松尾豊さん、国会でデジタル改革に意見「産業全体でDXを進めることは急務」

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『人工知能は人間を超えるか』(KADOKAWA)などの著書でも知られる松尾豊さん(2020年 年頭所感)より

東京大学大学院工学系研究科 教授の松尾豊さんは3月18日、国会の内閣委員会でデジタル庁の創設を柱とした「デジタル改革関連法案」について、AI(人工知能)研究者の立場から参考人として「産業全体でDX、デジタルトランスフォーメーションを進めていくことは急務」など、意見を述べた。

GAFAやBAT躍進の背景は「デジタル技術」

松尾豊さんは、本委員会の冒頭で「GAFA(ガーファ)と呼ばれるGoogle、Apple、Facebook、Amazonといった米国の企業が急成長を遂げています。また、中国ではBAT(バット)、Baidu(バイドゥ)、 Alibaba(アリババ)、Tencent(テンセント)などの企業も躍進を見せています」と、世界の現状を語った。

続けて、「米国の電気自動車の新興企業テスラの時価総額が、日本の全自動車メーカーの(時価総額の)合計を超えました。さらに、米国の5社のテクノロジー企業の合計は、日本の全上場企業の時価総額の合計を越えています。こうした躍進の背景にあるのはデジタル技術です」と話す。

「デジタル技術の社会全体での活用は喫緊の課題」

松尾豊さんは政府の行政サービスにおけるデジタル化について、エストニアを例に挙げた。エストニアでは98%の国民が日本のマイナンバーカードにあたるナショナルIDカードを保有しており、99%の手続きが24時間365日アクセスできるという。松尾豊さんによると、シンガポール、イギリスなどでも、このような先進的な行政のデジタル化の取り組みが進められているとのこと。

「日本でもこうしたデジタル技術の社会全体での活用は喫緊の課題です。日本全体でデジタルを活用していくことで、またデータ、AIを活用していくことで、産業の新たな競争力につなげるとともに、1人1人の生活者の利便性を上げ、安全で安心して暮らしやすい社会につなげていくことができます」

「産業全体でDXを進めることは急務」

産業については「産業全体でDX、デジタルトランスフォーメーションを進めていくことは急務です。デジタルトランスフォーメーションは、デジタル技術を用いて人間の生活のあらゆる面に良い影響を引き起こす。こういった概念です。企業の場合にはデータとデジタル技術を活用し、顧客、社会のニーズをもとに製品サービス、ビジネスモデルを変革する。また、業務そのもの、組織プロセス、企業文化を変革し、効率化や付加価値の向上につなげていくことになります」と話した。

一方で、デジタル化には大きな障害もある。「データの連携は技術的な問題よりも、むしろ法律やルール名での難しさがあります。歴史的に見ると、検索エンジンの開発競争において、実は著作権の許可を得ないままクロールしてきて、インデックスすることが良いのかどうかという議論が2000年ぐらいからずっとありました。グレーな状態で諸外国は技術開発を進め、それがGoogleをはじめ検索エンジンのビジネスに大きくつながっていきました。日本できちんと法律ができたのは2009年の著作権法改正でした」

続けて、松尾豊さんは「このことからもわかるように、日本ではグレーなものをグレーなままやることは企業、国民が好みません。きっちりデータの連携に関しても仕組みづくりを早期に進めておくことが必要だと思います。それによって柔軟な活用を可能にして、将来の可能性をつぶさないような、そういった仕組みを作っていくことは大変重要だと思っています」と主張している。

誰1人取り残さないは「十分に可能」

松尾豊さんはこのような仕組みが整うことは国民にもメリットがあるとし、「誰もが使いやすいUI、UX」が重要になると議論を展開した。ただし、日本の場合はアメリカのように若者をターゲットにABテストを繰り返し実施するのではなく、高齢者や障害を持った人なども利用しやすいようにすべきであると語った。

「日本の場合は、高齢者を含めた幅広い世代の方に合わせてきちんと最適化していくことになると思います。さらに、障害をお持ちの方、デジタル技術に詳しくない方、日本語ネイティブではない方、すべての人が使いやすいように設計していることは重要だと思います。そのために必要な技術も十分成熟しています。誰1人取り残さない、つまりアクセシビリティをきちんと確保した形で進めていくことは十分に可能だと思っています」

「AIに仕事を奪われる」といった議論については、「技術の進化による失業という悲観論が議論される場合もありますが、私は歴史的に見れば、技術は新しい雇用を生み、人々を豊かにするというふうに思っております。ただし、『取り残される人が出ないように』ということは大切で、社会全体で包摂していくことが必要だと思います。そのために、適切な教育、職業訓練をしていくことが必要だと思います」と、同じく多様な人々を尊重する趣を語った。

日本人は個人情報に「アンバランスな一面もある」

さらに、松尾豊さんは「デジタル化にあたって個人情報の関係も非常に重要です」と話し、「個人情報については『守るべき点』と『産業社会全体で活用していく点』。そういう両面のバランスがとても大事だというふうに思っています。日本では過度に個人情報に警戒心が高い一方で、それぞれの人は無料ということで、無料サービスの登録、オプトインを気軽にやってしまうアンバランスな一面もあります」と分析した。

「本来は、自分のデータの価値は非常に高いものだとしっかり理解すべきだと思います。また、社会全体で活用していくことの便益も非常に大きいと理解されるべきだと思っております。そうしたことにもきちんと目を向けて、社会全体で個人情報を適切に管理しながら、配慮しながら、きちんと活用していける仕組みを作ることは重要だというふうに思っております」

松尾豊さんは本委員会の終了後、自身のTwitterアカウントにおいて、「今日、国会でデジタル改革関連法案について参考人として意見を述べました。デジタル改革の動き、デジタル庁の創設が、AIを含めた日本のデジタル活用を大きく進め、産業競争力を高め、また、国民の生活をより便利に豊かにすることを強く願っています」と述べている。

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