ディープラーニングとハードウェアで競う「高専版」マネーの虎──「サイエンスZERO」も密着、開催の裏側

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4月22日〜24日にかけて丸ビルで開催されたグローバルイベント「AI/SUM」は、安倍首相もコメントを寄せ、述べ1万人を超える来場を観測するなど、大盛況のうちに幕を閉じた。

そのなかで、ひときわ熱を帯びたイベントがあった。高専生が、ハードウェアの知識とディープラーニングをかけ合わせたビジネスアイディアで事業性を競うコンテスト「DCON」だ。

全国から選抜された高専8校が集まり、豪華審査員、メンターのもとピッチコンテストを行った。優勝したのは、新潟の長岡高専のチームだ。

Ledge.aiでは、このイベントが開催されるまでの舞台裏に密着。開催までの苦労や、本選当日に至るまでの歩みを追った。

ディープラーニングとハードウェアのビジネス「事業性」を競うDCON

はじめに、DCONとはどのようなイベントなのか振り返っておこう。

DCONは、主に電気、機械系の技術を習得した高専生が、ハードウェアとディープラーニングをかけ合わせた作品によって生み出される事業性を競うコンテストだ。

主催する日本ディープラーニング協会(JDLA)によると、開催の狙いは以下の3つ。

  • ディープラーニングを学んだ人がハードウェアも学ぶには時間がかかるが、その逆は比較的簡易なこと
  • ハードウェアの知識を持つ高専生がディープラーニングを学べば、世界的に見ても貴重な人材となること
  • 全国にある高専発のベンチャーが地元で誕生すれば、地方経済への刺激になること

評価の軸は、技術だけではなく、あくまで「事業」になるかどうか。つまり、その事業でお金を稼げるのかどうかが大きなポイントになる。

書類選考を突破し、AI/SUM内で開催された本選に残ったのは以下の8チームだ。

学校名・チーム名作品名
長岡工業高等専門学校 長岡高専 視覚情報処理研究室モバイル端末による屋内ナビゲーションのための移動交通量推定システム
長岡高等専門学校 長岡高専プレラボチームMETERAI
沼津工業高等専門学校 鄭研究室ドライブレコーダチームディープラーニングによる次世代の運転支援で安心・安全な社会を目指す!
香川高等専門学校 MILab & TEAM ARK送電線点検ロボット
香川高等専門学校 TEAM SKYイノシシ捕獲用罠箱
阿南工業高等専門学校 中山昌孝深層学習を利用した道路状況を表示するサイネージシステム
沖縄工業高等専門学校 Fish learningディープラーニングを用いた美ら海の魅力発信プロジェクト
沖縄工業高等専門学校 bore trackingドローン広域自律飛行システムを用いた動物(イノシシ)の自動発見・自動追跡システム

上記8校にはそれぞれ以下のメンターが付き、本選当日まで発表内容やプレゼンのブラッシュアップをサポートした。それぞれがIT、AI企業の代表を務める、非常に豪華な布陣となっている。

  • 岡田陽介氏(株式会社 ABEJA)
  • 小野裕史氏(インフィニティ・ベンチャーズ LLP)
  • 草野隆史氏(株式会社ブレインパッド)
  • 黒崎俊氏(株式会社プレックス/松尾研究室)
  • 佐藤聡氏(connectome.design 株式会社)
  • 重松路威氏(ニューラルポケット株式会社)
  • 渋谷修太氏(フラー株式会社)
  • 田中邦裕氏(さくらインターネット株式会社)

事業性を評価するため、本選当日は以下のVCのトップが集い、ジャッジを行った。

  • 伊佐山元氏(WiL, LLC)
  • 河合将文氏(DBJ キャピタル株式会社)
  • 川上登福氏(株式会社 IGPI ビジネスアナリティクス&インテリジェンス)
  • 郷治友孝氏(株式会社東京大学エッジキャピタル)
  • 仁木勝雅氏(株式会社ディープコア)

また、作品のどの部分にディープラーニングを活用しているのか、技術的な新規性は何か、精度の信頼性はどの程度かなどを評価する技術審査も実施された。

技術審査のジャッジは東京大学教授でありDCON準備委員会委員長である松尾豊氏、早稲田大学基幹理工学部表現工学科教授の尾形哲也氏が務めた。ともにAI、ロボット分野の第一人者だ。

