2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出ゼロ)実現に向け、多くの企業が脱炭素への取り組みを進めている。そんな中、株式会社DATAFLUCTは、決済データや移動データなどから商品やサービスのCO2排出量・削減量を総合的に計算して表示し、サステナブルな購買と暮らしを支援するプラットフォーム「becoz」を発表した。
今年6月には、個人向けサービスの第一弾として、自身のCO2排出量を可視化しカーボンオフセットができる「becoz wallet」を公開した。「becoz wallet」の特徴は、国内大手クレジットカード会社の株式会社クレディセゾンとタッグを組んで発行するクレジットカード「SAISON CARD Digital for becoz(通称becoz card)」と連携できることだ。決済データを活用してCO2排出量を可視化できるサービスは、「becoz wallet」と「becoz card」が“日本初”の取り組みだという。
DATAFLUCTが「“環境価値”可視化事業」と呼ぶ「becoz」とはどのようなものなのか。そして「becoz wallet」で目指す、個人の行動変容とは? また、クレディセゾンはなぜ、現代の企業にとって最重要な課題である脱炭素に向けた取り組みを、データビジネスの新鋭であるDATAFLUCTと進めようと考えたのか。
DATAFLUCTとクレディセゾン、両担当者の生の声を交えながら解き明かしていく。
日本のカーボンニュートラルに向けた取り組みは、個人でできることが少ないという課題の解決に向けて
becozは、DATAFLUCTが「個人の環境保全意識が高まる一方で、自身の行動による環境への負荷を把握し、実際に行動を変えたいと思った際にサポートするサービスがない」という課題に着目したことから開発された。同社は2021年7月に、スウェーデンのインパクトテック企業Doconomy(ドコノミー)と提携契約を締結し、「消費活動×カーボンニュートラル」をテーマにした事業をスタートした。
現在、国内のカーボンニュートラルに向けた取り組みの多くは、企業や自治体などの組織が主体となり、進められている。中でも、再生可能エネルギーの推進や電気自動車の普及など、エネルギーと関連した取り組みに注目が集まっている状況だ。
DATAFLUCTによれば、becozのテーマとなっているキーワード「環境価値」の定義も、「CO2を排出しない再生可能エネルギーが持つ価値という捉えられ方が一般的」だという。
becozはこうした現状を打破し、生活者を含めたあらゆるステークホルダーが、カーボンニュートラルに向けた取り組みに参加していくためのプラットフォームだ。becozにおける「環境価値」とは「CO2削減に貢献していることで生じる価値を可視化したもの」。そこで、CO2排出削減量のみならず、取引可能な形にされたカーボンクレジット(※1)、プラスチックの消費削減量、水使用削減量なども、“地球のサステナビリティを担保するための、モノやコトが有する価値”と捉えて可視化。生活者一人一人の暮らしの中に、サステナブルな生活に向けた新しい選択肢を提示することを目指している。
※1 :カーボンクレジット
CO2排出量の見通し(ベースライン)に対して、実際の排出量が下回った場合、その差分をMRV(モニタリング・レポート・検証)を経てクレジットとして認証するもの。
CO2排出量は個人で可視化・削減する時代へ!
「becoz wallet」はカーボンニュートラル実現に向けた画期的なサービス
2022年6月に公開された「becoz wallet」は、becoz事業の中で第一弾となる個人向けサービスだ。ライフスタイルに関わる質問に回答することで、個人のCO2排出量を計算して可視化する、いわば「CO2版家計簿」だ。このサービスを利用すれば、生活者ひとりひとりが主体的に、自身のCO2排出量を管理・削減・オフセットできる。
機能は大きく分けて2つあり、1つめは「現状を知る」機能。各自の生活から排出されるCO2の量と、それが「1.5度目標(※2)」を満たすための排出枠からどれくらい超過、または削減しているかを把握できる。
2つめは「行動する」機能。支援先を選んでカーボンオフセット(※3)を実施する形で、生活者が主体的に自分のCO2排出量を管理・削減することが可能だ。
※2 :1.5度目標
2015年のパリ協定で最初に提唱され、2021年の気候変動枠組条約締約国会議(COP26)で採択された、「産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑える努力を追求する」という目標。
※3 :カーボンオフセット
CO2削減努力をしたうえで、どうしても排出されてしまう温室効果ガスの排出量を、他の場所で行われる吸収・削減活動に参加することで相殺する考え方。
8月に公開されたアップデート版では、「SAISON CARD Digital for becoz(becoz card)」と連携することで、クレジットカードの決済データにもとづき、より精緻なCO2排出量を算出できるようになった。
個人のCO2排出量のデータ化は、ユーザーが自身のライフスタイルを見直すきっかけとなるのはもちろん、カーボンニュートラルを目指す企業にとっても活用の可能性がある。
なぜなら、企業が「Scope3(※4)」といわれるサプライチェーン排出量(販売した製品の使用や販売した製品の廃棄等)や、個人の活動(出張、雇用者の通勤等)による排出量をより正確に把握できるからだ。推計値ではなく、実際のデータを活用することで、雇用者に削減努力を促す場合や、企業側で評価するときの指標にしやすくなる。
※4 :Scope3
事業活動に関係するあらゆる排出を合計した「サプライチェーン排出量」の段階の1つ。Scope1は事業者自らの活動による直接排出。Scope2は他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出。Scope3はScope1・2以外の間接排出を指し、Scope3の中で、その対象が15のカテゴリーに分けられている。
