オフィスの意味と価値はAIとIoTで創出 緊急事態宣言解除後の新たな働き方とは

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2021年9月30日、同年4月に発出された新型コロナウイルス感染症対策としての緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置が当日をもって全都道府県で解除となった。引き続き3密を避けるための行動が求められる一方で、徐々に出社してオフィスで働く人の数は増えている。

緊急事態宣言下において、リモートワークを実施していた企業は多数あったが、リモートワークならではの課題が浮き彫りになったケースは少なくない。たとえば、コミュニケーション不足に起因する生産性の低下などが挙げられる。

引き続き予断を許さない状況が続くなかで、オフィス(職場)に求められる役割とは何か。今後のオフィスはどうあるべきか。2021年10月に実施したレッジ主催のウェブセミナー「Ledge.ai Webinar」では、「AIとIoTの活用で実現するDXワークプレイス」をテーマに、今後の働き方や次世代型オフィスに必要な要素について、ディスカッションを実施した。

本ウェブセミナーには、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(以下、CTC) マーケティング企画部 主任 菅原 雅之氏、アステリア株式会社 グローバルGravio事業部 事業部長 垂見 智真氏が登壇。本稿では、このセミナーのレポートをお届けする。

これからのビジネスにおける「ハブ」として機能するオフィス

まずCTCの菅原氏は、今後のオフィスの役割の展望ついて話してくれた。

―― 菅原氏
「2018年に成立した『働き方改革関連法』をきっかけに、徐々にリモートワークへの取り組みは進んでいたものの、オフィスに集合して働く働き方が一般的でした。しかし、新型コロナウイルス感染症が拡大したことで状況は一変し、国内企業の多くがリモートワークへの変更を迫られました。リモートワークが進んだことで、オフィスの役割は『捺印』『紙媒体の処理』といった、必要な人が必要な業務のみを行う場所という位置づけに変わったのです。

リモートワークによって、時間を有効活用できたり、息抜きや気分転換がしやすいといったメリットを感じることができた一方で、社内での報告や気軽な相談、また、取引先との折衝が難しくなるなどデメリットも浮き彫りになりました。

2021年10月からは、緊急事態宣言などが解除されたことで、通勤通学の風景はコロナ前に近づいており、“オフィスへの回帰”が進みつつあるように感じています。

CTCでは、オフィスの役割がコロナ前と同様に戻ることはないと思っていますが、オフィス自体が不要になることもないとも考えています。

これからのオフィスは、関係者が集まるリアルでのコミュニケーションを行うための専用の場所であると共に、情報共有や情報発信をするなど、いわゆる司令塔のような用途になると予想しています」


それでは、これからのオフィスにはどのようなことが求められるのか。

―― 菅原氏
「次世代型オフィスは、ビジネスにおけるハブとしての機能が求められるようになるでしょう。

これまで、オフィスに必要とされる要素は『快適性(健康性)』『安全性』『利便性』と言われてきましたが、次世代型オフィスではそれに加えコミュニケーションを活性化する『共創力』、関係者に対してリアルタイムかつ適切に情報を伝える『発信力』、そしてこれらの要素を融合し環境変化に応じて機能の追加や変更が可能な『拡張性』を備える必要があると考えています」

次世代型オフィスに新たに求められる共創力や発信力、拡張性を実現するために、CTCが解のひとつとして提案するのがAI搭載電子ホワイトボード「IdeaHub」と、アステリア社のIoTデータ活用基盤「Gravio」を活用したICT基盤だ。

―― 菅原氏
「快適かつ安全なオフィスを実現するには、各種センサーやカメラ、マイクなどの入力デバイスによって、オフィス内のあらゆるデータを取得できるような環境整備が必要です。更に双方向でのリアルタイムな情報共有と情報発信を可能にすることで、コミュニケーションを活性化し、オフィスワークとリモートワークを併用するハイブリッドな働き方に置いても、業務効率化と生産性の向上を実現させます。

CTC社内では『IdeaHub』と『Gravio』を組み合わせによる試験的な取り組みを実施しています。オフィスの温度やCO2濃度をIdeaHubに投影することで可視化すると共に、会議室や執務スペースの空き状況をセンサーで検知し、IdeaHub上のフロアマップに表示することにより、オフィスに出勤した従業員が、空いているスペースを見つけて密を避けて安全・快適に業務に取り組めるようにしています。また、郵便ロッカー内の書類量をセンサーで計測し、一定量がたまったら担当者に通知することで業務の効率化を図る等の取り組みも行っています」