技術審査は、事前にAI/SUM内で行われた高専生による展示を、ジャッジの2名が見て回り、適宜高専生に質問する形で行われた。

企業価値評価額の高いチームが勝利する

本選の審査は、以下の流れで行われた。

まず、高専生による6分間のプレゼンが行われる。その後、審査員はその時点で投資への興味があるかどうかを○×で示す。

その後、技術講評、質疑応答が行われ、最終的な投資の判断を○×で示す。このとき、投資額についてはまだ決定していない。

全チームのプレゼンが終了後、審査員は、チームを企業と想定した場合の企業価値評価額=バリュエーションと仮想の投資額を決定。バリュエーションがもっとも高いチームが優勝となる。

コンテスト開始前には、WiLの伊佐山氏から高専生に向け、VCから見た投資についての考え方に関するレクチャーが行われた。これによって、高専生はVCから自分たちの作品のどこが評価されるのかが明確になったようだ。

優勝の長岡高専ほか、出場チームを一挙紹介

以下に本選出場チームを獲得順位順に紹介する。

優勝:長岡工業高等専門学校 長岡高専プレラボチーム

作品名:METERAI
企業価値評価額:4億円
投資額:4,000万円
投資希望人数:5名
受賞:最優秀賞、JDLA若手奨励賞、コニカミノルタ賞
製造現場のアナログメーターを、ラズベリーパイに設置したカメラで撮影。AlexNetで画像解析をリアルタイムで画像解析することで、これまで目視で行っていた点検作業や巡視作業を自動化する。

収集したデータをもとに品質改善やコスト削減にもつなげられるという。新潟県の主力産業である食品製造業への展開を目指しており、すでにブルボンなど県内大手企業へ導入が決定している。

2位:香川高等専門学校 MILab & TEAM ARK

作品名:送電線点検ロボット
企業価値評価額:3億円
投資額:3,000万円
投資希望人数:4名
受賞:なし
送電線を滑走し高解像度の画像を撮影できる点検ロボットと、ディープラーニングを活用した送電線異常検出システムを開発(ロボットは四国電力、テクノ・サクセスとの共同開発)。正常な送電線部分のみを学習させることで、損傷箇所を「異常」として検知できる。

危険な点検作業を自動化できるほか、将来的には送電線以外にも道路や線路などさまざまなインフラへの展開も目指す。

3位:沼津工業高等専門学校 鄭研究室ドライブレコーダチーム

作品名:ディープラーニングによる次世代の運転支援で安心・安全な社会を目指す!
企業価値評価額:2億円
投資額:2,000万円
投資希望人数:1名
受賞:SMBC賞
スマートフォンで撮影した動画をもとにドライバーの癖を学習し運転を支援するアプリを開発。将来的には保険会社との連携を目指す。

映像データをもとに道路の老朽化箇所を検知し、交通インフラ維持管理の効率化支援にもつなげる。

4位:沖縄工業高等専門学校 Fish learning

作品名:ディープラーニングを用いた美ら海の魅力発信プロジェクト
企業価値評価額:1億円
投資額:3,000万円
投資希望人数:4名
受賞:なし
沖縄の美ら海を安全に楽しむため、海中の魚の名前をリアルタイムに提供する美ら海ゴーグルを開発。カメラで撮影した映像をディープラーニングを用いて魚を特定、ARデバイスを通じてわかりやすく情報を提供する。

5位:香川高等専門学校 TEAM SKY

作品名:イノシシ捕獲用罠箱
企業価値評価額:5,000万円
投資額:500万円
投資希望人数:1名
受賞:なし
イノシシ捕獲用箱罠にカメラを取り付け、ディープラーニングを用いてイノシシを検知。イノシシを検知するとモーターが駆動し、罠箱の蓋が自動で閉まる。イノシシが捕獲されるとメールで狩猟者に通知されるため、無駄な巡回を減らすなど効率化が期待できる。

6位:長岡工業高等専門学校 長岡高専視覚情報処理研究室

作品名:モバイル端末による移動交通量推定システム
企業価値評価額:500万円
投資額:100万円
投資希望人数:1名
受賞:HEROZ賞
Androidから取得した加速度情報から移動速度を計算し、回転情報と組み合わせることで移動量を推定するシステムを開発。屋内地図ナビゲーションアプリとして空港や駅構内に導入し、ナビゲーション付き広告の展開を目指す。

