株式会社DATAFLUCTは、7月21日、衛星データ分析による水田モニタリングに取り組んでいることを発表した。プロジェクトのフェーズ2として、新たに「広範囲かつ高分解能の水田マッピング」および「稲作状況を推定するアルゴリズム」を開発したとのこと。
本プロジェクトの一部は、国立研究開発法人 国立環境研究所の依頼を受けて実装を進めるもので、気候変動の一因であるメタンガス排出の中でも「水田由来の排出」に着目し、水田の分布や状況を正確にモニタリングすることで、排出量の削減に貢献することをめざすという。
DATAFLUCTでは、本プロジェクトを通して開発した技術をスマートシティ関連のデータ活用事業でも応用するとのこと。
プロジェクトの背景:温室効果ガス「メタン」の排出源である水田
メタンは二酸化炭素に次ぐ地球温暖化への影響が大きい温室効果ガスであり、その吸収・排出量を正確に把握することが求められている。
アジアでは今後も人口が増加し、主食となる米を生産するための水田も増加する可能性があり、国立環境研究所は、地球温暖化問題への取り組みの一環として、水田からのメタン排出の高精度予測、およびメタン排出の緩和に関する研究を進めている。
しかし、従来の統計データをもとにした分析では、マッピングのメッシュが粗いことや、広範囲のモニタリングができないことが課題だった。また、衛星データはそうした課題をクリアできるものの、コストや分析技術のハードルの高さから活用はあまり進んでいなかった。
プロジェクトの概要
本プロジェクトでは、マイクロ波の跳ね返りをもとにする(天候や時間帯に左右されない)「SAR画像」(Sentinel-1衛星およびALOSのデータ)と、光学センサで太陽光を観測し、地上から反射・放射される強度の違いで物体を識別する「光学画像」(Sentinel-2衛星のデータ)を活用し、水田をモニタリング。
フェーズ1では、東南・東アジアの限定地域における水田域抽出を実施。
フェーズ2では、空間分解能250m相当までメッシュを細かくした水田マッピングと、稲作状況を把握するための「稲作カレンダー」を開発。この稲作カレンダーは、時系列の衛星データを活用して稲の生育状態を把握し、移植日と収穫日を推定するというもの。
1.アジアモンスーン地域の広範囲かつ高分解能の水田マッピング技術を開発
稲作が盛んなアジアモンスーン地域は、水田由来のメタン排出の把握において重要な地域。本プロジェクトのフェーズ2では、フェーズ1で開発した水田マッピングのさらなる精緻化と広域化を実施。
入力データとして、移植・収穫時期前後の地表面変化を検知するSAR画像や、地表の植生や水面などに反応する光学画像から計算できる物理変数などを使用。畳み込みニューラルネットワーク(※1)を応用したモデルの推定結果にもとづき、アジアモンスーン地域における空間分解能250m相当の水田マッピングを開発。既存研究やフェーズ1の空間分解能350mと比較し、100m分解能が向上したことで、水田の分布をより正確に把握することができるという。
※1 畳み込みニューラルネットワーク:画像に含まれる物、場所、人を検知するなど、画像解析に有効なディープラーニングの手法の一つ。
2.衛星画像から取得した3種類の時系列データを活用し、稲の移植日と収穫日を推定
本研究で作成した「稲作カレンダー」 (画面左上部は作付け期間のリスト、円グラフはメッシュ内の水田割合、メッシュ上の色は作付け回数を示す)
稲の移植日と収穫日を推定する「稲作カレンダー」は、SAR画像から取得した後方散乱係数(VH)(※2)と、光学画像から取得したEVI(※3)・NDYI(※4)それぞれの時系列データを用いて作成したという。
※2 後方散乱係数(VH):レーダーより照射され、アンテナに戻ってくるマイクロ波の強度。VHは垂直偏波で発信、水平偏波で受信するという意味。
※3 Enhanced Vegetation Index(強調植生指数):植生活性度の指標で、大気中の雲や土壌の影響を受けにくい。
※4 Normalized Difference Yellowness Index(正規化差分黄色指数):稲の生育や収量にとって感度の高い指標。
既存の稲作カレンダーは、統計データなどをもとにした「国単位」のもので、水田由来のメタン排出を推定するためには、より細かいメッシュの水田状況を把握する必要があった。本プロジェクトでは、衛星データを活用することで、メッシュ間隔0.5°×0.5°のより細かい稲作カレンダーを開発。1期作はもちろん、2期作、3期作にも対応した水田管理を推定するアルゴリズムの開発は、これまでにない新しい試みとのこと。
今後の展開
DATAFLUCTでは、本プロジェクトで開発した水田マッピングならびに稲作状況のデータを、持続可能なまちづくりを支援する地理空間情報プラットフォーム「TOWNEAR」内のサービス「TOWNEAR GHG monitoring」に収録し、ユーザー向けに公開。本データは気候シミュレーションのほか、水田管理などを実施する事業者がメタン排出削減に取り組む際の情報として活用できる。
2022〜2023年度は、アジアモンスーン地域にとどまらず、アメリカやヨーロッパなどの水田マッピングならびに稲作状況の推定技術をグローバル展開することをめざすという。
国立環境研究所 地球システム領域 物質循環モデリング・解析研究室 仁科一哉氏のコメント
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