AIでクリエイターを取り巻く環境はどう変わる? ── CAとPARTYが科学するクリエイティブ・プロセス

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Adobe Maxなどで注目を浴びる、AIとクリエイティブの関係。2018年7月にインターネット総合企業サイバーエージェントとクリエイティブ集団PARTYが合弁会社CYPARを設立したのは、まさしく時代を反映する現象と言えるでしょう。

今日、AIがクリエイティブプロセスを楽にすると騒がれています。しかし今回の取材を通して感じたのは、AIのクリエイティブへの浸透は、必ずしもすべての人にとってハッピーな現象ではないということ。

今回は、CYPAR立ち上げの経緯や構想と共に、AIがクリエイティブ分野でどのように活躍していくのか、クリエイターのあり方はどう変わるのか、話を伺いました。

中橋 敦氏
Chief Experience Officer
株式会社サイバーエージェント ブランド・クリエイティブ部門 クリエイティブ ディレクター/第3局 局長。2008年サイバーエージェント入社後、営業を経てクリエイティブ・プランナーへ転籍。2018年より現職。デジタルとフィジカルの融合をテーマとした企画、クリエイティブ開発を得意とする。ブレーン「いま一緒に仕事をしたいU35クリエーター」の一人に選出。 2016年からデジタルハリウッド大学・大学院非常勤講師(講義テーマ:テクノロジー&コミュニケーション)


中村 大祐氏
Chief Marketing Officer
PARTY Creative Director。2011年、PARTYに設立メンバーとして参加後、デジタル・映像・イベントなど、様々なプロジェクトにテクニカルディレクター / プログラマーとして携わる。 2017年7月より現職。消費者のモチベーションをデザインしたデジタルプロモーション・ブランディング・サービス開発により、企業やブランドの課題を解決することを得意とする。

AIとクリエイターの共存を唱えるCYPARの設立背景

――CYPARの立ち上げ経緯について教えてください。

――中村
「PARTYは『未来の体験を創造して社会にインストールする』を理念に掲げ、多岐にわたる分野でクリエイティブを活かしています。その立ち位置の中で、AI技術の発展は決して見逃せませんでした」

一方で、PARTYはクリエイティブ分野での実績はありますが、在籍するAIエンジニアは多くありません。そこで、AIをクリエイティブに活かすことができるパートナーとしてサイバーエージェントを選んだのだそう。

AI技術の発展によって、今までSFでしかありえなかった世界も日常的に体験できるようになりました。PARTYが得意とするクリエイティブにAIを掛け合わせれば、未来の体験をユーザーの心に響く形で提供できると考えたんですね。

――サイバーエージェントの視点からはどうでしょうか?

――中橋
「サイバーエージェントはインターネット広告で培った技術は豊富にあります。しかしそれだけでは真にユーザーにパーソナライズされた、複雑でリッチな体験は提供できないと考えていました。

人の心にグサッと刺さるクリエイティブを一緒に作れるパートナーを探していたとき、PARTYに出会ったんです」

サイバーエージェントはAIを活用した広告配信技術を研究するAI Labなど、AI領域にかなり力をいれています。一方、幅広い領域でクリエイティブの実績を残してきたPARTY。思惑の一致した両社の共闘は、今まさに始まったばかりです。

AIでクリエイターの思考プロセスを紐解き、限界を解放する

――CYPARのホームページには「クリエイティブプロセスにAIを取り込む」とありますが、そもそも現在のクリエイティブプロセスの課題点とはなんでしょうか?

――中村
「クリエイターの課題解決の仕方は、自身の思考や成功体験を色濃く反映しています。だから事例を見るだけでどんな人が作ったか推測できる。経験と共にクリエイターの色がコンテンツに現れるんです」

クリエイターの実力は経験を積むことによって磨かれる反面、まさにその経験に囚われ、新しいものを生み出せなくなる悪い面もあるといいます。

クリエイターのスタイルが時代にマッチしているときはいいが、マッチせず世に受け入れられないとき。そのとき、過去の成功体験に囚われてしまうのだといいます。

――中村
「この問題を解決するには、『どのような体験がトリガーとなってインスピレーションが生まれているのか?』『そもそもクリエイターはどのようにコンテンツを作っているのか?』などの、クリエイティブにおける思考プロセスを掘り下げる必要があります」

クリエイターの思考を掘り下げるため、CYPARは多くのクリエイターにヒアリングを重ねているそう。クリエイターの思考プロセスを解き明かすことで、どのようなサポートが必要か、どこにAIを利用できるかを探っています。

