【DeNAのAI活用事例まとめ】ゲーム、最適化、需要予測など全社横断した取り組み

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株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)は非常に幅広い事業を手掛けている企業のひとつ。ゲーム、スポーツ、ライブ配信、ヘルスケアまで多岐にわたる。

多様なDeNA事業を支えているのは「AI」だ。同社のAI事業は全社横断の形をとり、各事業を推進するために役立てている。

DeNAのAI事業を語るうえで、特筆すべきは「Kaggle(カグル)」での実績を評価する制度だ。Kaggleとは、世界中のデータサイエンスや機械学習に携わる人向けのプラットフォーム。このKaggle上で開催されるコンペ形式などでの実績に応じて、業務時間中でもKaggleへの参加を認めるなど、さまざまな指標・評価制度のひとつになっている。

本稿ではDeNAのAI事業を取り扱ったLedge.aiの記事をまとめていく。さまざまな分野でAIを利活用しているため、DeNAは多くの企業の参考例になるかもしれない。

スマホアプリ「逆転オセロニア」を支えるAI

まず、DeNAといったらゲーム事業だ。同社の代表作「逆転オセロニア」には、プレイヤーのゲーム体験向上のためふたつの課題に対してAIの技術を活用しているという。

ひとつは、プレイヤーのサポート。プレイヤーが「楽しい!」と思える領域に早く到達してもらうためのモノだ。各プレイヤーがゲームを習熟するためには、練習や慣れが必要。この練習や慣れを手助けする機能をもつようなAIがまずは必要だとしている。

次に、ゲームバランスの調整。例を挙げるならば、新キャラクターをプランナーの意図したバランスで出すことなどに関わる領域。意図しないゲームバランスになってしまうと、ゲーム体験を著しく低下させる恐れがあるため、遊び続けてもらうためにも調整は非常に大事なのだ。

これらの課題を解決するために、プレイヤーが使用するデッキのデータや対戦データを学習させ、デッキのトレンドや、流行している戦略を分析。ゲームが崩壊しないようにバランスを保つ取り組みをしているそうだ。

取材当時、DeNAのチーム内で検証していたAI技術についていくつか例が挙がった。逆転オセロニアでいえば、キャラクターAを使った場合、キャラクターBを使う確率は何%かを分析するなどだ。

細かい検証内容などは、下記の記事で確認いただきたい。実はこのゲームAIがほかの事業でのAI活用にもつながっている。

石炭火力発電所の燃料運用最適化にゲームAIを活用

2019年2月に、DeNAと関西電力は、石炭火力発電所の燃料運用最適化を行うAIソリューションを共同開発し、外販ビジネスに向けて協業を進めることについて基本合意したと発表があった。DeNAはゲームAIに使用される技術でアルゴリズムを開発したのだ。

逆転オセロニアでのゲームAIの例は先に挙げたが、ゲームAIで使われる技術が「燃料運用のスケジューリング作業」という部分で活用された。

従来、石炭火力発電所では、輸送船から受け入れた石炭をサイロという石炭をボイラに送るまでの間、貯蔵する設備で一旦貯蔵する。その後、ポンプやベルトコンベアで石炭をボイラへ送り、高温で燃焼することで水を加熱。高温高圧の蒸気を発生させていく。この蒸気でタービンを高速回転することで、電気が作られるのだ。

しかし、石炭の種類によって混載や混焼ができない等の制約がある。そのため、熟練の技術者が長年の経験やノウハウに基づき、制約を考慮しながら複数のサイロやボイラを運用するスケジュールを作成。状況変化に応じて見直しながら運用していた。

このスケジューリング作業をDeNAが自動化した。ゲームAIに用いられる、「膨大な組み合わせの中から最適なものを探索する」技術を導入し、アルゴリズムを構築したのだ。

その結果、熟練技術者が半日程度を要する燃料運用スケジューリング作業を、わずか数分程度で自動出力し、期間にして4ヶ月先までのスケジュールを自動で作成することが可能になった。

スケジューリングが必要なさまざまな業界で、このアルゴリズムは転用できそうだ。

タクシー乗務員向けにAIで需要と供給を予測する

そして今月12月10日、DeNAが提供するタクシー配車アプリ「MOV」において、乗務員に対して経路をナビゲーションする「お客様探索ナビ」の商用化を開始した。

お客様探索ナビは、カーナビゲーションのように乗務員をリアルタイムかつ個別に客が待つ通りまで誘導するものだ。お客様探索ナビに従って走行するだけで、乗務員は効率的に客を探すことができる。

最大の特徴は、エリアごとの需要予測をするだけではなく、ほかのタクシーの供給量も加味しながら道路単位で最適な経路をレコメンドすること。道に慣れない“新人乗務員”でもすぐに収益を上げることに期待されている。収益性の向上をサポートするため、歩合制に対する不安解消にもつながりそうだ。

AIで各種事業を推進、DeNAが求める「AI人材」とは

今年7月には、メルカリ本社にてトークイベント「日本発のテックカンパニーが考える『AI人材』とは」が開催。パネルディスカッションでは、DeNA、ABEJA、メルカリのAI部門担当者が集結した。

各企業のAIエンジニアの組織体制から、各社が目指す方向性、さらには求めるAI人材像まで大いに語られた。

やはり注目すべきは、各社が求めるAI人材像。ABEJAは「領域にこだわらず、顧客の課題を解決できる人」、メルカリは「業務をジャッジできる『プロダクトマネージャー』」、そしてDeNAは「あくまでサービスに貢献できる人」というように答えた。

DeNAでのAI事業がまとめられている「DeNA×AI」によると、

「DeNAのAI研究開発エンジニアは単に学術的な研究を行うのではなく事業部メンバーと一緒にサービスづくりを行います。DeNAの保有する多数のサービスに対してAI技術を適用し、実サービスの中で“生きた研究開発”を行えることがDeNAのAIの魅力」

と書かれている。定義されたAI技術を研究・開発するだけでなく、価値あるサービスを提供することが軸にある。そのため、本稿冒頭に触れたように、AI事業は全社横断の形をとっていて、さまざまなDeNAの事業でAIチームが活躍しているのだ。

トークイベントでは、求めるAI人材像以外にもさまざまなAIに関わることが語られている。詳しくは記事でチェックしてほしい。