AI・DXは結果を出すフェーズへ。シバタアキラが考えるコロナ禍のAIトレンド

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DataRobot Japanは7月、「DataRobotではじめるビジネスAI入門(外部サイト)」を上梓した。機械学習プラットフォーム「DataRobot」を活用したデータ活用のほか、AIの基礎知識がまとまっている入門書だ。

AIを「ビジネスで使う人」に特化した入門書

本書はAIをビジネスで使うビギナーに特化した入門書だ。本書の冒頭に書いてある対象読者は以下となっている。

  • ビジネスアナリスト:現在Excel、BI、SQLなどを使って簡単なデータ分析をしているビジネスパーソン
  • マネジメント層:「AIで何かやれ」ではなく、最低限のAIの知識を持って技術者と話せる様になりたい中間管理職の方
  • エンジニア:統計分析の素養のあるソフトウェア・ハードエンジニアで、モデル化した後の作業は何かしらのツールに任せたいと考えている方

AI自動化プラットフォームであるDataRobotを使用し、データの加工から機械学習モデルの作成、実際の業務で活用までできるようになることが本書の目的だ。

基本的には本書を開きながらDataRobotを使ってみることがメインとなるが、前提となるAIの知識も冒頭で解説される。前提知識を頭に入れたあとは、DataRobotの試用版と用意されたサンプルデータを使って、簡単なデータ分析にチャレンジできるようになっている。監修のシバタアキラ氏によれば「週末の2時間でAIを体感できる」。

本書の上梓に際し、DataRobot Japanのチーフデータサイエンティストであり、本書の監修でもあるシバタアキラ氏にインタビューを行い、2020年のAIトレンドや、コロナ禍に企業はAIでどう成果を出せばいいかについて話を聞いた。

「とりあえずAI」ではなく、明確な結果が求められるフェーズへ

シバタ氏は機械学習の2020年のトレンドをどう見ているのだろうか。

――シバタ
「大きな話では、プラットフォーム化が進みました。たとえば、すでに画像認識はAutoMLによって、ある程度自動化が可能です。AutoMLは最先端の技術からは離れるかわりに、パッケージ化されていて扱いやすいという性質があります。画像認識がAutoMLでできるということは、すでに画像認識自体がコモディティ化し、最先端ではなくなりつつあるということが言えます。

そこで産業レベルでは、活用できるデータの幅を広げ、組み合わせて分析する、というニーズが出てきました。これまではデータというと数値情報を指してきましたが、現実世界では画像だけでなく、センサー、位置情報などが存在し、なおかつそれが時系列になっているなど、多種多様なデータがあり、またそれらを分析する際の組み合わせは膨大です。そのため、現実のデータを分析する手法として、マルチモーダルAIというキーワードは、今後より重要になってくると思います」

マルチモーダルAI……単一のデータだけでなく、複数の種類のデータを入力として利用するAIのこと

加えて、AI、DXへの投資が成果を求められるフェーズになってきた、とも語る。

――シバタ
とりあえずAI、とりあえずDX、ではなく、明確な結果が求められるフェーズだと思います。これまでは、まずはAI人材を採用しよう、まずはデータを貯めよう、などと叫ばれてきましたが、じゃあどうやって人材を活かせるのか?貯めたデータをどう活用するか?が問われ始めてきました。

実際に人材を雇い、データを貯め、AIにデータを突っ込んで試し、PoCの限られた状況下で結果を出したところで、それが実務に耐えうるかは別の話、ということです。需要予測AIであれば、実際に発注システムにAIを組み込んでみなければ、実運用に耐えうるとは限りません。AIを継続的に使うことの難しさが認識され、MLOpsなども注目されてきています」

MLOps……機械学習モデルを運用するための管理体制

PoCを繰り返して実運用に進めない「PoC貧乏」の、次のステップに進もうとしている企業が試行錯誤している。そんな段階だとシバタ氏は語る。

結果を出すには「データの力をみんなが信じること」

最終的に、AIで成果を出すためには何が重要なファクターになるのだろうか?

