1)NHK NEWS WEBによる報道「五輪・パラ中止求めるオンライン署名45万超 都に提出」
(※2)毎日新聞による報道「酒取引停止、世論反発で撤回 「西村氏の責任」で幕引き図る政府」
(※3)BuzzFeed Japanによる報道「「なぜ五輪だけ許されるの?」「10万円は再支給?」菅首相の回答は… 4度目の緊急事態宣言で」
(※4)読売新聞による報道「【独自】都民の「外出自粛率」どんどん低下、流行前と同程度に…目立つ10~20代」
(※5)首相官邸「新型コロナウイルス感染症に関する菅内閣総理大臣記者会見」、テレ朝news「“宣言”延長受け小池都知事「人流抑制が最重要」」
(※6)新型コロナウイルス感染症対策「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言」
(※7)「新型コロナ感染は「飲食店」「オフィス」が多い、緊急事態宣言解除後のビッグデータ分析」
(※8)株式会社東京商工リサーチが6月21日に発表した調査によると、廃業を検討する可能性が「ある」と回答したのは7.1%(9743社中、699社)。業種別に見ると、「宿泊業」は36.8%(38社中、14社)、「その他の生活関連サービス業」は36.2%(58社中、21社)、「飲食店」は33.8%(62社中、21社)、「織物・衣服・ 身の回り品小売業」は29.6%(27社中、8社)だった(株式会社東京商工リサーチ「第16回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査」)
(※9)そのほか、工事計画の見直しなどの影響を受けた建設業は162件、小売店の休業が影響したアパレル関連(製造、販売)は141件、インバウンドの需要消失や旅行・出張の自粛が影響したホテルや旅館の宿泊業は83件。また、飲食料品卸売業は78件、食品製造業は51件と、飲食業界の不振が関連業種に波及していると見られる。(株式会社東京商工リサーチ「「新型コロナウイルス」関連破たん 1,738件【7月2日16:00 現在】」)
(※10)「新型コロナ感染は「飲食店」「オフィス」が多い、緊急事態宣言解除後のビッグデータ分析」
株式会社JX通信社 取締役兼CXO 細野雄紀氏
株式会社JX通信社 取締役兼CXO。2012年に早稲田大学 人間科学部を卒業し、同年4月にJX通信社にジョイン。サッカー・J1リーグに所属する湘南ベルマーレのソーシャルメディア戦略アドバイザーも務めている。Twitterアカウント。
JX通信社はニュース速報アプリ「NewsDigest(iOS/Android)内において、「新型コロナウイルス 日本国内の最新感染状況マップ きょうの新規感染者数、ワクチン接種状況・予測」を公開中だ。
同サービスでは「国内での累計感染者数」「国内での累計接種回」「都道府県別 累計感染者数・死亡者数」「年代別 累計感染者数・死亡者数」「感染事例報告施設 都道府県ごとの比較」「世界各国の累計感染者数」などの情報を視覚的に確認できる。なお、同サービスはこの7月ブランドメッセージを一新した。詳しくはこちら。