具体的な数値をもって、生活者の購買行動がカーボンニュートラル前提としたものへとシフトすれば、企業の取り組みもさらに加速していくだろう。
個人によるCO2排出量の可視化と削減活動の推進は、脱炭素社会の実現に向けて大きな可能性をもつが、実際のデータ化には課題も多かった。たとえば、クレジットカードの決済データは、クレジットカード会社によってデータの項目が異なる場合や、コード体系が整理されていない場合があり、請求以外の新規事業等で活用する際に、大きな業務負荷がかかる。
「becoz wallet」の開発は、非構造化データを含む多様なデータの活用を実現してきたDATAFLUCTと、クレジットカードの決済データが全般的に整理され、CO2排出量の算出に使用するコードが広く網羅されていたクレディセゾンがタッグを組むことで実現した。
利用の流れは非常にシンプルだ。
カード連携時のTOP画面のイメージ
まず、「becoz wallet」と連携された「becoz card」で買い物をすると、その購買活動によって排出されたCO2の量が表示される。月ごとの合計値や「1.5度目標」に対する超過・削減量のほか、「日用品・生活サービス」や「ファッション」といったカテゴリーごとに、先月からの増減の比較も可能。
「becoz card」の利用明細一覧および各明細の詳細画面
また、詳細画面では分類されているカテゴリーの変更や、内容の記入、利用明細ごとに、カーボンオフセットの対象とするCO2排出量の集計に含めるか、含めないかを自由に選ぶことができる。
カレンダー表示のイメージ
さらに、カレンダー上にCO2の発生日を表示できるため、どのタイミングでCO2排出量が増えたか視覚的に把握しやすく、自身の行動を振り返り、見直しやすいデザインになっている。
DATAFLUCT インパクトテック事業本部 吉岡詩織氏
DATAFLUCTでbecozの開発を担当したインパクトテック事業本部 吉岡詩織氏は、クレディセゾンとの協業について以下のように語る。
そういったシステム知見を持つカード会社は他になく、通常は1~2年程度かかる開発が非常にスピーディーに進んだのは、クレディセゾンさんとのタッグだからこそと感じています。また、クレディセゾンさんでは開発を進めるにあたっての社内合意がうまく取れないことがあっても、現場からしっかり話を通していただき、事業を継続していただける仕組みとパワフルさがありました。会社の姿勢もシステムに対する考え方も素晴らしく、力をいただけました。
「短期間での開発実現にDATAFULUCTの存在は不可欠」クレディセゾン担当者が語る協業実現の決め手
株式会社クレディセゾン 財務経理部部長 田中裕明氏
では、クレディセゾンは、DATAFLUCTのどういった点に魅力を感じて協業を決めたのか。
同事業を担当したクレディセゾン 財務経理部部長 田中裕明氏によれば、このタッグはまずクレディセゾンがDATAFLUCTの取り組みに興味を持ち、企画提案をしたことがきっかけで始まったという。
共同事業に向けた田中氏の“熱”とパワーはDATAFLUCT側に伝わり、サービス開発の原動力となった。一方で田中氏もDATAFLUCTの持つノウハウやアイデア、スピード感と熱量が協業推進の決め手だったと語る。
また、吉岡さんと話をしていると、本当に朝から晩まで脱炭素問題やbecozについて考えていることがよくわかります。たとえば、海外のカーボンオフセットサービスを参考にしつつ、それを日本の生活スタイルに合わせるにはどうすればいいか。私も自分なりに検討やリサーチを進めていたのですが、吉岡さんのアイデアは、私が思い描いてた以上に深くて、驚かされました。
クレジットカードを利用した生活者による「脱炭素」推進事業は、日本で初めての取り組みとして発表された。その実現においてDATAFLUCTと組んだ意義を、田中氏は次のように語る。
「企業の対策+個人の活動」がカーボンニュートラル加速のカギ。データの力で支援していく
DATAFLUCTはbecozだけでなく、スマートシティ実現に向けたソリューション「TOWNEAR(タウニア)」を活用した環境価値の創出、および気候変動対策への取り組みも推進している。
2022年6月には、ブロックチェーンを用いたサービスや事業領域に強みを持つIT企業の株式会社chaintope(チェーントープ)と環境価値創出事業に関するパートナーシップに合意。becozと、chaintopeが開発した独自のブロックチェーン「Tapyrus(タピルス)」(※5)を組み合わせ、地方自治体・公共事業向けの環境価値創出プラットフォーム組成に取り組むことを発表した。
※5:Tapyrus
従来のパブリックブロックチェーンが抱えるガバナンス問題を解消した上で、誰でも自由に参加可能なchaintopeオリジナルのブロックチェーン。
同事業では、省電力やエネルギーマネジメント効率化などで創出された環境価値を、becozの可視化・定量化アルゴリズムを利用して換算。それらをChaintopeが持つブロックチェーン技術によって証書化。改ざん不可能な証書として受け渡しを可能にすることで、個人間や、自治体と公共事業主間など、さまざまなステークホルダー間で環境価値をやり取りできるようになることを目指しているという。(詳細はプレスリリースを参照。https://datafluct.com/release/2268/)
また、2022年7月には、衛星データ分析による水田マッピングおよび稲作状況を推定するアルゴリズムを開発したことを発表。気候変動の一因であるメタンガス排出の中でも「水田由来の排出」に着目し、水田の分布や状況を正確にモニタリングすることで、排出量削減に貢献することを目指している。
生活者、企業、自治体、国立研究団体など、あらゆるステークホルダーへのサービス提供、働きかけを通して、カーボンニュートラルや環境保全に向けた画期的な取り組みを進めるDATAFLUCT。同社の次なる一手に今後も期待が高まる。