阿南工業高等専門学校 中山昌孝

作品名:深層学習を利用した道路状況を表示するサイネージシステム
沿道にカメラ付きデジタルサイネージを設置し、交通量データを取得しサイネージに渋滞情報や車種別に広告を出し分け表示させる。広告収入のほか、取得したデータを企業に提供することで収益化を図る。

沖縄工業高等専門学校 bore tracking

作品名:ドローン広域自律飛行システムを用いた動物(イノシシ)の自動発見・自動追跡システム
広域自律飛行ドローンを用いて、イノシシを自動発見・自動追尾するシステムを開発。害獣の生息域・行動パターンを把握することで、効果的な駆除につなげる。イノシシ以外の害獣への応用のほか、子どもや年配者などの見守りへの応用も目指す。

「高専」という存在の大きな可能性

長岡高専プレラボチームはなぜ優勝に至ったのか。

JDLAの提供資料によると、技術審査の尾形氏、松尾氏の両名とも長岡高専プレラボチームに高評価を与えていた。特に尾形氏がほぼ満点に近い数字を付けていたことが印象的だった。

バリュエーションの評価方法は内密だったが、優勝の主な理由としては、以下が挙げられるだろう。

  • IoT化にコストがかかるアナログメーターに着目した、業務効率化のインパクト
  • 基本的な画像認識の手法であるAlexNetをベースに、アルゴリズムに手を加えている着眼点
  • すでにブルボンなど、大手企業への導入が決まっている点

2位の香川高専も、すでに四国電力、テクノ・サクセスとロボットを共同開発していたり、導入先の目処もほかのチームと比較してクリアだったことから事業性が見えたため、2位という順位を獲得したと思われる。技術だけではなく、最終的に「ビジネス」を作る必要があるのがDCONだからだ。

DCON準備委員会の岡田隆太朗氏(JDLA理事/事務局長)にも、今大会を振り返ってもらった。「まずは開催の目的が達成できた」と岡田氏は語る。

――岡田
「DCON開催の背景と狙いである、『高専生のポテンシャルを証明する』という目的が達成できたと思っています。松尾先生もおっしゃっていたとおり、高専生のポテンシャルは極めて高い。それが実証されたイベントにできたなと思います」

一方、まだまだ反省もあるという。

――岡田
「2月にDCONやるよ!と全国の高専に募集をかけ、4月に開催したので、準備がなかなか急ピッチでした(笑)

高専生の作品も、このイベントのためだけに準備したものではなく、もともと高専内でプロジェクトが進んでいたものを出してもらったので、純粋なピッチコンテストだったかと言われるとそうではなかったかなと。改善点は尽きないですね」

たしかに、第0回となる今回、高専生は自分たちの「ありもの」のプロジェクトを出すしかなかった。とはいえ、それでも高専生たちの作品は、プロダクト、プレゼンともにクオリティの高いものだった。

――岡田
「それぞれのチームに対して、メンターに付いてもらったことが大きいですね。メンターにはかなりきっちり高専生たちを鍛えてもらいましたから(笑)

あとは1日目、2日目に丸ビル内で作品の展示を行い、そこでいろいろな人たちに作品についてツッコまれていたので、そこでも高専生たちは鍛えられたのではないでしょうか。

このイベントで、高専生たちはかなり自信が付いたのでは、と見ていて感じました」

DCONは2020年にも開催予定だ。そのときは「よりスケールアップして戻ってくる」と岡田氏は語る。

DCON取材を通して、高専が世界的にも大きな可能性のある人材の宝庫だと強く感じた。松尾氏は閉会式で以下のように語っていた。

――松尾
「今日の審査は非常に短い時間で行われましたが、このバリュエーションと投資額は決して嘘の話ではありません。ファンドのアドバイザーをしていますが、むしろ相場観としては実態を表している。高専生は、自分たちのやっていることに自信を持ち、価値を感じて欲しいと思います」

このイベントで、高専生たちは自信をつけただろう。これまでハードウェアに閉じていた高専が、ディープラーニングという武器を得て、社会に出ていくのが楽しみだ。

なお、DCONの様子はNHK Eテレ「サイエンスZERO」にて8月4日に放送されるので。そちらもぜひ観て欲しい。当日の熱気が感じられるはずだ。

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