そして菅原氏は「次世代型オフィスは、人と人、人と情報をつなぐリアルな空間に進化する」とまとめる。

―― 菅原氏
「新型コロナウイルス感染症の蔓延が落ち着くと、完全リモートワークの企業は減少していくでしょう。そのため、ハイブリッドな働き方が拡大するのではないでしょうか。

ハイブリッドな働き方を実現する次世代型オフィスは、リアルなコミュニケーションと情報発信の場所になり、人と人はもちろん、人と情報をつなげるリアルな空間に進化すると思われます。

先ほどお話したように、次世代型オフィスは、共創力と発信力が加わり、コミュニケーション活性化を促進する役目を担います。これを実現するために、AIやIoTの活用を進める必要があるのです。そのため、次世代型オフィスには、拡張性の高いビジネスハブとしてのICT基盤の整備が必要だと考えています」

これからはオフィスならではの「強み」が求められる

続いて、アステリアの垂見氏からのプレゼンに移った。

アステリアでは、データ連携ツール国内シェア No.1の「ASTERIA Warp」、モバイルアプリ作成ツール「Platio」をはじめとする、企業・組織内外のさまざまなデータを「つなぐ」 ソフトウェアやサービスを提供している。そのなかで次世代型オフィスを実現させるために期待されているのは、CTC 菅原氏の話のなかで上がった「Gravio」だ。

Gravioの説明の前に、まずアステリア社内でのテレワークに関する取り組みが明かされた。

―― 垂見氏
「アステリアでは2020年1月末から全社員を対象にテレワークを推奨しています。テレワークを実施する期間が経過することで、半数以上の社員の生産性が向上したことが、社内アンケートで明らかになりました。

アステリアでは、マーケティングや営業活動の93%を現在はオンライン化しており、セミナーやイベントにいたっては100%すべてオンラインにしています。

また、日本オフィスは2021年11月に移転しましたが、もともとのオフィスから大きく変更し、個人のデスクは撤廃、会議室は1/6に、床面積は1/4にし、オフィスの在り方自体を変えています。

これからのオフィスは、菅原さんのお話と同じく『ハイブリッドな働き方』が求められると私も考えています。新規感染者が大幅に減ったことにより、オフィス出社に戻る企業も増えることでしょう。ただ同時に、オフィスに出社しなくても仕事ができる、と考える人もいるなかで、次世代型オフィスでは『出社することのメリット』を考えていく必要があります。

これからのオフィスは、高い生産性を実現する場所へと変化しなければいけません」


そこでアステリアでは、カメラAIを活用し、出社している社員の人数や氏名を通知、センサーでCO2濃度などの作業環境を監視することで、安心・3密防止に取り組むなど、空間の「快適性」を担保しているそうだ。そして、次世代型オフィスに求められる快適性の担保などのために使っているのが「Gravio」だという。

―― 垂見氏
「Gravioは、IoTセンサーやカメラAIのどちらも利用可能なエッジウェアです。エッジ側でさまざまなデータをどんどん取得し、AIやIoTの目線で現場からDXを簡単に実現できます。

Gravioではさまざまなデータを取るためのセンサーを用意しています。取得したい項目に合わせてソリューションそのものを選ぶ必要もありません。CTC経由でGravioをお申し込みいただければ、すべてお貸出ししますので、やりたいことに応じてセンサーを選ぶだけ、という形になります。

Gravioで取得したデータは、各種クラウドサービスへ送出したり、エッジ環境で利用したりできるので、 お客様はデータの使い方を考えるだけです。しかも、これらはすべてノーコードで使えます」


プログラミング不要で使えるGravioは、生産管理、総務部をはじめ経営企画、営業企画 など、IT部門の担当者ではなく、課題を抱える非エンジニアの現場主導で使われることが多いという。

―― 垂見氏
「Gravioの設定は3つのステップだけで終わります。センサーをつなげて、アクションと呼ばれる実行プログラムを設定し、トリガーと呼ばれる条件を設定します。設定を行うことで、ライトの制御や管理者へのアラート通知、BIツールとの連携を行うことができます。

今日紹介する、スマートオフィスを実現した企業では、それぞれ設置・設定した方はIT部署ではなく現場の担当者様です。

軽井沢でサードプレイスオフィスの建築を展開されているフォレストコーポレーション様では、毎日温湿度を従業員の方が朝昼晩、計測していました。Gravioを使うことで、計測を自動化し、業務を効率化させています。

また、レノボ様では、11室ある会議室の在室/空室状況、温湿度、CO2濃度の各種情報をセンサーを活用して可視化されています。また、会議室で何らかのトラブルなどがあった際には、ボタンを押すだけで受け付けの方に来てもらうなどの仕組みを実装していただきました。現在では、AIの顔認証などにも取り組まれています」