――シバタ
「ニール・スティーブンソンの『Anathem』という本に興味深い描写があります。その世界には、時間を刻み続けることを教義とする宗教があって、1秒を担当する人、1時間を担当する人、1ヶ月を担当する人、1年を担当する人というように、役割分担して時を刻むんです。

同じように、AIを継続的に運用していくためには、人が役割を分担する必要がありますが、すべてのシステムを自動化できる場合もあれば、システムの一部を人が入って運用することもあります。どちらにせよ、人が全体のシステムに対して信頼を置いていなければ不可能です」

データサイエンティストだけではなく、プロジェクトに関わる“みんな”がデータの力を信じる必要がある。そうしてはじめて、AI導入は成功に近づく、とシバタ氏は語る。

――シバタ
「人が全体のシステムに信頼を置かなければ、それ自体の価値観が揺らいでしまいます。先程の時間の宗教の例も、”時間”という概念をみんなが信じているからこそ、時間を刻むことが可能になる。AIも同じで、『AIでこの業務がこう効率化され、このようなビジネスインパクトが出る』とみんなが信じることで、はじめて円滑な協力が可能になり、プロジェクトを成功に導けるのだと思います

AI人材の採用も重要だが、一部の人材だけがAIに取り組んでいる状況では、コミュニケーションに齟齬が生まれ、失敗すれば「AIは所詮こんなものか」とプロジェクトが頓挫する可能性もある。たしかに、AI導入に成功している企業は、社内外をうまく巻き込んでいるケースが多い。

一方で、一概にすべての業務を効率化すべきかは考える必要がある、ともいう。

――シバタ
「たとえば、AIによる需要予測を活用して在庫管理をしよう、という話があったとします。たしかに、需要予測で在庫管理を効率化できれば、メーカーの負担は大きく下がるでしょう。

一方で、需要を読むとは、世の中を読むということです。世の中を適切に読むことができるからこそ、ヒットする商品を作れるとすると、世の中に対する審美眼がそのメーカーのコアコンピテンシーだった場合、安易に需要予測を自動化するのが正しいとは限りません。自動化できることと自動化すべき、ということは分けて考えるべきです

コロナ禍で見直される「データの価値」

現在、新型コロナウイルスの情報をニュースで見ない日はない。多くの人が在宅勤務を余儀なくされる中、AI活用を含めたDXの推進は企業にとって喫緊の課題だ。シバタ氏は新型コロナのAIへの影響をどう見ているのか?

――シバタ
「新型コロナウイルスはまだまだわからないことが多く、データを通してしか状況を把握することができません。

DataRobotが取り組んでいるデータサイエンスとは、先が見えない状態でもデータに目を通し、解を見つけ、行動を変えていく営みです。新型コロナウイルスの感染拡大では、多くの人がニュースを通して日々感染者数などのデータに触れるようになり、データの価値を改めて思い知らされるような出来事でした

一方で、データは人によって解釈が分かれるのが常であり、データのソースによっては嘘か本当か判断がつきづらいものもある。フェイクニュースへの対応のように、データをどこまで鵜呑みにしていいのか見極めるリテラシーが求められている、とシバタ氏はいう。

そんなリテラシーを身につけるためにも、今回上梓された「DataRobotではじめるビジネスAI入門」を読んでみるのもいいかもしれない。これまでのAI入門書で、挫折した人にこそ読んでほしい、とシバタ氏はいう。

――シバタ
「すべてのAI初学者がAIを作る技術者になるわけではないので、過度に技術的ではなく、AIを『どう使うかを考える人』向けにわかりやすくAIの前提知識を解説しています。加えてDataRobotのトライアルも使っていただけるので、週末の2時間さえあれば、実際にAIを体験いただけます。

個人的には、体験が一番その人の考え方に影響を与えると思っているので、まずはこの本で、AIを実際に体験してほしい。個人がAIを『簡単に使える』と思えるかどうかが、これからの社会全体のデータ活用の試金石になると思います