人によってアイディアが湧く状況は、ランニング中や、音楽に浸っているときなど多種多様。クリエイターのインスピレーションを生むトリガーを探ることで、AIが活用できる場所を見つけられる、と中村氏は語ります。

――中村
「良いアイディアが浮かばずに行き詰まるのはクリエイティブの仕事をしているとよくあること。クリエイターが行き詰まったとき、AIで違うアイディアの方向性を提案できるのではないかと思っています」

――中橋
「一方で、現実的にクリエイティブプロセスの課題として挙げられるのは、納期とコストによる制限です。どんな企画にも必ず締め切りがあり、制限された中で成果を挙げなければいけません。

デザインや表現などのエグゼキューションに近い分野は、他のツールで代替できるようになってきているので、クリエイターは人間にしかできないアイディエーション、インスピレーションに力を注ぎ、そこにAIを活用していくことで、より良いクリエイティブを作っていきたいですね」

レベルに大きな乖離が起きる。AIで変わるクリエイター像

――AIがクリエイティブ領域に浸透することでクリエイターの立ち位置はどう変わっていくのでしょうか。

――中村
「AI技術によってクリエイティブツールがより一層便利になり、一般の人もクリエイティブな活動に構えることなく取り組めるようになるでしょう。今まで以上に、他とは違うレベルの高いクリエイティブをどう作るかが重要になります。クリエイティブツールでもできることをわざわざ依頼するクライアントは減るでしょう」

――中橋
「仕事を奪われる側にならないためには、個々の課題を自分なりに解釈し、圧倒的にユニークな視点を持つ必要があります。そこで有用なのは『スラッシャー』として、複数のジャンルを跨ぎながら、別のジャンルから得た知見を自身の思考に取り込んでいくこと

SNSで自分の肩書をスラッシュで区切る人たちになぞらえ、ひとつの仕事にこだわらず複数の肩書きを持って働く人たちを「スラッシャー」と呼びます。

昨今では映画監督兼芸人や、経営者兼スポーツ選手など、スラッシャーとして活躍する人は数多くいます。時代の流れとしても、ひとつのことにまっすぐ取り組むことが当たり前だった時代に比べ、自らの枠を横断して生きる人は増えてきている印象。

独自の視点をアウトプットに反映させることが求められるクリエイティブの分野でも、スラッシャーとして培われる個性は活きるはずです。

――中村
「AIの提案を適切に“選ぶ”には、クリエイターの審美眼が必要です。しかし、作業だけをしているとクリエイティブがクライアントの意図に沿っているのか、意図した通りの印象を与えられるのかを判断する目を持てません。

AIがアイディアを提案するといっても、結局はそれを選ぶ目を持つ必要があります。そのためには、大量にアイディアの提案や選択、推敲をした経験が必要になる。

結局、生き残るためには、複数の分野を横断できる存在になるか、ひとつの分野で圧倒的な専門性を持つ存在になるか。これに尽きます」

クリエイターが生き残るためには、得意分野で突き抜けるか、スラッシャーになるかの二つに一つ。AIが仕事を代行するといっても、その意味は人によって大きな差がありそうです。

CYPARが目指す「クリエイティブ × AI」のハブとしての機能

――今後、CYPARはどのような機能を持っていくのでしょうか?

――中村
「現在はクリエイターへのR&Dをベースに活動していますが、今後はクリエイティブ×AIのハブとしての機能を拡充していきます。ここでいうクリエイティブとは、広告に限らず音楽や建築、アートなどさまざまです。

すべてのクリエイティブの根幹は一緒であり、インターフェースが違うだけ。クリエイティブと名のつく多岐にわたる分野で活動していきます」

今回のインタビューを通して、クリエイティブにAIが浸透する未来予想図と、必要とされるであろうクリエイター像が見えてきました。

今後、クリエイティブ分野ではテクノロジーとの共存は不可欠。AIが人間の仕事を代行し、人間は人間にしかできないことを追求する中で、クリエイターは他人が持たない独自の視点を磨く必要があります。

AIがクリエイティブツールを便利に作り変え、クリエイターはより「創造」に力を注ぐことができるようになる。それに伴って個人の実力がより問われ、一層の実力主義になっていく。それがいいのか悪いのか、判断を下すにはまだ早いですが、現代に生きるクリエイターにとって見逃せない話でした。