最後に、垂見氏は「Gravioで取得したデータをもとに、みなさまのビジネスを最適化していただける」と話す。

―― 垂見氏
「AIやIoTを活用したワークプレイスでは、どのデータが各会社での次世代型オフィスに適しているか。これを見極めていただくために、Gravioを使っていただければと思います。

Gravioで取得したデータでみなさまのビジネスを最適化いただく、もしくは新しい働き方にシフトしてもらうなど、次世代型オフィスを考える上でお役立てできるのではないか、と考えています」

まずはコミュニケーションを高める取り組みを考える

パネルディスカッションでは2つの話題について、登壇者で話をした。

最初に、両社に対して「コロナ禍での働き方は、実際どのようなものだったのか」を聞いた。

―― 菅原氏
「CTCでは2016年からリモートワークのインフラを整えていました。そのため、最初に発令された緊急事態宣言において、大きな混乱もなくリモートワークに移行できました。

ただ、リモートワークを進めていく中で『コミュニケーション』への課題を感じました。リモートワークでのコミュニケーションは、どうしても得意な人とそうではない人に差が出てしまいます。各現場では、毎日朝礼の時間を作って(オンラインで)顔を合わせるなど、それぞれが工夫して取り組みましたが、やはり限界はあるなと……。この観点からも、オフィスはコミュニケーションを高めるための場にする必要があると感じました。

CTCでは現在、IdeaHubとGravioを組み合わせたものを社内のフリースペースに配置しています。オフィスでのコミュニケーション活性化を更に促すため、手軽にディスカッションができる場を整えました。簡単に移動できるので、単なる休憩場所をそのままディスカッションの場へと早変わりさせることができます」

―― 垂見氏
「アステリアは意外とストレスなくほとんどの業務をリモートにシフトできました。

実はアステリアでは4,5年前から『猛暑テレワーク』『豪雪テレワーク』などとして、何度もテレワークを実施していました。これらによって地力が養われたのかもしれませんが、今回の全社員対象のリモートワークへの移行も問題なくできたと感じています。

ただ、菅原さんがおっしゃるように、コミュニケーション不足は感じているのが正直なところです。そのため、Face to Faceを実現できる場はあったほうが良いでしょう」

本セミナーの最後に、「これから次世代型オフィスを検討する企業は、まず何から始めればいいのか」と質問が投げられた。

―― 菅原氏
「まずは、コミュニケーションを活性化するために、どのような取り組みが必要かを考えることがその第一歩になると思います。オフィスを移転するとか、設備を大きく変える必要はなく、できるところから始めることが重要です。

忘れてはいけないのは、いつでも/どこでも作業ができるという一方で、不正侵入や情報漏洩を防ぐためのセキュリティも重要になります。また、次世代型オフィスではネットワーク上を流れるデータ量が爆発的に増加することが予想されるため、ネットワークを支えるインフラを整備することも視野にいれておくべきでしょう」

―― 垂見氏
「ハイブリッドな働き方を実現するために、次世代型オフィスについては、まずはCTCや我々アステリアにまず相談いただきたいと思っています。

私たち両社では、IdeaHubやGravioといった製品を扱っているため、さまざまな企業での取り組み事例や成功させた話などをもっています。

アステリアではDXを成功させた事例集などを公開しているため、まずはさまざまな情報を見たり聞いたりして手に入れてもらい、『これなら自社に合うかも』といったものを見つけてもらうことからはじめていただきたいです」

登壇者

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 マーケティング企画部 主任
菅原 雅之氏

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社にて、AI・IoTソリューション企画推進業務を担当。大学卒業後、ソフトウェア企業にてアプリケーション開発に従事。2000年、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社入社、アプリケーションエンジニア、プロジェクトマネージャ、コンサルタントとして様々なプロジェクトや推進業務を担当。2021年より現職。

アステリア株式会社 グローバルGravio事業部 事業部長
垂見 智真氏

アステリア株式会社にてAI・IoTミドルウェア製品「Gravio」事業を統括。大学卒業後、産業機器およびコンピューター関連外資系企業にてエンタープライズ向けのセールス、およびマーケティング活動に従事、各種トレーニングやセミナーの講師などを含む、様々なプロジェクトや製品の展開を担当。2015年にアステリア株式会社に入社、基幹製品であるASTERIA Warpのマーケティングをリード、のち2018年より現職。


Gravio関するお問い合わせ先gravio-sales@ctc-g.co.jp